如意棒

 懺悔大会からの数日はとても慌ただしい日々が続いた。


 アイラ曰く、S級に上がるにしても何にしても冒険者がランクを上げる為にはとにかく依頼をこなして実績を積むしかないんだと。


 効率を考えるのはもっとランクが上がった後で良いらしい。


 特に俺のように冒険者ランクの低いウチは、依頼内容よりも依頼完了数がものを言うらしく、ここ数日は派遣バイトのような依頼に奔走していた。


 当然の様に最初は、「そんなちまちまやってられるか!!」と駄々を捏ねたのだが、アイラの「決まりですので。」という、どうやっても覆らない雰囲気に押され渋々了承した形だ。


 それでも、最大限効率的に行動しようと一つ上のランクを受けようとしたのだが、それも悉く失敗に終わった。


 ギルドの規定上は冒険者ランクの一つ上のランクの依頼までは受けられるのだが、D級の依頼をE級が受けるのはそう簡単な話ではなかった。


 冒険者はD級から一人前と称される。


 その為、護衛依頼や魔物討伐などの貢献値の高い戦闘力を要する依頼も主にD級から募集されるのだ。


 護衛依頼ともなるとクライアントの判断に委ねられる為、E級だと申請はできても殆ど受理はされないというのが現状だった。


 まぁ、要はE級だと実力的に不安が残るからって事だ。


 当然、それならそんな制度要らないじゃないか!ってギルドにクレームを入れたのだが、それもすんなり受け流された…解せん。


 俺の実力なんてその辺の冒険者取っ捕まえてボコれば証明できるが、それを依頼を受ける度にやるのも手間だろう。


 という事で、なんやかんや俺は正規の手段でランクを上げようと頑張っている訳だ。


 まぁ、そのお陰で俺は未だにE級で停滞していて…毎日安心亭に帰る度にレオに腕輪をチラ見されるという拷問まで受けているんだけどね。


 相変わらずニコニコとしているが内心は俺に落胆しているのかもしれない…はぁ、そう考えると精神耐性が限界突破しそうだ。


 だが、俺にとってこの数日も振り返ってみればそう悪い事だけでも無かった。


 一つ挙げるとしたら、黒纏の複数展開が出来るようになった事だろう。


 俺はこれまで一つのボックスを引き伸ばして使用していた…纏装を習得してからはそれに魔力を注ぎ拡張する様にして。


 それはそれで影魔法みたいでカッコいいし、全くもって不便を感じていなかったのだが、ふと気付いてしまったのだ。


 これって勿体無くね?って。


 せっかく剣と魔法のファンタジー世界に居るんだ…魔法だけじゃ無くて、折角なら武器も使わないと損じゃないか!って。


 いや、分かるよ?


 皆の言いたい事は良く分かる。


「お前散々武器要らないって言ってただろ!!」


「武器くれるって言ったドワーフの指それで折ってただろ!!」


「この人でなし!このゴミ屑!」


 そう言いたいんだろ?


 分かってるよ、グーの音も出ねーよ。


 でもさ、俺も思春期真っ只中の16歳な訳よ。


 一月や一週間、いや五分もあったら他から影響受けちゃう多感なお年頃なのよ。


 そりゃ依頼で王都中歩き回って、冒険者っぽい人がみんな武器持ってたらなんか興味持っちゃうじゃん。


「あれ?要らないと思ってたけど、なんか腰とか背中に武器ぶら下がってるのカッコいいかも!」って、そうなっちゃうじゃん?


 そういうもんじゃん?


 時計とか車とかそういうのに全然興味なかったけど、ある日突然「あれ、なんかカッコいいかも?」って、そうなるのが男の子じゃん?


 でしょ?


 だから、今回ばっかりはさ。


 多めに見てよ。

 

 まぁ、、そういう訳で黒纏の複数展開を練習しました。


 何故そこで黒纏の複数展開に繋がるのかというと、武器を黒纏で代用するからです。


 武器は欲しいけど重いのは持ち歩きたく無いもんね。


 だから身を守る纏装はそのままに、それとは別に攻撃用にも展開出来たらと考えた訳ですよ。


 まぁ、そんな自分勝手な理由で黒纏の試行錯誤を続けて出来たのがこちら…


『なんちゃって如意棒』です。


 見た目は1メートルくらいのただの黒い棒だけど、機能性は本物のそれに勝るとも劣らない代物だ。


 材質は黒纏なので勿論伸縮も自由自在だし、壊れる事もない。


 だが、元が黒纏のせいで重量が全く無いので打撃性能としてはこのままでは期待出来ない…ので、それも魔力で再現しようと試みたら案外簡単にできた。


 その辺は、戦闘時とそれ以外でマニュアル操作で使い分けていく事にする。


 そして、依頼の最中に色々試して気づいた事なのだが、この黒纏で武器を代用するという考えは結果的にだが案外今後の異世界生活にとっても悪くない案だった。


 このファンタジー世界では、相手の力量を見極める方法は外見から予測するしかない。


 例えば、携えている武器であったり、その人の姿勢や体格などといった雰囲気だったり見極め方は様々だ。


 元担任の長野正文のような鑑定スキルを持っている奴なら話は別だが、固有スキルはただでさえ珍しい為それも難しいだろう。


 つまり、如何に自分の実力を悟らせないかが強者と闘う時の生命線なのだ。


 だが、今回思い付きで得た武器によって俺の戦闘スタイルは周囲からは武器を使う奴に見えるだろう。


 そして、見た目はシンプルなただの棒だから相手も油断して、近づいてきてくれるかもしれない。


 そうなれば武器を使うまでも無く、シンプルに収納して初見殺しという選択肢もできる。


 俺が武器を持つだけで相手に様々な予想を掻き立たせる事ができる。


 こいつは武器を持っているから魔法は使えないのか?


 あくまで武器は補助で魔法が本命か?


 それとも両方?


 ってな具合に。


 戦闘において相手の能力不明というのは一番怖い。


 キューブ型のボックスを出さずとも収納を行えるようになった今、俺の固有スキルを元より知っている面々は除いて、誰も俺が収納スキルの持ち主だとは思わないだろう。


 黒纏で範囲攻撃をしている光景も影魔法にしか見えないからな。


 俺が今後好き放題やった時にその抑止力として登場した強者が、前情報として俺の戦闘方法を誤認してくれていれば容易く処理できる。


 相応の力を身につけた今、コソコソする気もないが面倒な事はしたくない。


 強者を相手取るにしても、楽に殺せるならそれに尽きる。


 その点、この如意棒を持ったことによる副次的なミスリードは俺の異世界生活をより楽にしてくれるって訳だ。


 本当は刀とかにしたかったけど、黒廛の性質上如意棒の方が相性が良かったんだよな。


 まぁ、如意棒の場合振り回すだけでいいし…結果オーライか?



 














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