召喚

 「ん。いてて」


 「おい、みんな起きろよ」


 「どこだよここ」


 「あれ、私たち教室にいたはずじゃ、」


 「教会?」


 先に目を覚ましたクラスメイト達の喧騒で意識が覚醒する。

 ひんやりと冷たいタイル張りの地面にうつ伏せに倒れていた体をゆっくりと起こして立ち上がる。

 そして辺りを見渡すと、さっきまで居た教室とは全く異なる光景が視界に広がる。


「確実に学校ではないな」


 日本でもなかなか見られないほどの立派な洋装。

 部屋の大きさは体育館のハーフコートくらいか?

 県立高校の年季の入った教室から一瞬でここまで移動した?

 いや、ありえないだろ。

 そもそもほんとに一瞬か?

 集団催眠にでもやられて、移動させられた?

 いやいや、落ち着け。

 集団でぞろぞろ移動してたら他の教員達が止めるだろ!


 そこまで考えが至ったところで、バァンと部屋に唯一あった、それこそ教会にあるような大きな扉が勢いよく開かれた。


 そしてそこからガチャガチャと音を立てながら、中世の騎士のような格好をした奴らが続々と出てくる。


 「な、なんだよ。」


 「俺らは何もしてないぞ!!」


 「やめて、来ないで。。」


 あまりにも物々しい雰囲気に大声を出して虚勢を張ったり、泣き出す生徒まで出てきた。


 かくいう俺も平静を装いながらもめちゃくちゃテンパっていた。

 騎士の腰に吊るされている剣をみて今どき剣で戦う国なんかあったっけ?とかあの鎧何キロするんだろとか。

 絶対に今じゃなくていい事を考えたりしていた。


 すると、騎士達が出てきた扉の奥からコツコツと足音が聞こえてくる。

 そして姿を現したのは1人の金髪縦ロールをした白人女性。

 見るからに豪奢で煌びやかなドレスに身を包み、どこか高貴さを感じる佇まいをしている。

 年齢はおそらく俺たちと同じくらいだろうか。


 ぼーっと見惚れる男子が続出するなか、その美少女は躊躇なく俺たちの前に対峙して柔らかな笑みを浮かべてみせる。


 「皆様、怖がらせて申し訳ありません。私はイヴェール王国の第一王女アンスリウム・イヴェールと申します。まずは話を聞いていただけないでしょうか。」


 第一王女アンスリウムと名乗った美少女に対し、質問したいことは山ほどあるがここは自分の出番ではないだろうと俺は大人しくする。


「話とは、現状を詳しく説明して頂けるという事でいいのでしょうか」


 そこで言葉を返したのは、騎士達が来た時には、集団のはるか後方にいた担任の長野正文だった。


 あ、こいつビビって生徒の後ろに隠れて居やがったなと思いながらも、今のこの状況の説明は俺も気になるところなので王女の声に熱心に耳を傾ける。


 「はい。端的にこの状況をお伝えするのでしたら、皆様は今我々人類を脅かそうとしている魔王及びその配下である魔族との戦いに力を貸して戴く為に、私たちイヴェール王国により召喚された異世界の勇者様です。」


 「異世界転移来たぁぁぁあ!!!!」

 「俺tueeeできる?!」

 「どうゆう事?」


 王女の言葉にクラスメイトの反応は二分した。

 サブカルに明るく、これからの流れをなんとなく察し、今か今かと待ちわびる奴。

 そして、異世界とか勇者とかアニメやゲームのような話を真剣にされて混乱する奴。


 俺もなんとなく状況を察せるくらいには、そういうものには触れてきたつもりだ。

 ほら、友達いないから現実逃避的な。ハハハ

 騎士と王女様が出てきたあたりから、こうなる予感はしてた。


 だが、重要なのはここからだ。

 元の世界に帰れるのか否か。


 俺は帰らなければならない、何としても。

 どんなに元の世界の居心地が悪くても。

 どんなに嫌悪感を抱かれていたとしても。


 確実に現実世界では大騒ぎになっているはずだ。

 いくら年間行方不明者が多いからといっても、クラス丸ごと、それも担任も同伴で行方不明は異常事態すぎるだろう。

 脳裏に母の泣き顔がチラつく。


 ごめん母さん、心配かけて。

 でも俺必ずまた会いに行くからね。

 元気で楽しく生きている姿を見せるから。

 俺が笑って生きてくれることが何よりの幸せだといってくれた母さんの言葉を胸に、俺は昔決意したはずのことを今一度決意する。


 

 

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