逆転

 いつも通り食事を持ってやってきたアンスリウム。


「今日は一段と臭いな…何だそれは。」

 いつも臭いが今日は食べ物かも怪しいな、まぁ今日は食べずに済むから何でも良いけど。

 

 よく見ると盆に乗っているそれは異世界に来て最初に食べたのと同じ献立。

 だが、以前よりも異臭を放つそのパンとミルクだと思わしき物体に思わず顔を顰める。

 パンに関してはチョコチップの如く表面に異物が浮き出ており、ミルクは絵の具の水入れに残ったような灰色をしている。


「ふふふ、今日は貴方のリクエスト通りに作ったのですよ?私特製生ゴミランチです。」


 以前おっしゃってましたよねと言わんばかりに、俺を嘲るクソ女。 


 完全にやることがガキだな。

 まぁ、いい。

 俺が食べる訳じゃないし、煽られたらそれ以上に煽り返すだけだ。


「本当に生ゴミだけなのか?それにしては臭すぎる。お前の経血でもぶち込んでるんじゃないだろうな?噂には聞いてたが、本当にそんなことするイカれ女って存在するんだな。ヤンデレの考えることは異世界でも共通なのか?それともどこかでそういう教材でも売ってるのか?ヤンデレになるほど俺のことを想ってくれているところ大変痛み入るが、お前より想像のオークの方が100億倍好みなんだ。だからその臭い飯は自分で食ってくれ。得意だろ?自分で自分の処理するの。」


「……ッ⁉︎………今日は随分と威勢がいいのですね。また私の鞭が欲しくなったのならそう言ってくださればいくらでもやって差し上げますのよ?」


「お前の嗜虐心や性欲の吐け口にされるのはもううんざりだ。毎度、自慰行為のおかずにされるこっちの身にもなってみろ。昨日なんかお前が萎えないようにアンアン言って演技までしてやったんだぞ?」


 およそ奴隷の身分とは思えない俺の物言いに、一瞬呆けたクソ女は顔をピクピク引き攣らせながら何とか主人としての体裁を保とうと平静を装う。


「ふふふっ、強がるのも大概にしなさい。昨日はあんなに泣き喚いていたではありませんか。ですがまぁ、そんなに言うならまた鳴かせて差し上げますよ。」


 そう言ってお得意のマジックバッグに手を入れ鞭を取り出す。

 狭い部屋の中なのも構わず器用に使いこなして俺に向かって思い切り振りかぶる。


 ピシッ


「…………」


 俺は勢い良く顔に向かって振られてくる鞭を右腕でガードして受ける。

 受けた腕は赤くミミズ腫れならぬヘビくらいの太さの痕がくっきり残る。

 徐々に血が滲んで浮き出てくるが眉一つ動かさない。


 アンスリウムは昨日まであれほど痛がっていたはずの鞭による打撃に平然とする柊に驚きを隠せない。


「!?…なぜ…痛く無いのですか?」


 それを俺はまたもや淡々と答える。


「痛いに決まってるじゃん。」


 いくら痛覚耐性や打撃耐性があっても所詮耐性だ。

 無効になっているわけでない限り耐えられはしても痛いものは痛いのだ。

 ステータスが初期値だから体は脆いし…

 まぁ、俺の場合精神耐性も痛覚耐性もあるから体のダメージ以外はそれほどキツくないんだけどね。


「痛いならどうして…」


「そりゃ、あれだけ拷問されたら耐性スキルの一つや二つ上がるだろうよ?」


 訳がわからないと不思議がる低知能女に俺は、アンタのおかげだろ?とでもいうように皮肉を多分に含んで教えてあげる。


「なるほどそういうことですか。ふふ、私としたことが…えぇ、そうでしたね。耐性スキルがありましたね。ですが耐えられるからなんだというのです?痛いものは痛いのでしょう。それならやる事は前と何ら変わりません。私は貴方をいたぶるだけです。」


 あまりにも貴方がよく鳴くものですから、すっかり失念しておりました。と自分の無能を棚に上げて、俺のせいにしてきたコイツにはもはや呆れて声も出ない。


 うふふ、と謎が解けてまた楽しさが戻ってきたのか不敵に笑うアンスリウム。

 そして俺の絶望を誘うように…少し溜めて言葉を紡ぐ。


「それに打撃がだめなら斬撃を、斬撃がダメなら状態異常を与えれば良いだけです。遊び方はたくさんあるのですよ?」


 耐性スキルを得た俺を…

 

 この言葉で絶望させたかったのだろう。


 奴隷であると思い知らせたかったのだろう。


 これからも存分に弄べると思ったのだろう。


 だけど残念そろそろ攻守交代の時間だ。





「ほう、それは参考になるな〜。」


「…?」


「いや、そろそろ俺も遊びたいと思ってね」


「…なにを、、言っているのですか?」


「次はお前が俺のおもちゃになれって言ってんの」


「うふふふふ、ふっふはははぁぁ…何を言い出すのかと思えば。私に奴隷になれと?」


「だからそうだって。俺ばっかりおもちゃにされるのは不公平だろ?」


「ふふ、私が奴隷ですって?王女の私が??そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ませんわ!!そもそも貴方は既に私の…」


 

 クソ女が話している途中にも関わらず、俺は密かに死角になっている自分の背後にボックスを出す。

 そして黒纏を展開し、昨日自分の魔力で首に装着し直していた隷属の首輪を瞬時に纏い収納する。


「なっ!?」


 俺の首にあったはずの首輪が一瞬でなくなったことに驚愕し目を見開いているアンスリウム。

 それを横目にそのままの勢いで、黒廛をクソ女の首に巻きつくように展開していく。

 すぐに首輪のような型が形作られ、そこに異空間に収納してあった隷属の首輪を取り出す。


 すると、あら不思議。

 王女奴隷の出来上がりだ。


 因みに俺の首から最初に取り外した時に、既に首輪に流れているアンスリウムの魔力を俺の魔力で上書き済みだ。

 今日好き勝手に振る舞っていたのは、クソ女に命令されても隷属の首輪は機能しないって分かっていたから。

 俺のボックスだからこそ出来る偽装工作って訳。


 ここまでおよそ5秒足らず。


「うん!おおよそイメージ通りにできたな!!」


 さっきまであれほど饒舌に話していたアンスリウムがトレードマークである金髪縦ロールを汚い地面につけて項垂れるのを傍目に、俺はここ最近でとびきり一番のを浮かべるのだった。

























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