回復ポーション
「ふぅ〜〜もう硬い床では寝られんな」
俺は今、体が深く沈むほどのベッドに寝転がりながらこれでもかと寛いでいた。
アンスリウムの私室もとい俺の部屋と化した豪華絢爛な部屋は、以前うざったい程にあったチカチカとした目に優しくないものは全て撤去し、綺麗好きな俺の為にベッドカバー諸々も全て取り替えた。
アンスリウムのことだ、ベッドの上で何をしていたのか分かったもんじゃない。
人間、楽しい時間というのは早く感じるもので、俺が奴隷から抜け出して、かれこれ3週間が経とうとしていた。
監禁生活の反動で何をしても幸せを感じてしまい、普通の事にいちいち感動していたらいつの間にか結構な時間が溶けてしまっていた。
それだけ、人の精神というのは時間感覚に影響を及ぼすのだと改めて再確認したところだ。
誰にも虐げられないって素晴らしいね。
だがこの3週間、何も自堕落に過ごしていた訳ではない!
まず一つは、この世界について色々調べた!
調べたといっても、俺の元主人であり、現奴隷でもあるアンスリウムに説明させただけなんだけどね。
聞くところによるとこの世界の名前は『リベル』というらしい。
1年は360日程で、今年も残すところ3ヶ月だというから、地球と同じような時間軸で進んでいることがわかった。
ということは、俺が異世界に召喚されてから既に一ヶ月ほどの時間が地球でも経ってしまっているかもしれない。
異世界だから地球では時間が止まっている!なーんてご都合設定があったら良かったのだが、期待しない方がよさそうだ。
母さんに心配をかけてしまっている以外は前の世界にこれといって未練はないが…
「母さん、マジで暴れてないと良いんだけど…」
自分で言うのも何だがめちゃくちゃ愛されてるからな、そこだけが心配だ。
そして、リベルも異世界ファンタジーの例に漏れず、様々な種族が存在するらしい。
人間、獣人、エルフ、ドワーフ…とにかく色々だ。
これを細かく分類したり、これ以外にも沢山種族がいたりするらしいけど、別に知った所で会わなければ意味ないので軽〜く聞き流して置いた。
そして、アンスリウムにこの世界の常識を説明させていく中で、特に俺が興味を持ったのが回復ポーションである。
回復ポーションの他に魔力ポーションとかもあるらしいけど、それはひとまず置いておこう。
回復ポーションには、初級、中級、上級…といったようにランクに分かれているらしく、ハイランクの物になると、部位欠損や古傷なんかも治してしまうと云う。
ちなみに拷問の時に使用していたポーションは初級なんだと。
元の世界では存在しえなかった魔法や魔力といった不可思議な力のあるこの世界ならではの発展だろう。
俺はこの情報を知った時、正直歓喜した。
そりゃもう嬉しかった、この世界に来て初めて良かったと思える程に!
あれだけ悩み苦しんだ火傷の後遺症が治るかもしれない。
それは、俺が幸せを目指す上でかなり重要なファクターだ。
人は見た目が全てじゃないと云うが、そんなのは嘘っぱちだ。
外見が良くなければ中身は見てもらえないし、嫌悪感を抱かれる俺レベルなら尚更だ。
視覚の情報というのはそれほど人間関係を築く上では重要なのだ。
容姿が悪いだけで全ての事を否定され続けた俺だからこそ分かる。
だが、そんな悩みも今日でおさらば!と思ってもちろんアンスリウムに持ってこさせようとした!!
「一応こんな所でも王家なんだ。最上級ポーションの一本や二本あるだろ。さっさと持って来い」
「申し訳ございません、ご主人様。そのような高級ポーションは滅多に出回らないのです。特殊な製法かつ素材がものすごく貴重で、オークションなどでもごくごく稀に見かける程でして。たとえ王家であったとしても入手するのは非常に困難なのです…ですので現在は持ち合わせておりません。」
長ったらしく言い訳をしたあげく、持ってないとほざきやがった。
王家という以外に取り柄はないのかね。
「お前は本当に使えないな。何なら出来るんだ?」
「り、料理?」
「冗談も程々にしろよ?俺にお前の作ったものをまた食えというのか?それなら、トイレの水を常飲する方がマシだ。」
「そ、そうじ、掃除ができます!」
「トイレより汚い手が掃除したら本末転倒だろ、馬鹿者。」
もはや、無能過ぎて漫才にしかならない始末。
出来ることならこの奴隷チェンジしたい。
これで有能な固有スキルの一つでも持っていたら救いようがあったのに…マジで何も持ってなかった。
はて、王家とは?
愛野雫の神聖魔法でなら治せるかもと言っていたが、レベルが上がらなければそれも期待できないらしい。
神聖魔法は支援の面が強く、レベルが上がるのも他とは違い緩やかなんだとか…
そんなの待ってられん!
あいつが俺を治してくれるかはさておき、そんなのはとにかく待ってられん!!!
愛野の成長をあてにして待って、愛野が死んだらどうするんだ。
いくらあいつが勇者でチート持ちだとしても死なない保証なんてない。
魔族とか超強いって聞くし、支援職のあいつが死ぬ可能性なんてめちゃくちゃありそうじゃん。
別に愛野がどんな死に方をしたとしても心は痛まないけど、それをあてにしていたせいで俺の精神にダメージが入るのは許せん。
アンスリウムにポーションの情報を集めさせるのは前提として、自分でもやれる事はしていかないとな。
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