お披露目⑶
心機一転、今度こそ勇者のお披露目に集中する。
「よし、レオ!特等席を確保するぞ!」
「えっ!!どうするの?」
大事な事に気付かせてくれたレオへの感謝を込め、今一度、現状を打開する策を考える。
安心してくれ。
もう、一括収納なんて野蛮な方法は取らない。
「俺たちは肝心な事を忘れていた。」
「肝心な事?」
「あぁ、街の人は困ったら誰にお願いする?」
「んーーとね、冒険者!!」
「そうだ!だから、俺たちもお願いすればいいんだ!」
「あー!!そっか!にーちゃん天才だよ!!」
「はははっ!そうだろう、そうだろう。」
俺の天才的な考えを案の定大絶賛するレオの頭をぽんぽんと嗜める。
「え、マジで言ってる?」とツッコミたくなる気持ちも分かる。
だが、この一見穴だらけのように見える作戦も、先程ざっと辺りを見渡した時にピッタリの人材を見つけたから問題ない。
「あそこの最前列にいる冒険者が見えるか?」
レオを肩車して、人垣の最前列にいる特徴的な頭をした奴を指差す。
「見えた!」
「よし、それならその人にお願いしに行こう。冒険者ってのは困っている人を助けるものだからな。きっと俺たちを助けてくれる。」
「そうかな?」
「あぁ、何て言ったってその人はB級冒険者だからな。立派な人に違いない。」
にやっ
——B級冒険者シアベ
以前、冒険者ギルドで想い人である受付嬢アイラと仲良くしている柊を気に入らないとつっかかり、その仕返しで可哀想なくらいにボコボコにされたその人である。
柊に返り討ちにされたとは言え、その実力は確かであり、冒険者ギルドでは有望株でもある。
その妖しく光る紫色の腕輪と優に2メートルはありそうな体躯による威圧感で、最前列に位置するその周囲はお披露目による混み合いなんて感じさせないスペースがあった。
シアベ自身、誰も近づかせないよう特に威圧したわけでもない。
その容貌による効果も多大にあるだろうが、B級冒険者という肩書き。
それだけで、周りは争い事を起こさぬように、虎の尾を踏まないかの如く気を遣うのだ。
そこに、無謀にも子連れのD級冒険者が飛び込む。
「やーやー、失礼、失礼。悪いなー。」
「しつれいしつれいっ!!」
あそこのB級冒険者の遣いだなんだと嘘を言って、馬鹿みたいな人だかりを掻き分けて進む。
レオも俺を真似して楽しそうにしているし、こりゃ楽でいい。
ここだけ切り抜いたら、アトラクションに乗る時のファストパスみたいだな。
なんか周りに悪い気がするが、スペースがあるのに詰めない方が悪いよな?
「よーしっ、ようやく人混みを抜けたな!レオ、大丈夫だったか?」
「うんっ!それよりにーちゃん、すごいよ!あっという間に最前列だ!!」
「あぁ、俺の作戦勝ちだ!」
「あのー、」
「どうだ、レオ!これなら勇者も見れるだろ?」
「うん!ありがと!!!」
「あのっ!!!」
俺とレオが勝利の余韻に浸っていると、まったく見覚えのない気の弱そうなおじさんが大きな声を出して俺たちに怒鳴りつけてくる。
え、今回ばっかりは何もやってないよね?
