ポテンシャル
ゴブリンとの友情コンボを決めた翌日。
俺は、人気のない高原にポツンと一人佇んでいた。
「ここまで来れば十分か。」
王都をぐるりと囲むように聳える巨大な防壁も目視できない程に街道から外れた場所。
視界に映るのは、某野球場が何個も入りそうなほどに広々とした野原とその先にかろうじて見えるボーク大森林だけ。
どうして朝から冒険者ギルドにも行かずこんな場所にまで来ているのかというと、それはもちろん能力の上昇具合を確かめる為だ。
昨日のゴブリン討伐の直後、ステータスを確認したら思わず目を見張ったからな。
定期的に自分の能力を確認して行かなければ、毎度大幅に上がっていくステータスに自分の感覚が追いついかなくなってしまいそうなんだ。
せっかく能力値が上がったとしてもそれを把握し、使い熟せなければ宝の持ち腐れだろう。
そんなの勿体無いじゃんね。
だから、今日はその試運転の為にはるばる遠い所を歩いてきたのだ。
ここなら多少の衝撃でも街に届くこともなければ、人に見られる心配もいらない。
固有スキルの秘匿性を守りながら存分に試せるという訳だ。
本来、収納スキルでしかないボックスを確かめるにしては、少々大袈裟な気もしなくもないが用心するに越したことはないだろう。
街中で試して万が一、王都消滅!なんて事になったら大変だからね。
城や王家の人間が消える分には一向に構わないが、召喚の間や安心亭の面々を巻き込む訳にはいかない。
そんなことできる訳無いじゃん!って思う?
でもこのステータスを見たらマジで出来ちゃいそうなんだよ…
【 名 前 】
【 称 号 】異世界人 疎まれる者
不撓不屈 解放者
【 種 族 】人
【 年 齢 】16
【 レベル 】5→17
【 体 力 】574/574→34016
【 魔 力 】460/460→47490
【 精 神 】30→60
【 スキル 】火耐性Lv.3 精神耐性Lv.Max
危険察知Lv.2 気配隠蔽Lv.1
雷耐性Lv.4 痛覚耐性Lv.Max
孤独耐性Lv.2打撃耐性Lv.6
恐慌耐性Lv.3演技Lv.3→7
【固有スキル】ボックス▼
万物を異空間に収納する
『黒廛』
ね?
一瞬バグったのかと思うよね。
計算するのも馬鹿馬鹿しいくらいの上がり方でしょ?
流石に上がり過ぎでは?とも思ったが、相手はゴブリンだったとはいえ数が数だ。
俺の吸収という特性を考えれば、この結果も納得できる。
この結果を踏まえてみても、やはり個体一つ一つのステータスを自分のものに出来る吸収は破格の性能と言えるだろう。
レベルを見てみればわかりやすい。
レベル5→17
レベルが12しか上がっていな事から推測するに、本来なら体力は
だか、その値を差し引いたとしても余りあるステータス上昇。
ハゲ三兄弟というサンプルを考察して導き出した吸収という不確かな可能性もこれで証明されたというわけだ。
「ほぼ確信していたけど、こうやって確認するとやっぱりホッとするな。」
この成果に、俺はゴブリンに感謝を伝えずにはいられない。
「ありがとよ、心の友。お前らの協力のおかげで、俺のステータスと自己肯定感は爆上がりだ。ゴブリンに輪廻転生なんて概念あるのかは知らんが来世は幸せになれよ?また魔物に生まれたら連絡くれ。またライブ開催するから。」
一度のゴブフェスの成果を確認して、未来が明るいのを確信した。
「これを続ければどうなる?」
ニヤッ
自分の計り知れない可能性に無意識に口角が吊り上がる。
「コワイ…未来の自分が!一体どんなになってしまうんだ!」
もう最強なのでは?と有頂天になってしまいそうになるのをなんとか理性で抑える。
そして、少し時間を置いて落ち着いた所で、冷静に上昇後の数値を分析してみる。
体力34016
魔力47490
体力・魔力共に数十倍上昇している。
魔力の方が上昇している事からゴブリンをはじめとした魔物は、魔力値が高い傾向にあるのかもしれない。
まぁ、魔物っていうくらいだしね。
もちろん個体差はあるだろうが、固有スキルで攻撃をする俺にとって魔力が上がるのはそれだけ戦闘力に直結する。
今後の方針としては、人間より魔物を中心に狩っていく方がより効率的かもしれないな。
「にしても、驚異的に上がったもんだな!ゴブリンコスパよし。」
ありがとよ、心の友よ。と再度黙祷をし、現状の自分の数値を他と比較してみる。
比較対象として記憶の片隅にあるクラスメイトのステータスを引っ張り出してくる。
「確か、陣内の体力と魔力の初期値はどちらも2000だったか?」
レベル上限は100という話だったから、これからの伸び代はとてつもない。
今の俺のステータスを鑑みるに未だこれでは、レベルの上がりきった陣内よりもステータスの値は劣るだろう。
あの生まれつきチート属性の陣内のことだ。
俺がレベルが1上がるにつれ初期値20%上昇するのに対し、アイツはきっと50%くらい上昇する。
仮に50%だと想定して、計算してみると
「うーわ、さすがチート。吸収が無かったらと考えるとゾッとするな。」
初期値の高いあいつが成長したらどこまで上がるのか分からない。
50%上昇というのも俺の勝手な予想でしかない。
もしかしたら、レベルが1上がることに初期値の2倍、3倍に上昇するなんてこともあり得る…
「はぁ…」
可能性がゼロとは言えないどころか、それしか無いとさえ思えてきてため息を抑えられない。
想像だけで嫌な気持ちにさせるなんて大したものだ、さすがチート。
現時点の成長しきっていない陣内なら今でも簡単に殺せるかもしれないが、いつだって最悪を想定すべきなんだ。
力のないものがどれだけ理不尽な目に遭うのか、俺は前の世界からの経験も含め嫌というほど知っている。
無秩序と言ってもいいこの世界では尚更大切な事だ。
まぁ、俺もまだまだレベルアップはするし、吸収もあるからこの世界で誰よりもポテンシャルお化けなんだけどね。
「ばーかばーか。陣内のバーカ。俺の方がチートなんだよ。身の程弁えろよカス」
おっと失礼。
いくら最悪を想定したとしても、あともう百回くらいゴブフェス開催したら秒で陣内の最終ステータスも超えるだろうしその辺は心配ない。
でも、愉快な仲間達のステータスも合わせた合計値を超えるのは、さすがにもう少し時間がかかりそうだ。
信憑性には欠けるが、アンスリウムの話だと勇者全員が魔王を倒せる程成長した場合でも、もう一度召喚魔法を行使するのに数年はかかるという話だった。
という事は、本来よりも複雑で繊細な召喚魔法を行使しようとしている俺は、それ以上の魔力量が必要になってくるのだろう。
「まだまだ、母さんを召喚するには程遠いな。」
気が遠くなる程の魔力を蓄えなければいけない現実についぼやいてしまう。
だが無理筋ではないし、諦める事は絶対にない。
このままコツコツと冒険者として頑張っていけば、きっとそう遠くないうちに召喚できるはずだ。
それにこの世界の強者は勇者だけじゃない。
ポテンシャルで言えば最高峰かもしれないが世界は広い。
上には上がいるという言葉もある通り、この世界には魔王や魔族なんてファンタジー存在がいるんだ。
もっともっと強くならなければ…自由なんて程遠い。
「分析はこの辺にして、そろそろ使用感も確かめないとな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます