懺悔大会

「で、次。」


「「「「ビクッ…」」」」


 俺がモヒカンから目を離し、嘲笑した奴等に視線を向けると一斉に肩を跳ね上がらせる。


「そんなビクつくなよ。俺は結構寛容なんだ。誠心誠意謝罪してくれよ?」


 ホッ


「だが、それはあくまで前提条件だ。悪いことをしたら謝る。そんなのは子供でも知ってる常識だ。」


 !?


 新人冒険者の言葉一つで一喜一憂する先輩方。


 俺は順序立てて正論で口撃する。


「俺はやられた分はやり返さなきゃ気が済まないんだ。今回の件に関しては、俺は微塵も悪くない。S級になりたい!そう言っただけだ。なのに、お前らは自分達の尺度で物を測り、俺を馬鹿だなんだと皮肉を多分に含んで罵倒した。これのどこに俺の非があるんだ?」


 やり返しても文句ないよな?と先輩方を見渡す。


「「「「…」」」」


 ——新人冒険者のその問いに答えられるものは誰一人いなかった。


 何も言えない。


 確かにその通りだから。


 非なんてあるはずが無い。


 S級なんて夢物語を語る新人冒険者を揶揄うつもりで軽くやじっただけ。


 悪ノリが無いとは言わないが、そこに他意はない。


 実際、S級になると言った若者は皆、その夢半ばで死ぬか、現実を知り諦めるかの二つに一つだ。


 この中にも身に覚えのある冒険者も多い事だろう。


 そりゃ誰だってS級になりたいし最初は目指す。


 だが…無理だ。


 


 何処かで必ずその壁にぶつかる。


 その壁が、C級なのか、B級なのか…悟る場所は人それぞれだろうが、大半の冒険者がA級にすら上がれない。


 S級なんてのはもってのほかだ。


 だから馬鹿にした。


「お前もどうせ無理。」


 そう言ってS級になることを諦めた自分を肯定したかった。


 だがその実、その新人はここにいる冒険者全員でかかっても倒せない程の実力を持っていた。


 A級にも引けを取らないであろう魔力放出による威圧。


 そして、先ほどのB級冒険者を容赦無く痛ぶるあの姿。


 B級とはいえ、数多いる冒険者の中では純粋な武力でいえば十分頭ひとつ抜けている。


 A級には上がれないと悟った者たちのある種の到達点とも言える。


 それを、無抵抗で懺悔させた…


 それはもう哀れに映る程ボコボコに。


「ここでの無言は肯定と受け取るぞ?」


「「「「コクンッ」」」」


 実力の差を理解したのか、素直に頷く先輩方。


「罪の自覚があるのならいい。それなら各々誠意を見せてもらおう。俺が直接手を下すのは簡単だけど、それじゃあ本当に反省しているか分からないからな。」


 罪を認めたから、はい和解。とは問屋が許しても俺が許さない。


「あー、そうそう。俺は根に持つタイプだからな。清算するならここできっちりしておく方が今後の身の為だぞ。誠意が伝わるのならそのやり方は任せるよ。」


「「「「ゴクッ」」」」


 俺の言葉に固唾を呑んで互いに顔を見合わせる先輩冒険者達。


 総勢五十人くらいだろうか。


 誰も喋らずともトップバッターを決めようと目で牽制し合う。


 順番決めで一向に始まらない…俺への懺悔大会。


 うーん。ちょっと脅かしすぎたか?


 ちょっとモヒカン痛ぶっただけでこんなに臆病風に吹かれちゃうとは思わなかったわ。


 もっと勇敢な職業のイメージ持ってたなぁ。


 その女々しさに俺は冒険者への落胆を隠せず、ついため息を吐いてしまう。


「はぁ…。」


 俺の一挙手一投足に神経を張り巡らせている先輩方は、一向に始まらないことに俺が痺れを切らしたと考えたのか、待たせる方が危険だとすぐにトップバッターを決める。


 すると直ぐに一人の背の小さい中年おじさんが俺の前に出てくる。


「D級冒険者ゴンドだ。ドワーフだ。アンタのこと笑っちまってすまねぇだ。」


 ほー、D級でドワーフか。


 道理で小さい。


 それで何をしてくれるんだろうか。


「そうか。ゴンド。お前の謝罪を受け入れよう。」


「ありがとうだ。」


「で?お前は俺にどう誠意を見せるつもりだ。」


 その言葉にニヤッとしたゴンドは、どんっと胸を張って自信満々に口を開く。


「オイラはドワーフだ!だから鍛治もできる!あんたの武器や防具を無償で作ってやれる!!」


 なるほどな。


 俺は常時纏装を展開しているが、外見上はなんてことはない普段着だ。


 そして武器も俺には固有スキルがあるため何一つ所持していない。


 実力はあっても駆け出し…金銭的に余裕がないから装備していないと考えたわけか。


 その点、ドワーフであるゴンドならそれを準備できると。


 確かによく考えられているし、普通の冒険者相手なら十分誠意になるだろう。


 普通ならな…


「却下。それ以外で。」


「っ!?なぜだすか!!」


 秒で断る俺に何故だと食い下がるゴンド。


「なんでもだ。」


「納得できねーだ!!」


 なんで俺が責められてんだよ。

 こいつバカか?