突然の大声にレオはびっくりして俺のズボンに抱きついてくる。
「なんだよ!こっちは子連れなんだ!大きな声出したら子供がびっくりするだろ!」
「それは、すみません…でも、あまりここでは騒がないで下さい。あまり、あの人を刺激したくないんです。」
俺の言い分も一理あると思ったのか、思いの外素直に謝ってくるおじさん。
そして、スペースの中央…コミケの囲みのように半径5メートル程の空間の中央に位置するモヒカンの巨漢を指差す。
「いや、でもな…別に悪いことしている訳でもないし、これはお祭りみたいなもんだろ?多少はしゃぐのくらい許してくれよ。ずっと楽しみにしてたんだよ。」
そう言って、俺の脚に縋り付くレオの頭を撫でる。
「それは、お察ししますが何卒お願いします。見るならなるべく騒がないように…これは、私共の総意です。」
そう言って、周囲の人々を見渡しながら俺を説得してくる。
確かに周りの連中もウンウンと頷いて、同意を示してくる…中には「何やってんだよ!」とでも言いたげに睨んでくる輩までいた。
「何をそんなに怯えているのか知らんが、俺たちは好きに勇者を見物させてもらう。」
周囲の人々は柊の文言を聞いて同時にこう思った。
(((バカか、こいつは…)))
B級冒険者の強さを知らないのか、世間知らずなのかは知らないが勘弁してくれと。
見えないのかあの盛り上がった筋肉と巨漢が…大きな身体が強さに直結しないなんて事もレベルやスキルが実力の大半を占めるのは分かっている。
だが、あの腕輪を見れば実力は保証されているじゃないか!!
これまで、皆が暗黙の了解で刺激をしないようスペースを作ったのにも関わらず、そこに飛び出すなんてなんの真似だ!
それだけに飽き足らず、ワーキャー叫ぶなんて言語道断。
それも、無謀にも子連れのD級冒険者が如きが!!
言いたい事は山程あるが、あり過ぎて喉元で声が詰まる。
「ンン…!!イイカゲンニシテクダサイッ!!」
おじさんが唸りながら器用に小声で怒鳴ってくる。
んー、なんでそんなに怒ってるのか分かんないけど仕方ない。
ここにはここの特殊な決まりがあるらしい…郷に入ったらたら郷に従えとでも言うのか、俺だけが良ければいいって問題でもないか。
元々アイツには挨拶する気だったしな。
「なんか、よく分かんないけど取り敢えずアイツに許可を取ればいいんだろ?じゃっ」
「あ、いや、ちょっと!!!」
(((おわった…)))
周囲の人々はまたも思考が一致する。
止めるより前にそそくさとB級冒険者の元へ向かってしまった。
これで、巻き添えをくらうかもしれないと考えると身体が震え出す。
逃げようにも身動きを取れないほど、背後には人が押し寄せている。
B級冒険者に子連れのD級冒険者が…勝てるわけがない。
レオを連れてコミケの囲みの中央…モヒカンの所までやって来た。
記憶の片隅からなんとか名前を絞り出す。
「えーっと、アベシだっけ?」
ん、なんか違う気がするけど、多分こんな感じだったはずだ。
「あ??俺様はシアべだ…誰だ、俺様の名前を間違えるバカ野郎は…」
おっと、また間違えちゃったみたい。
ゴンドの時もだけど、俺名前覚えるの苦手なのかも。
まぁ、今回はちゃんと自己紹介されてないはずだからセーフだな。
「て、てめぇは…」
振り向き様に俺の姿を確認して、一瞬で青ざめるシアべ。
その身体はぷるぷると小刻みに震え出す。
「どうも、名前を間違える馬鹿野郎です。」
にこっ。
「あ、いや…」
怖がらせないよう笑顔で接したのが間違いだったのか、更に震え出すシアべ。
周囲の人々は、何かB級冒険者相手に怒らせるような事を?!…と勘違いして、俺を睨みつけながら、シアべと同期しているかのように震え出す。
いや、マジで俺悪くないよな?
挨拶しただけだし。
一度ボコボコにしたとはいえ、今日はレオがいるからあくまで穏便にしなければ。
それに、この前の一件で既にやられた分はきちんと返してるからな。
これ以上は俺が完全に加害者になってしまう…程々にしよう。
「ごめんな、名前間違えて。」
再度コミュニケーションを取ろうと謝罪する。
「…名前くらい構わねーよ。」
俺の態度に、敵対の意思はないと感じ取ったのか、幾分落ち着きを取り戻し、シアべは冷静に返して来た。
さすが腐ってもB級冒険者。
トラウマもなんのそのってか?
