おもちゃ

 勇者達もといクラスメイト達が居なくなると、体育館ほどの大きさをした玉座の間が静寂に包まれる。


 俺が玉座の方を向きながらどうしたらいいか分からず、その場にポツンと佇んでいるとカイン陛下が口火を切る。


「アンリ、一体急にどうしたんだ。ステータスの確認をした後はこちらの世界の詳細を話す予定だっただろう。予定を切り上げたのはそちらの勇者様が関係しているのかい?」

 

 普段はアンリと呼んでいるのだろう、この場に俺を残した理由をアンリことアンスリウムに尋ねる。


「お父様、もう我慢できないのです。おもちゃが欲しくてたまらないのです。もう随分と私我慢しているのですよ?もういいでしょう、、??いいじゃないですかこの者なら、既に壊れているのですから……」


 強烈な衝動を抑えるように、はぁはぁと息を荒げながらカイン陛下に訴えるアンスリウム王女。


 俺は何が起きているのか分からず陛下と王女の間に視線を行き来させる。


 すると、陛下は何かを察した様に額に手を当てながら、深いため息を吐いた。


 「はぁぁぁぁぁ、何でお前はそう堪え性がないんだ。少しは自制をする努力をしなさい…………で、例の計画には支障ないんだろうね。」


 「はい!!!陣内真、新田衛、石川冴子、愛野雫、以上4名の固有スキルは予想以上でした!!他の方もこの4名と肩を並べる可能性のある方ばかりです!!!一人二人欠けたところで支障は出ないはずです!!」


「ならいい、許可する。でも他の勇者達にはしっかり弁明するんだよ。もちろん、疑われないようにね。」


 陛下から出た許可にとびっきりの笑顔でありがとうございます!!と返事をしたアンスリウムは、俺の方に向き直ると不気味に口角をつり上げる。


 その異様な雰囲気に、内容はよく分からなくても何となくマズイ状況だと察した俺は即座に後方にある扉へと目を向ける。


 直後、扉へ向かおうとする俺の後方からアンスリウムが大声で「トーマス!!」と叫ぶ。


 その瞬間、部屋の隅で控えていたはずの執事のお爺さんことトーマスが俺の目の前に突如現れると、髪の毛が何本も抜けるほど強く頭を掴まれ、その勢いのまま床に顔面から叩きつけられる。


 一瞬の出来事に混乱しながらも、確かに感じる顔面の痛み。

 鼻はジンジンと熱を帯びていき、歯が何本か折れたのか口の中は鉄のような血の味で広がる。

 叩きつけられたのが絨毯の上でなければ、この程度では済まなかっただろう。


 俺が床に鼻血を垂らしながら、うつ伏せの状態で動けないでいると、シワひとつない執事服を綺麗に着こなしたトーマスが再度、俺の髪を掴んで顔を持ち上げさせ王女の方に向ける。


 すると王女は満面の笑みを浮かべながら徐に俺の首に手を回す。

 カチっていう音ともに銀色の何かが俺の首に着けられる。


 首の方に手を近づけてそっとその首輪に触れてみると、窪み一つないツルツルとした材質だった。

 それは元から外す事など想定されてないような、外す事が出来ないような設計で嫌な予感が脳裏をよぎる。


 「どういうことだ、説明しろ…」


 もはや言葉遣いなど気にしていられない。

 勇者様だと迎えられていた状況とは一変、俺は今一方的に攻撃され、訳のわからないものを付けられている。


 「ウフフ、威勢がいいのね!いいわ教えてあげますわ。あなたは勇者様から私のおもちゃになったのですよ!!」


「ふざけるな…!!!」

 そう意味がわからないと激昂しながら王女を睨む。

 首輪をつけられてから、なぜかトーマスによる拘束が解かれている。

 すぐにチャンスだと思い近くにいた王女を殴ろうと振りかぶる。

 

 そのまま拳が王女に当たると思った矢先。


 首輪から全身に強烈な電流が流される。

 意識を保つのがやっとなほどの電流が…


 全身火傷を負った時のように皮膚が焼け焦げていく感覚。

 ツーンと鼻に残る不快な匂いが俺の周りを漂う。


「ハァハァハァ…なんだ。コレは…」


「しょうがないですね〜、特別ですよ!それはです。その装置に私の魔力を流して貴方に着けるとあら不思議!主人と奴隷の出来上がりです!私にを加えようとしたり、したことに背こうとすると今みたいにビリビリしちゃいます!」


 人差し指をピンと立ててそれはそれは楽しそうに説明するアンスリウム


 「主人…奴隷…?俺が……。』

 

 俺がその衝撃の事実に呆然としていると、さらに語り気を強めて続ける。


「それだけじゃないですよ?これの本当にすごい所は絶対に壊せない所なんです!!剣でも魔法でも傷一つ付けられないんですよ!不思議ですね!一度つけられたらおしまいなんです!うふふ。ただ、今これ結構貴重なんでたくさんは手に入らないんですよ!残念です…」


 これまでの大人っぽい雰囲気とは異なり、完全におもちゃで楽しむ少女のような振る舞い。

 その見た目と中身のギャップに、俺は悍ましさを感じざるを得なかった。


 俺が苦しい時はいつも誰かが笑っている。

 異世界に来ても変わらない。

 

 しかし諦める訳にはいかない。

 幸せに生きるという夢を。

 

 どこまでも理不尽な扱いを受ける現実に自分自身が諦めてしまわないように、ぎゅっと拳を強く握りなおして、せめてもの反抗で俺はもう一度アンスリウムに殴りかかる。


 「なんで、何で…俺なんだよぉぉお!!!」


 またもや当たる前に電流が流れ、二回連続の電流に耐え切れなかった俺の意識は召喚された時のようにプツンと途切れるのだった。


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