俺の番

「ふふっはははぁふふっふっふふははは…ふふっっふふふふふふはっははっはっははははっはっはっっはっははっはははははっはっははは…」


 俺は今、地べたに両手を突きながら項垂れているアンスリウムを傍目に大笑いをかましていた。


 いつも響いていた絶叫や呻き声とは打って変わって地下牢には柊の笑い声がこだまする。


 笑いすぎて疲れたところで震えながら地べたで放心しているアンスリウムに呼びかけた。


「ねぇ、いつまでそうやってるつもり?」


「え、あ、ぁあの。こ、これ」


 ほんの数秒のうちに自身の首についてしまっている隷属の首輪を両手で掴みながら何とか言葉を絞り出すアンスリウム。


 手は地面に突いていた事もあり黒く汚れていて、首輪にもその手の跡がついてしまっている。


「お前の方が詳しいはずだろ。隷属の首輪だけど?」


「なぜ…ど、どうやって…」


「別に懇切丁寧に教えてあげてもいいけど、俺がお前を奴隷から解放することはないよ?それこそ、俺が悟りでもしない限りは。年末ジャンボで80回連続一等が当たったら考えてあげなくもないけどね。」


 年に一度は必ずある年末ジャンボに80回一等が出れば考えてあげるあたり、俺の寛大さが伺えるというものだろう。

 すぐ殺さないだけ感謝してほしいね。


「どうすれば、許していただけるのでしょうか…」


「そうだなぁ、まずお腹減ったな」


「でしたら、すぐにメイドに用意させます!!」


 俺の機嫌をとって何とかしようって魂胆ね。

 わかりやすいねぇ。


「え、これ食べなくていいの?」


 俺は盆に乗ったまま床に置いてある生ゴミランチを指差してアンスリウムの顔を見る。


「えぇ、いいのです。こんな物を食べていいようなお方ではありませんから」


 そういって、もはお家芸である蹴りを放って盆ごと蹴り飛ばすアンスリウム。


 てかコイツ変り身早すぎじゃね?早すぎて逆に感心するんだけど。


 おもちゃとか奴隷とかいってたのに急にお方扱いかよ。


 まぁこっちの方が面白いけど。


 アンスリウムが蹴ったパンとミルクは宙を舞って地面に落ちていき、灰色をした生ゴミミルクが床に広がりその上に生ゴミチップパンが着地した。


「おいおい、いいのか?イヴェール王国民の血と汗と涙の結晶がかわいそうなことになってるぞ。これは見過ごせないよなアンスリウム様!!!せっかくアンスリウム様が丹精込めて作ってくれた物だし、俺が食べようと思ってたんだけどさ……でも、これは俺が食べていいような物じゃないらしいし、、、どうしようか?」


 俺はかつてのアンスリウムに倣い、食べ物は粗末にしちゃダメだよね?と床の汚物を指で指す。


「床に落ちてしまったので、、残念で…」


「食べろよ」


「あの、ですから、床に…」


「なら仕方ない。俺が食べるしかないかな?」


 俺も食べたんだからお前も食えよ?と言外に滲ませながらアンスリウムの顔を見遣る。


「も、持ち帰って後でいたd」


「新鮮な方がいいだろ?」


 その場しのぎの嘘で逃げようとするアンスリウムの手を掴み引き止める。


「ッ……ク」


 逃げ場は無いと察したのか、部屋の隅にある生ごみランチに手を伸ばす。


 お。コイツ意外と肝が座ってるな。

 案外粘るじゃん。痛いのが嫌だから従ってるのか?

 もっとプライドの高さを全面に出してくると思ったんだけどな。


 それにしても見た目完全にうんこだな、トイレにあっても全く違和感ないくらい見事なうんこだ。


 よかった〜今日食べずに済んで!


「あ〜ごめんごめん。忘れてたよ。」


 そういって俺はアンスリウムの手がパンに触れる直前、靴でパンを踏みつける。


 そして、床の汚れと生ゴミミルクを生ゴミパンに染み込ませるように絡めていく。


「………。」


「勇者の俺が踏みつけたんだ!さっきよりはこれで綺麗になったはずだ!よかったよ、力になれて。人の役に立つのってこんなに気持ちがいいんだな!」


「ぁあの…」


「あーー、お礼はいいから早く食べてくれ!新鮮なうちにな。それとももう少し浄化しようか?」


「……いえ…いただきます。」


 もはや自分の言葉など聞かない俺に、再度覚悟を決めてパンに手を伸ばすアンスリウム。


「!?」


 手に持った瞬間、ミルクと汚れを吸い取りすぎたパンがほろほろと崩れていく。


 もはや両手をお椀型にしておかないと溢れていってしまう程に柔らかくなっていた。


「り、離乳食だな?よかったな。お腹に優しくなって。」


 お腹に優しいわけないだろと睨んでくるも、俺はただじっとその様子を見守る。


 笑いを我慢するのが大変だな。

 何とか離乳食とかいったけど、見た目完全にうんこから下○に進化しちゃってんだもん。


 俺の心が痛むくらい不憫に見える。

 まぁ、やらせてるの俺なんだけどさ。

 原因はアンスリウムだから俺無罪だよね?


「……ぅぅ…ぅぉぇ…うぅ…kぁっはぁハァハァ」


 うぅ。見てるこっちが吐きそうになってくるな。


「ハァハァ、ごちそうさまでした…うぅ。」


 途中何度も吐きそうになりながらも何とか完食したアンスリウム。

 口元を抑えて吐くのを我慢しているが顔色は最悪だ。


「あぁ、お粗末様でした。ってお前が作ったんだったか。でも、まぁこれでイヴェール王国民も悲しまずに済むだろう。美味しかったか?」


「えぇ、まぁ多少癖はありましたが…。」


 うわー意外と根性あるよなーこいつ。

 まぁここで不味いって言ったら何されるか分かったもんじゃないか。

 

 でもこのままじゃつまんないし…


「そうか、なら明日からは俺が作ってやろう。作って貰ってばかりじゃ悪いからな!」


 はは、異世界料理と称すれば何でもありだろ?


「い、いえ。お手を煩わせるわk…」


「いや、いいよ。本当に。の恩返しがしたいんだ。」



 取り敢えず、最初はこんなもんだろ。

 少しは気が晴れたし、これからいくらでもできるしな。








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