嘲笑
「あのー」
「…」
「もしもーし」
「…」
冒険者登録ぶりに訪れたギルド。
まずはゴブリンの討伐報告をしようと受付へ向かうと、何故だか受付嬢にガン無視を決め込まれている。
「ちょっといい加減にしてくれよ!」
あまりにも無視をされるのでつい敬語もやめて声を張りあげてしまう。
「生きていらしたんですね。」
ん?
開口一番、遠回しに死んどけって言われた?
「いや、生きてるけど。」
受付をしてくれているのは、俺の冒険者登録をしてくれた赤髪美人なのだがいつの間に嫌われたのだろうか?
無愛想だけど、いい人だと思ってたんだけどな。
「いえ、あれから姿が見えなかったので、てっきり亡くなったのかと。」
あー、ハゲ三兄弟に拉致られた時の事か?
確かにあれ以来一回も来ていないな。
「心配してくれた?」
もしかしてという願望からか、ついそんな言葉を溢す。
「いえ、別に。」
目を背けて淡白に返す受付嬢。
うん、やっぱり心配してくれていたみたいだ!
最初のは無視じゃなくて死んだと思っていた奴が生きていてびっくりしていたのか!
なんだよ、ハラハラさせやがって。
にしてもクソ無愛想だな。いい人だけど!
根がいい人と再確認できた所でようやく本題を切り出す。
「ゴブリンの討伐報告に来たんだけど。」
「でしたら、討伐の証拠の提出を。」
ドスッ
重厚感あふれる音と共に巨大な袋を受付台の上に出す。
瞬時に掌から出したゴブリンの耳の詰め合わせだ。
「随分と溜め込まれましたね…」
その量の多さに若干めんどくさそうな表情を浮かべる受付嬢。
「いやー、ゴブリンにモテちゃって。」
本当は一日分なんだ!とは言えずに、小粋なギャグで返す。
「そうですか。では確認するので少々お待ちを。」
いや、まぁうん。
いいんだけどさ。
社交辞令でもいいから笑ってくれたら俺は嬉しいよ?
…「お待たせしました。665体分のゴブリンの耳の確認が取れました。」
おーー、そんなに狩ってたのか。
改めてすごいな、俺の範囲攻撃というかゴブフェス。
「規定貢献値を超えましたので、E級への昇格となります。おめでとうございます。」
そう言って、橙の腕輪を渡してくる受付嬢。
簡単に上がるんだな。
まぁこれも最初だけなんだろうけど。
「どうも。」
「報酬の方ですが、魔石はお売りにならないのですか?このままですと、常設依頼の基本報酬だけになってしまいますが。」
渡された腕輪に付け替えていると、受付嬢が報酬について確認を取ってくる。
基本報酬?と露骨にはてなマークを醸し出していると、はぁぁ。というお馴染みのため息と共に教えてくれた。
なんでも、常設依頼は基本的に規定額しか支払えないんだとか。
そんなの手間ばっかり掛かって誰もやらないんじゃ?とも思うが、どうやらその分は魔物から取れる魔石や素材を売って釣り合いをとるらしい。
今回の場合、ゴブリンの耳という需要皆無の素材だから、魔石を売らないと金にならない。
つまり、討伐証明さえできていれば冒険者ギルドの貢献値自体は稼げるが、素材や魔石を売らないとお金は稼げないということだ。
俺めちゃくちゃ魔石ごと抹消しちゃったよね?
魔石とか眼中になかったよね?
まぁ、金には困ってないし、今回は勉強代ということで仕方ないか。
「今回は基本報酬だけで。」
「かしこまりました。」
チャリンッ
銀貨五枚を手渡される。
5,000ベル…いや、しょっぱ。
一応命懸けなのに派遣バイトより安いな。
金に余裕があるとはいえ、次回からは気をつけよう。
「これで手続きは以上となりますが、まだ何か?」
金を受け取っても一向に帰らない俺を、迷惑そうに見てくる受付嬢。
ごめんって、でもまだ大事な事聞いてないんだよ。
「あー、えっと一つ質問しても良いかな?」
「はぁ…どうぞ。」
「早くS級になりたいんだけど、なんか効率のいい方法ある?」
「………は?」
俺の言葉にめんどくさそうな顔を一変させ、間の抜けた声を出す受付嬢。
ん?声が小さかったか?
「だから、早くS級冒険者になりたいんだけど、なんか効率の良い方法ない??」
さっきよりも大きな声で言ってみた。
これで聞こえたはずだ。
「「「「…………」」」」
俺の声と共に一斉に静まり返るギルド内。
酒場で盛り上がっていた奴らも、受付をしていた奴らも、掲示板の前にいた奴らもギルド内の面々が揃って俺の方を見る。
「ん…なんだ。なんかまずいことでも言ったか?」
あまりの場の雰囲気の変化に思わず受付嬢に問いかける。
「はぁ…」
だがその問いにも応えず、ため息をつきながら額に手をやり項垂れている。
え、俺マジでなんかやっちゃいました?
異世界主人公っぽいムーブしちゃいました?
ごめんなさいごめんなさい。そんなつもりないんすよ。
早くS級になるって約束しちゃったもんだから、裏技的なのあったらなっていう好奇心なんすよ。
脳内で焦り出す俺とは裏腹にいつまでも静寂が続くギルド内。
なんだよ、異世界式のフラッシュモブか?
