自己紹介
・・・・・懺悔大会開始から数時間後。
ギルドには、小指に包帯を巻かれた冒険者が多数転がっていた。
「結局、全員小指骨折の刑かよ。」
その結果に俺はたまらず愚痴る。
あの後も引き続き懺悔大会は続いたのだが、俺の御眼鏡に叶う誠意を示せた者は一人もいなかった。
端金で解決しようする者もいれば、舎弟になるからと嫌々身を差し出す者…とんだ期待はずれだ。
実は内心、最上級ポーションの情報を持っている奴が一人でも居ればと期待していたのだが、それも全滅。
どうやら俺が考えていた以上に希少らしい。
火傷の後遺症を治すという目的を成し遂げる為には欠かせないポーション。
情報云々の前に聴いた事すらないと言う意見の方が多かった。
そもそも、本当に実在するのか怪しいといった手応えだ。
正直、都市伝説レベル。
アンスリウムが嘘をついた?
あのポンコツ特性のせいで直ぐにその可能性が頭をよぎるが、被りを振ってその考えを振り払う。
あいつは確かに、意地汚いし、クズだし、バカだし、ド変態だし、ポンコツだが何より臆病だ。
自分の命がかかってる時にそんな嘘はつかない。
腐っても王族…情報は本物のはずだ。
数々の冒険者が眉唾という代物を、例え僅かな情報であったとしてもアンスリウムが持っていたとしてもなんら可笑しくはない。
そこで、ふと脳裏をよぎったある可能性を口にする。
「情報規制か…?」
俺の探しているポーションは、部位欠損や古傷なんかにも効くという破格の効能を持っている。
魔族、魔物、悪人…病気、飢饉…
危険蔓延るこの世界での需要など考えるまでもないだろう。
何処の世界にも腐った権力者というのは居るものだ、競争者を増やさないようにと考える者が居ても不思議ではない。
十分あり得る。
そう言った意味では、初めにその存在を認知できた俺は幸運なのか?
一瞬、アンスリウムの元に召喚された事を感謝しようと血迷いそうになるが直ぐに思考を正常に戻す。
いや、それはないな。
その幸運を差し引いたとしてもあいつの異常な自慰行為に付き合わされた事で間違いなくマイナスだ。
まぁ、そもそも情報規制の件は単に考え過ぎなだけかも知れないけどね。
それに、もし仮に本当にそうでも今現在もアンスリウムに情報を探らせているし、その辺は問題ないだろう。
精々、俺のために働けアンスリウム。
そして、先輩冒険者の方々の言うとおり本当に存在しなかった場合は殺すまでだ。
保身の為に俺に嘘をつくなんてのは、召喚の件だけで沢山だからな。
俺も強くなった事だし、そろそろアンスリウムがこの世から消えても何ら困りはしないのだが、今はまだ早計だろう。
アイツはまだ苦しめる必要がある。
それに、ここにいる奴らは皆、一端の冒険者に過ぎない。
もっと大勢の、そして上のランクの奴に聞けばまだ何かわかる事があるかもしれない。
もし本当に存在した場合でも、それを手にできるのはA級やS級といった高位冒険者だけだろうし、そっちの方が情報を持っている可能性は高い。
「はぁ…」
労働に見合わぬ対価にため息しか出ないが、気持ちを切り替えて行くしかない。
この懺悔大会は急遽始まった突発イベントに過ぎないんだ…探る方向性だけでも決められただけ前向きに考えよう。
それに、何もかもが無駄だった訳ではない。
この懺悔大会で俺は多くの冒険者に存在感を示せた。
これは結構メリットが多い…多いよな?
この時間が無駄では無かったと証明する為に必死にメリットを探し出す俺。
大丈夫。ちゃんとある…
まず一つは、今後我が物顔で冒険者ギルドを闊歩できるようになった。
この分なら余程のバカじゃない限り、今後この支部で俺相手に面倒事を吹っ掛けるような奴は居ないだろう。
そしてもう一つは、駒が増えた。
俺が今後もポーションの情報を追って行く中で、一人では拾える情報にも限りがある。
だが、こいつらが居れば話は別だ。
こいつらも一応冒険者。
この場所にだけ留まるなんて事はないだろう。
護衛依頼やら何やらで世界各地に旅をする事もあるはずだ。
その時に、こいつらを有効活用することが出来れば俺の代わりにいい目と耳になってくれる。
あんまり期待はできないかもしれないが、手段が多いに越した事はない。
可能性を1%でも引き上げられるなら何でもやってみるべきだ…あら、思ったよりメリット多いんじゃない?
い、いや、まぁ全部計算通りだけどね。
全然行き当たりばったりとかではない…マジで。
さすがジーニアス回夜柊。
「よしっ!!」
気合いの入った声と共に気持ちを切り替えた俺は、座っていた椅子も倒して、ドンっと大きな音を立てて勢いよく立ち上がる。
その音で小指に包帯を巻いた冒険者達が一斉に俺に注視する。
向けられた顔にはもはや普段魔物相手に戦っている勇ましさなんてものは微塵も感じ取れない。
今度は何をする気だ…?と困惑や怯えの混じった表情をしている。
その事には気付きつつも、自分の目的のためには止まらない柊。
お疲れのところ悪いね…先輩方。
でも、もう少しだけ俺にビビってよ。
そうしたらもう帰ってもいいからさ。
立ち上がった勢いはそのままに、数分前とは打って変わって今度は優しく微笑みかけるような声を響かせる。
「先輩冒険者の皆様。致し方ないとはいえ、先程は飛んだ失礼を致しました。」
「「「「?!」」」」
その余りの雰囲気の変貌ぶりに、先程の惨状を目の当たりにした者達は皆動揺を隠せない。
「皆様が私を心配してくれた上での発言とは重々理解してはいたのですが、如何せんそういう質なものでして例え冗談であったとしても看過できかったのです。一応私も謝罪した方が宜しいでしょうか?」
「「「「いえ。結構です!」」」」
裏で練習してきたんかってくらい声を揃える面々。
今のままでも十分俺を畏れてくれているとは思うが、念には念を…そしてさらに念を入れておくに越した事はない。
コイツに逆らってはいけない…そう思わせる為には恐怖がピッタリだ。
完全に駒にする為には、畏怖させる所まで力を見せつけなければ足りない。
ダメ押しと行こうじゃないか。
「そうですか。ですが、私も皆様を傷つけるのは本意ではありません。ですので、今後このような事が起こらないよう遅ればせながら自己紹介をさせて頂きたいのです。」
「「「「…」」」」
未だ俺の挙動が怪しいのか沈黙を守る先輩方。
そして、俺はそれに構わず穏やかな笑みを浮かべて自己紹介を始める。
今8割ほど残っている全ての魔力を威圧として放ちながら…
「私の名前はシュウと申します。今日、白から橙に上がったばかりの新米冒険者です。右も左も分からない若輩者ではありま…
ピキッ!
ピギピギッ!!
俺が自己紹介をする間に容赦無く放たれ続ける膨大な魔力。
その魔力の大波によって建物全体が震え、机や椅子といった備品には亀裂が入っていく。
少しでも早く戦力になれるよう頑張りますので、ご指導ご鞭撻の程どうかよろしくお願い致します。」
ニコッ
「「「「………」」」」
この瞬間、その場に居合わせた者は皆確信した。
目の前でにこやかに自己紹介をする少年は…
S級…その規格外へ至る存在だと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます