質問
クラスメイト達が未だ異世界という単語に混乱するなか、俺は聞かずにはいられなかった。
「あの。元の世界に帰ることは出来ないのでしょうか?」
教室ですら一言も発することがなかった俺が、この場で発言したことにびっくりしたクラスメイト全員が俺に注目する。
そして集団後方の隅にいた俺の姿を視界にとらえた王女は、その異様な姿に驚き一瞬目を見開きながらも質問に答える。
「申し訳ありません。実情すぐに元の世界へお返しする手立てはありません。事実、召喚魔法には膨大な魔力が必要なのです。今回の召喚も、イヴェール王国が長い歳月をかけて溜め続けた魔力を使っての召喚だったのです。」
俺は身体が急に鉛のように重くなり、膝から崩れ落ちそうになるのを脚に力を入れ直してぐっと堪える。
その事実にクラスメイトたちも動揺して騒めく。
ですが、と王女が続ける。
「皆様がレベルを上げ、魔王を倒しうる程にまで成長した場合、皆様の魔力を合わせることで通常よりも早く魔力を溜めることが可能です。何年掛かるかは皆様の成長次第ですが、あちらの世界へ送り返す事が出来るかもしれません。」
それって結局は強くなるしか無いってことね。
勝手に召喚しといて、魔王倒せるくらいになったら帰れるかもしれないから頑張ってねってこと?
かもってことは確実じゃないんでしょ?
ちょっと図々しいんじゃないの王女様?
あんたそんな偉いの?
あ、王女だから偉いのか。
でも俺異世界人だしノーカンじゃね?
俺も実は皇帝ですとか言ったら優遇されて早く帰らせてくれたりしない?
おっと、あまりにも一方的なお願いに思わず愚痴っちゃったよ。
だってそんなの半分脅しじゃん、魔王倒すまで帰しませんって。
みんながそれで納得するわけないでしょ。
「やってやろうぜ!!!」
「アンスリウム王女様がどうしてもっていうなら」
「王女様困ってるから助けてあげようよ」
「まー、帰れるんだからいっか。ちょっと面白そうだし」
ノリノリじゃん。なんかもうノリノリじゃん。
俺が冷酷な人みたいじゃん。
ごめんって、だって不安じゃん?
かもって言ってたの聞こえなかった?
都合の悪いことは聞き流すタイプ?
でもそうだよね。
とやかく言っても仕方ないもんね。
ただでさえクラスで孤立している奴がここで異議を唱えても、自分の立場を悪くするだけだ。
ここは大人しく合わせておこう。
それにここは異世界なんだ。
今は王女と騎士達がこちらに友好的に接してくれて居るから良い。
だが、こちらに危害を加えないという保証もない。
もしかしたらあちらの意向にそぐわないとして処刑!なんて事もあるかもしれん。
魔王という共通の敵がいたとしても今は敵対するべきじゃない。
文字通り右も左も分からないし。
「皆様、ありがとうございます。さすがは勇者様です。我らイヴェール王国一同心より感謝申し上げます。まだまだ質問したい事ばかりでしょう。ですがここで話すのもなんですから一先ず玉座の間へ移動しましょう。そこで王と謁見して頂き、皆様のステータスを確認しましょう。」
「うぉーーー!スキル!!俺のスキルなんだろ!!」
「俺は時間停止のスキル欲しいわ!!そしたら最強じゃね??」
アンスリウム王女のステータスという言葉に名前すら覚えていない男子達が早速浮き足立つ。
女子達に至っては異世界のインフラが気になるようで、やれシャンプーがやれトイレがとかそんな事を心配している。
能天気なクラスメイト達をよそに、俺は1人思案する。
圧倒的な非現実。浮かれる気持ちはわかる。
だが俺たちは元の世界より遥か遠くに、それも誰も認知できない場所に来てしまっているのだ。
元の世界で俺たちを悪意から守ってくれていた法律は通用しない。
あ、俺のはノーカンね。
それにここは魔物とかも居るって話だし、一旦元の世界の倫理観とか無視する方向で考えていかなきゃいつか絶対痛い目見るよな。
よし!ならやるべきことは決まった。
安全マージンが取れるまで強くなる!
少なくとも生殺与奪の権を他人に握らせない程度には。
お〜、このセリフ素で言っちゃったよ。なんか恥ずかしい。
差し当たって今の俺に出来ることは…
神様仏様母上様!!!
どうか卑小な私めにお情けを〜、できればチート能力を〜。
柊は玉座の間へ移動する道中、全力で自身の崇める存在に願うのだった。
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あとがき
1話ずつとか言っておいて、2話投稿しちゃいます。
明日も2話投稿ですね。
投稿時間分けてみようかな。
☆や♡が元気の源です。
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