と、そんなわけない現実逃避をしていると…
「プ。プハハハッハハッ」
途端に一人が吹き出す。
すると、それに同調するように周りもドッと笑い出した。
「「「「ハっハハハハハハハハハ」」」」
俺の発言により静寂に包まれていたギルド内は、一気に活気を取り戻す。
そして、皆が口々に俺を馬鹿にする様なヤジを飛ばしてくる。
「今どきそんな夢見る馬鹿がいるとはな!」
「全くだ!だが、夢見るくらい許してやれ!!まだお子ちゃまなんだ。」
「おいおい、お子ちゃまでももう少し現実見てるぞ!」
「お子ちゃまだって?馬鹿言え!こいつの面見てみろよ。風格は間違いなくS級だ!!ぷ。ぷはははは!」
「「「「ハハハハハ」」」」
俺をネタにして更に盛り上がる先輩冒険者の面々。
赤髪美人受付嬢の方を見ると、気の毒そうな目で俺を見てくる。
「お気を悪くしないでください。S級冒険者とはそれほどまでに別格の存在なのです。それを理解しているから皆様は笑っているだけで…」
なるほどね。
俺を笑ってるのはS級冒険者になることを諦めた負け犬ってことか。
受付嬢の言葉でようやく俺が笑われた理由について納得していると、そこに一人の男が近づいてくる。
俺の側にまで来たそいつは、身長170ちょっとの俺が首を垂直にして見上げる程にでかく、筋肉を惜しげもなく見せびらかすようなほぼ肌色の格好をしている。
何より特徴的なのはその頭、モヒカン…ソフモヒとかそんな次元じゃない。
服装といい、モヒカンの幅といいまんま世紀末の雑魚キャラだ。
「ちょいちょいアイラちゃん。優しすぎるって!現実ってもんを教えてやれよ〜。テメェみたいな雑魚はぜってぇ無理だって。」
馴れ馴れしく俺の肩を組んで、受付嬢のことをアイラちゃんと呼ぶその輩。
「いえ。絶対無理とまではいいません。上を目指すのは冒険者として当然の事です。」
その輩の口撃にも冷静に返答する赤髪美人受付嬢ことアイラちゃん。
「じゃぁ、何か?コイツが無謀にもS級目指して無茶な依頼やって死んでも良いってのか?」
「それは…それをさせないのが私の仕事です。」
なんとしても、俺に諦めさせたいと粘る輩にまたもや冷静に返すアイラちゃん。
俺はその様子を大人しく見守りながら、内心アイドルオタクみたいな応援をしていた。
おーー!!
かっこいいぞ!アイラちゃん!
イケイケ。もっといったれ!!
そのあくまで中立の態度を崩さないアイラちゃんの態度に痺れを切らしたのか、今度は肩を組んでいる俺に突っかかってくる輩。
「ケッ。随分気に入られてんなぁ。テメェよお〜」
てか、コイツいつまで俺に寄りかかってんだよ。
「別に気に入られてるわけじゃねぇよ。お前が嫌われてるだけだ。」
「プッ…。」
お、アイラちゃんにウケた。
やったぜ!!
俺の返しが面白かったのか、顔を背けて吹き出してしまうアイラちゃん。
だが、すぐに真顔に戻り平静を装う。
その一方、輩の方は俺を睨みつけ顔を赤面させる。
この際だ、もういっちょボケてみよう。
「おいおい。男の赤面とか誰に需要があるんだよ。美男子ならともかくこんなゴブリン顔じゃ、特殊性癖しか喜ばないだろ。あ、もしかしてゴブリンで童貞捨てた?」
「プッ…フフ。」
お、またウケた!!意外と下ネタでも笑ってくれるみたいだ。
元から美人だったけど、笑うと結構可愛いな。
普段無愛想な分このギャップにやられる人も少なくないだろう。
おっと、輩は激おこみたいだ。
顔に続き首まで真っ赤にしてプルプル震えて、腕や脚には血管が迸っている。
その様子にそろそろまずいなと考えた俺は、未だ俺と肩を組んでいるモヒカンを親指で指して、平静を取り戻したアイラちゃんに一つ確認を取る。
「えーっと、アイラさん?そろそろこいつ爆発しそうなんだけどさ。この場合、ギルドは関与しないって認識でOK?やり返してなんか罪問われたりしない?」
「アイラで結構です。はい、問題ありません。」
おーちゃっかり、呼び捨ての許可までもらってしまった。
ラッキー。
「了解。」
そこまで確認をとった俺は、瞬時に肩を組んでいるモヒカンの腕から抜け出し、そのまま金的を蹴り上げる。
そして、禁じてを食らったモヒカンが悶絶している間に距離をとり、ギルド内にいるすべての冒険者の注目を集めるように魔力を放出する。
「「「「!?」」」」
未だ俺を大言壮語だと馬鹿にしていた奴らが、その膨大な魔力量に驚き、またも静まり返る。
先ほどとは全く違った理由で…
「俺を嘲笑った事をせいぜい後悔するんだな。」
______________________
あとがき
ヤバイ…時間が…ストックが…毎日投稿が…
皆様…オラに元気を分けてくれ!
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