 まぁいい。


 納得できないならその理由なんていくらでも思いつく。


「お前、ドワーフの中で鍛治の腕前どれくらいなの。」


「じょ、上の下くらいだ。」


 それも信憑性ないしな。

 言ったもん勝ちやん。


「それが理由だ。そんな半端な物など要らん。ゴミじゃん。」


 そもそも俺、武器とか間に合ってるし、正直どんな鍛治氏が来ても却下だろうけどな。


「な、無いよりはいい筈だ。」


 えーまだ粘るの。


「重たいゴミ持って冒険に出ろってことか?」


「ゴ、ゴミでねー!!」


 だから、なんでお前がキレてんだよ。


「ゴミかゴミじゃないかは俺が決めるんだ。それに、お前が本当にそんな立派な鍛治氏ならそもそもの話D級冒険者なんてやってねーだろ。専業じゃない時点でゴミだ。」


 グーの音も出ないのか、俯いて拳を強く握りしめるゴンド。


「そ、それならオイラはどしたら…。」


 んー、確かに。


 誠意見せろってだいぶ曖昧なこと言ってたしな。


 どうしようか。


 今後ちょっと不便な思いでもしてくれればいいんだけど…


 数瞬考えた後に妥当な案を思いつく。


「小指、折れよ。」


 本当は切り落としてもよかったんだけどさ。


 それはちょっとやり過ぎな気もしなくもないから、折るので勘弁してやる。


 小指って案外無いと大変らしいからな。


「な、なんだ?」


「ん、聞こえなかったのか?小指折れって言ったんだ。」


「な、なんで、んだこと。」


「なんでって、お前がなんの誠意も示せなかったからだろ?それなら指の一本でも折って反省の意を示して見せろよ。」


 流石にお咎め無しとはいかんよ。


 俺の心は嗤われたことによってだいぶダメージ受けたもんね。


「で、出来ねーだ!オイラにも生活がある!!小指ながったら困る!」


「え、困らせるためにやってるんだけど?罰にならなきゃ意味がないだろ。」


「だども…」


「やれ。それとも自分でやるのが怖いなら俺が切り落としてやろうか?俺の場合、切り口が綺麗だがら骨折より早く治るかもしれないぞ?」


 黒廛で包んで収納すればその辺の名剣で切るより遥かにバッサリだ。


 自分で言っといてなんだが、これも結構悪くないのでは?


「お、折るだ…」


 あら、お気に召さないみたい。


「フー…フー…フー…」


 右手の小指を左手で包むように握り込んで、息を吐いて覚悟を決めようとするゴンド。


 魔物に怪我をさせられるのとは訳が違うのだろう。


 痛みというのは生きとし生けるものが純粋に忌避するものだ。


 自覚して怪我をするより、意図せず怪我をする時の方が何倍も気が楽だ。


 唐突に来た痛みに耐えればいいだけだからな。


 自傷行為の場合、これから襲ってくる痛みを自分で想像していく。


 これくらいか?これくらいの痛み?いや、もっとか?…


 なんて具合に。


 痛みに備えようとすればするほど怖くなる。


 覚悟が決まったのか一気に左手に力をこめていくゴンド。


 どうやら手の甲の方に折り曲げるようだ。


「フンッ!!」


 ゴキッ


「ックウ…フーフー…」


 右手全体を左手で包みながら、体を折り曲げるゴンド。


 その小指は、第二関節の辺りから不自然に後ろにのけぞっている。


 うーわ。まじで痛そう。


 この分なら、まじで俺の切断の方が良かったんじゃね?


