突如

 高校に入学しておよそ半年目に突入した夏休み明けの9月1日。

 始業式に参加するため学校へと歩を進める柊は、暗黒時代の事を回顧しながらフッと笑う。


 ありゃきつかったもんなー。

 自分で言うのもアレだけど、めちゃくちゃ可愛いショタだったのに、家庭科の実習で火だるまになってからは仰天ニュースに出れるくらい顔面凶器になっちゃったからね。 


 よく立ち直ったもんだ。母上様々。

 あの時の母さん、教育委員会とか学校とか故意ではなかったとしても火傷させた男子生徒の保護者諸々にブチギレて殴り込みにいってたもんね。


 まぁでも、息子の見てくれが変わってもこんなに愛してくれるんだなって分かって嬉しかったっけ。


 あー、通行人とかめっちゃ見てくるんだけどどうしよう。

 いや、どうしようもないんだけど…どうにか見慣れてくれないものか。


 夏休みの間、俺を全肯定してくれる母さんといたから少し弱気になっちゃったかな。

 そのうち待ち合わせとかに使われちゃったりして。

 「顔面凶器の横で待ってるよ〜」なんちゃって…あれ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。



 通行人の方々の珍獣を見るような視線になんとか耐えながら校門をくぐる。


 ひと月ちょっとぶりに教室1ーGに入ると。

 うん、お呼びじゃないオーラが半端ない。

 久しぶりに感じるこの学校特有の緊張感に少し身体が震えそうになる。


 中学の頃よりは露骨に暴言は吐かれないが、顔を顰めたり、鼻をつまんだり、聞こえるか聞こえないかの絶妙な陰口で間接的に攻撃してくる。

 まぁ、殴られないだけマシか。


 でも待って、俺臭い?臭くないよね?お風呂なら夜だけじゃなくて、朝シャンまでしてるよ?なんなら綺麗好きだよ?ウェットティッシュとか常備してるくらいだよ?顔を顰めるのは仕方なくても、鼻をつまむのは許さん!!


 そんな俺の心の叫びは誰に届くこともなく、俺は無表情のままなんともないかのようにその攻撃をスルーする。

 これは中学で虐められてからの教訓で、怯えたり、謝ったり、簡単に下手に出てはいけないのだ。


 まぁ、母さんに言われたんだけどね。


 「柊は何一つ悪いことなんてしてないんだから堂々としてなさい!いじめっ子共は反応すればするほど付け上がるんだから強気でいるの!!心の中で弱音は吐いても態度は強気でいるのよ!!大丈夫!!もし問題になったら母さんが学校に乗り込んでやるんだから!!」


 俺に何かあったと分かったら確実にぶっ飛んでくるであろうモンスターペアレントという教師泣かせの最強カードの存在にほっと一息ついて落ち着く俺。


 平常心平常心。


 そして、夏休み前の記憶を思い出して自分の席だった窓際の一番後ろの席で腰を下ろす。

 

 時間を確認すると、8時20分。

 この学校は、8時30分からホームルームが始まるため、その時点で着席していなければ遅刻扱いされる。


 いつもはホームルームまでの時間が苦行でしかないからギリギリに着くように調整して登校するのだが、久しぶりだったので念の為早めに家を出たら案の定10分早く着いてしまった。


 え?なんで、苦行なのって?

 半年経っても友達がいないからだけど??

 

 一応中学と環境を変えようと必死に勉強して、地元から遠く進学校の知り合いのいない高校に進学したのだ。

 元から友達なんて居なかったけど、ここでもできなかったね。

 まぁでも中学よりは過ごしやすくなって良かったよね。


 この10分はなるべく目立たちたくないので忍びの如く気配を消そう。

 自慢じゃないけど、俺はトラブルメーカーだからね。

 絡まれる方だけど。

 

 そして教室で気配を殺すこと10分。 

 教室に入ってきたのは我が1年G組の担任を務める長身で人当たりの良さそうな顔をした長野正文ながのまさふみだった。


 うん、今日はついてる日だ。

 早く着いたにも関わらず、誰にも絡まれずにホームルームまで耐えた。

 みんな夏休みトークで忙しかったみたいだな。


 ふふふ、これは幸先いいな!

 二学期は平和に過ごせるかもしれない!


 長野が簡単に今日の日程を説明するなか、1人脳内で二学期に期待に胸を躍らせていると突如、身体の自由が効かなくなった。


 突然の出来事にあたりを見渡そうとするが、身体が微動だにしない。

 かろうじて動かせる眼球だけを必死に動かして、見える範囲を確認すると皆同じように動けないようでその場に固まっていた。


 そして徐々に地面が光だし、そこで意識がプツンと途切れた。




______________________

あとがき

初投稿なので、3話一気に公開します!

明日からは、1話ずつの予定です。


何かと拙いとは思いますが、応援してくれたら嬉しいです!

読んでくれた方には、電波に乗せて土下座してます。



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