この前は圧倒して気付かなかったけど、その実力は伊達ではないのかもしれない。
まぁ、俺の脚にいまだに縋り付くレオの癒し効果もあったのだろうが。
「それで、何の用だよ。まさか、ここで前みてーに一戦やろうって訳でもねーんだろ?」
ニヤッ
先程の狼狽を無かった事にしたいのか、実際に余裕が出て来たのか…挑発するように俺に笑みを見せてくる。
お、案外話せそうだな。
だが、挑発には挑発を返そう。
「フッ。あれ、でもおかしいな〜。前みたいに??さて、前は一戦って表現で合ってたかな?」
にやにや
「ケッ…どこまでもいけすかねぇ野郎だぜ。」
この前は、俺の完全試合だったからな。
一方的も一方的…成す術も無くやられた事を思い出して、顔を歪めるシアべ。
だが、そこに俺に対する憎悪は無さそうだ。
口ではなんだかんだ言っても、強さは認めてくれているのかもしれない。
「で、本当に何の用だよ。」
「あー、勇者見物に来たんだが、何処もかしこも混んでてな。お前の周辺は、皆お前の事が怖いのか空いてるから、ここで見させてもらっても良いかなって。許可もらいに来たんだ。」
「んな事かよ…勝手にしろ。まっ、そこのガキが良ければだけどな。」
レオの事を一瞥して、そう許可を出すシアべ。
どうやら、大人でも怖がるシアべに、子供が耐えられるのかって心配してくれているらしい。
お、コイツ案外気遣い上手なのか?
だが、心配はいらない…なんて言ったって、レオは前の世界で子供に怖がられまくった俺の顔を見ても声をかけて来た奴だぞ?
大声で敵意を向けられたりしたら別だが、敵意のない…見た目の怖い奴ぐらいはものともしない。
「レオ、このおじさんがこの場所で見ても良いってよ。」
「ほんとっ??」
「あー、見た目は怖いが良いおじさんだ。お礼言っとこうな。」
「うんっ!おじさんありがとう!!」
満面の笑みでシアべに向かってお礼を言うレオ。
「お、、おう。。良いって事よ…」
ほらな?これが道徳百点満点の破壊力だ。
威圧感丸出しだったシアべをも一瞬でたじたじにさせた。
その容貌から子供からの謝意など久しく受けていなかったのか、効果もより顕著だ。
そのシアべの様子を見て、周囲で怖がっていた面々も、「ん?思ったよりも怖くない?」と距離を詰めて来ている。
うん、どうやらレオもチート持ちだったらしい。
だが、その弊害か先程まで十分なスペースがあった周囲も徐々に人が押し寄せて来て、人波にレオが埋もれそうだ。
「チッ、しゃーねーな。ヨッ」
「わーっ!!!」
その様子を見ていたシアべがレオをヒョイっと持ち上げ、肩に乗せる。
害を加える気は無さそうだから放って置いたが、何だ?…コイツ…
「お前、顔に見合わず子供好きか?」
つい、心の声がポロリ。
「うるせぇー!ガキなんか嫌いだ!!それに、てめぇにだけは言われたくねー!」
俺の言葉に、これは仕方なくだなんだと言い訳を続けるシアべ。
うん、こりゃ図星だな。
アイラの時もそうだったが、コイツ分かりやす過ぎだな。
まぁ、何にしても、2メートル程のシアべに肩車をされたら、これ以上の席はないだろう。
「良かったな、レオ。本当に特等席だな。」
「うんっ!!」
レオを肩車しても尚、頬を紅潮させ言い訳を続けていたシアべだったが、遠くから聞こえてくる大きな歓声に途端に顔つきを変える。
「おい、来たみてーだぞ…勇者様ってやつがよ。」
どこか…その険しい表情が気になったが、俺の内心も大して変わらない為、その事に触れずに返す。
「あぁ、そうみたいだな。」
(仮)笑う門には福来る〜疎まれ続けた少年、異世界で我儘に生きる〜 葉月水 @0hazuki0
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