「うん、お疲れ様。しかと、誠意を見せてもらったよ。君のことはもうこれで完全に赦すよ。隅で治療してもらうといい。」


「あ、ありがとうだ…」


 トボトボと壁際の方へ行くと壁に寄りかかるように座り込むゴンド。


 すると、すぐにギルドスタッフが近寄ってきて応急処置を始める。


 関与しないとは言っても、簡単な怪我の手当てくらいはしてくれるのだろう。


 これでおしまいだったら楽だったんだけど、まだまだ残ってるからな。


「次。」


 俺の掛け声と共にすぐに一人の女が出てくる。


 褐色の肌にビキニアーマーを着こなした髪の毛チリチリの女だ。


 にしても流石腐っても冒険者…すごいスタイルだ。


 胸とお尻は溢れんばかりに豊満だが、お腹周りには無駄な脂肪は一切ない。


 ビキニアーマーなのもあって、そういうコンテストみたいだ。


「今回はごめんなさい。D級冒険者のアマンダよ。」


 腰に片手を添えてモデルのようにポーズをとって謝罪をしてくるアマンダ。


 若干態度が気に食わないがまぁいいだろう。


「アマンダ。お前の謝罪を受け入れよう。」


「当然よね。」


 え、何こいつ。


 ちょっと偉そうじゃね?


 まぁ、今は我慢だ。


「で、お前は何で誠意を示してくれるんだ?」


「私の身体を好きなだけ見ていいわ。」


「却下だ。折れ。」


 何をしてくれるのかと思えば色仕掛け。


 期待外れもいいとこだ。


「なんでよ!!私のこの身体が見えないの?こんな美しい物他にないでしょっ!ご褒美になるはずよ!!」


 よほど痛いのは嫌なのか焦って身体を見せつけてくるアマンダ。


 なんでコイツらって許してもらう立場なのに、すぐ怒鳴っちゃうんだろうな。


「いや、でもお前…それ今身に付けてるってことは基本装備でしょ?てことは、普段散々見せびらかしてるって事じゃん。お前の懐、全然痛まないよね。」


 自分の身を削ってこその誠意というものだろう。


 既に公開済みのものに対して、今更それに代価としての価値はない。


「じゃ、じゃあ…デ、デート!デートしてあげるわ!」


 またも上から目線で提案してくるアマンダ。


 だがそれを俺もまた一蹴する。


「却下だ、折れ。」


「なんでよ!!」


「忙しいから。」


 大して好きでもない女とデートなんて時間の無駄だ。


 そもそも、してあげるなんて言われてノコノコ行けるかっての。


「……」


 急に黙り出すアマンダ。


 お、ついに諦めたか?


「……一晩。」


 ん?いや、聞き間違いだ。


「一晩だけ好きにしていいわ。この身体。」


 うわ、まさかとは思ったけど本当に言ってたよ。


 でも、


「却下だ。折れ。」


「なんでよっ!!あんたみたいな顔の奴が一生かかっても抱けないような身体を抱かせてあげるって言ってんのよ!その意味わかってんの?納得できないわ!!」


 カッチーン。


「なら納得できる理由を教えてやるっ!!お前人のこと言う前に自分の顔見てから出直せよ!首から下はともかく、首から上は正直神様の悪戯もいいところだぞ!!なんだよ、その顔。まんまゴブリンじゃん!モヒカンにゴブリンって言ったけど、正直お前の方がよっぽどゴブリンだったわ。なんなら、第一印象メスゴブリンだと思ったくらいだね!!あーー!!新種発見かな??おーい、アイラ!!メスゴブリン発見した!貢献値カンストだろ?俺を今すぐS級にしてくれ!!」


「プッ…。」


 アマンダのあまりの上から目線の物言いについ本音をぶつけてしまう。


 だが、このアマンダ。


 ガチでゴブリンじゃないかと今でも疑うほどに瓜二つなのだ。


 髪の毛と肌の色が違う分その辺は人間だが四捨五入したら完全ゴブリンだ。


 俺の罵倒に目に涙を浮かべてプルプルと震えるアマンダ。


 正直言いすぎた気もしなくもないが言われた分を言い返しただけだ。


 隅の方でアイラがまた噴き出していたような気がするが気のせいだろう。


 このままじゃ埒が開かないと思った俺は、黒廛で強制的にアマンダの小指を折り、手当てをしているギルドスタッフの方にあてがう。


 もはや誠意ではなく罰則って形になってしまったがそれも仕方ないだろう。


 こうでもしなきゃ日が暮れてしまう。


 スピードアップしなきゃな。


「次っ!」


 俺は先輩方の方に目をやり、投げやりにそう叫んだ。




_____________________

あとがき

実はタイトルの変更を考えています。

(仮)が付いてるのはその為です。

詳しくは近況ノートを一読いただければ!


要はタイトル案の募集です。

案がある方はコメントでも近況ノートの方でもどちらでも良いので下さい!

HELP ME!!








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