防御技
ステータス確認後、早速使用感を確かめていく。
数百のゴブリン達を一瞬で収納した時のように、黒纏を地面に薄く引き伸ばすように展開していく。
「おーーー。壮観壮観。」
魔力値が最初とは比べ物にならない程上昇していることもあり、黒纏で覆われた部分はまるでスケートリンクのように真っ黒に舗装されている。
その規模は魔力を込めれば込めるほど広がっていき、あっという間にサッカーコート程の大きさにまでなる。
「黒纏の常時発動もいけそうだな。」
ステータスで魔力の減少具合を確認しながら行使することで、大体の魔力消費も把握できた。
魔力値が大幅に上昇した事で余程の無理をしない限り、そこまで魔力消費を考えずに使っていけそうだ。
レベルやステータスが大幅に上がった影響もあるのか、黒纏の燃費も元から良かったが更に良くなっている。
コスパの良くなった今の黒纏なら、魔力を使い切る前に時間経過と共に回復する魔力がそれをカバーしてくれるはずだ。
「魔力に余裕ができたら1番に試してみたい事があったんだよな。」
そういって俺は地面に薄く引き伸ばしていた黒纏の発動を解除し、元のボックス形態に戻す。
そして、今度は黒纏を自身の体に纏わせるように展開していく。
地面に展開していた時よりも更に薄く発動されたそれは、つま先から髪の毛の一本一本の細部に至るまで身体の形に沿うように纏わりついていく。
「よし、こんな感じか?ちゃんとイメージ通り出来たみたいだな。」
金箔ほどの薄さに発動された黒纏は、通常の深黒とした色ではなく、柊の肌や服の色を変える事なく覆っている。
「いくら身を守る為とはいえ全身真っ黒じゃ流石に不審者すぎるからな。遠目から見たら全身黒タイツだし…」
そう。
ずっと試してたかったのは、防御技の考案。
今まで攻撃にばかり思考を裂いていたのは、やらなければやられる環境にあったからだ。
本当は両方に力を注ぎたかったのだが、魔力に余裕もなかったから片方に絞るしかなかった。
だが、初期とは比べ物にならないほど成長した今、それを実現するいいタイミングだろう。
一見何の変化もないように見えるこの姿。
この薄皮装甲で何が防御だよ!なんてツッコミが飛んできそうだが、これでも結構考られている。
俺の固有スキルであるボックスは、今となってはすっかり強力な攻撃技や凶悪な拷問技へと化しているが、本来なら生活に役立つ収納スキルでしかない。
チートへと変貌しているのは、おれのずば抜けたセンスと試行錯誤のおかげに他ならない…決して基本性能などではない、俺の努力の賜物…のはずだ。
誰がなんと言おうとそういう事だ。
そして、この黒廛で全身を包んだ薄皮装甲もその試行錯誤の末に導き出した天才的な閃きというわけだ。
どういうことかと説明すると、俺の固有スキル:ボックスは、大枠で言うと空間魔法の一種だと俺は考えている。
この俺が居る次元とは別次元の異空間に万物を収納する。
空間と空間を行き来させる…そんなの空間魔法以外の何物でもないだろ?
俺が多用している黒纏で纏って収納するという最強コンボもその特性を活かして、次元と次元を切り離しているだけに過ぎない。
黒廛で纏った部分はこの世界と隔絶される。
つまり、黒纏で纏った部分は半分異次元と言っても過言ではないのだ。
半分異次元なら自分を黒纏で覆えば外からの干渉に影響を受けないだろう。
攻撃も無効化できる。
拡大解釈も甚だしいかもしれないが、可能性はゼロじゃない。
現に今、全身を薄皮一枚の神業で黒廛で覆うところまでは成功だ。
まぁ、こんなドヤドヤでご高説を垂れても試してみない事には分からないんだけどね。
「論より証拠。百聞は一見に如かずだよな?はぁ…」
そう言って、俺は防御技の完成度を確認するために覚悟を決める。
地面に仰向けの状態になり、地面に投げ出すように置かれている左腕の上に右手を持ってきて高らかに空へと向ける。
そして、あるものを出そうと念じる。
すると、その瞬間右手の掌から巨大な石が放出される。
昨日一気にゴブリンを収納した時に一緒に収納されたものだ。
「人体実験だっ!」
今は体に薄くボックスを纏っている事で、まるで土魔法のように巨石が手から射出される。
宙空に出された石は、重力に従うように俺の左手に向かってゆっくり自由落下していく。
「ッ…」
確実に100キロはありそうな石が迫ってくる事で、いくら痛覚耐性や打撃耐性を持っているとしても痛みに備えてつい息を止めてしまう。
ドッッ
重い音と共に身体全体に力が入る。
「……………あれ?」
何か押されたような感覚はあるが、いくら待っても痛みが襲ってこない。
襲ってくるかもしれない痛みに耐えようと瞑っていた目をゆっくりと開けて自身の左腕を確認する。
完全に左腕が石と共に地面にめり込んでいた。
その光景に思わず「あれ…やっぱり痛いかも!」と叫び出しそうになる。
だが、痛みはない。
左腕の感覚を確かめるように、石が邪魔をして確認できない指を動かそうとしてみる。
骨が折れていたら確実に痛みが入るはずだ。
「…い、痛くない?」
指の感覚はもちろんのこと、腕に力も込められる。
「ふ、ふははははっ!痛くない!!痛くないぞ!」
その結果に、自分の仮説の成功を悟り高らかに笑う。
「さすが俺!I'mジーニアス!よっ究極のチート存在!全て計算通りだ!」
ドッッ
ドッッ
ドッッ
ドッッ
ドッッ
…何度も何度も収納して、落としてを繰り返す。
ドカッ
だが、先に根を上げたのは巨石の方で、桃太郎が出てきそうなほど綺麗に真っ二つに割れた。
その結果に再度満足の表情を浮かべる柊。
「うんうん、やっぱり成功だな!」
体力34016/34016
ステータスを確認してみても、体力は微塵も減っていない。
念願の防御技の獲得だ。
だが、どうやら運動エネルギーまでは消せないようで、ちゃんと攻撃をされたらその衝撃の分ちゃんと吹っ飛ぶ。
「まぁ、ダメージが俺に届いていなければ許容範囲だ。実戦では、派手にふっ飛ばされようが最後に立ってる方が勝ちだしな。」
因みに、体力は運動能力が上昇するわけではなく、ダメージ許容量が上がるだけのようだ。
ここまで来る時にあまり疲労を感じなかった事から基礎体力的なスタミナは上がっているのだろう。
だが、脚が超人的に速くなったりなどの変化は感じられなかった。
ちょっと期待していたんだが、こればっかりは仕方ない。
そういう仕様なのだ。
だが、肉体派の多い冒険者が元の身体能力だけで戦っているとは到底思えない。
その事から考えるにそういった身体能力を強化するスキルも別に有るのだろう。
「身体能力の強化は今後の課題としても、大半の奴にはもう負けないか?」
空間から隔絶された鉄壁の防御と未だ隷属の首輪にしか防がれていない攻撃。
最強の矛と盾を手に入れた今、自分を脅かせる存在はこの世界にどれだけいるのだろうかと思案する。
まだまだ油断はできないと認識しつつも、自分の現時点の能力に笑みを隠せない柊。
「チュートリアルは大体済んだ。今後も油断はしないが、我慢もしない。」
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