決意

 ーーーーしかしそんな俺にも、身体が傷付いたら心配し、心が壊れそうになったら抱きしめ、俺のことを誰よりも思ってくれる人がいる。

 それは、母さんだ。


 父さんは、俺が4歳の頃に突然心臓病で亡くなってしまい、それからは母さんが女手一つで育ててくれている。


 若くして子供を1人で育てるのは相当大変だったはずなのに、そんな様子をおくびにも出さない母さんはすごく尊敬できる人だ。

 

 火傷の件を学校からの電話で知ったときは、仕事を途中で放り出して大慌てで病院に向かったらしい。


 病院で俺が目を覚ました時は、母さんのこれまでに見たことのない顔を見てびっくりしたのを今でも覚えている。


 いつも明るく笑みを浮かべていた顔は、見たこともないほど憔悴しており、何度も泣いたのであろう目元は袖で擦りすぎて内出血して真っ赤になっていた。

 

 俺の目が覚めたことに気づくと、火傷が痛まないように触れるか触れないかの力加減で優しく抱きしめてこう言った。

 

 「柊。痛かったね。怖かったね。生きててくれてありがとうね。私は柊が生きていてくれるだけ嬉しいの。今はまだわからないかもしれないけど、あなたにはこれからたくさん辛いことや悲しいことがあると思うの。でもね、これだけは忘れないで。私は世界中が…いいえ。宇宙全体があなたの敵になったとしてもあなたのだと言い切れるわ、だからおねがい…生きて……。」


 そう泣きながら半ば懇願するように。

 声が震えないように気をつけて言葉を発する母さんの言っている意味が最初は分からなかった。

 だが、その後手鏡で映し出された自分の顔を見たときに全てを悟ったのだった。


 それまで比較的整っていた顔は見る影もなく歪んでおり、正常な肌を見つけるのが困難なほどの火傷を負っていた。


 その瞬間、あの時の激痛がフラッシュバックし、呼吸が乱れ、手が震え、過呼吸になるほどの動悸。

 

 これは夢だ、夢なんだ。

 悪い夢を見ているのだと。


 何度も心で唱えながらも変わらない現状。


 小学5年生で受け止めるにはあまりにも辛すぎる現実。

 大人の精神でも簡単に壊れてもおかしくないほどの急激な精神のストレスと身体的ダメージが柊を壊していく。


 それからの日々はまさに生き地獄のようだった。

 眠れば悪夢にうなされ、起きては酷い火傷の後遺症という辛い現実が待っていたから。

 

 それでも今立ち直れているのは、母さんが仕事終わりに毎日病室まで駆けつけて看病し、次の日の朝まで悪い夢を見ないように、柊が前を向けるようにと隣に居続けてくれていたからだ。


 そして母さんの献身的な支えとその母の思いに答えようとした結果。


 柊が入院して半年が経つ頃には会話が問題なく成り立つほどに心が回復していた。


 「お母さん。僕、また友達できるかな?」 

  

 「当たり前じゃないの!!柊はお母さんの自慢の息子なんだから人気者間違いなしよ!」

 

 「でも、僕こんな顔になっちゃったし、怖いよ。ひとりぼっちになっちゃう」

 

 「バカね、柊がひとりぼっちになることなんてないわよ。だって私はいつも…」

 

 「柊の??」


 「ふふ。えぇそうよ!!分かってるじゃない!!だからもしあなたを傷つける人がいてもそんなの相手にしちゃダメよ!あなた自身のことを見てくれる人はきっと現れるからね?あなたが笑って生きてくれたら私は宇宙一幸せなんだから!!!」


 そう言いながらにこりと以前のように笑う母さんの顔を見て柊は11歳にして決意するのだった。


 母さんがもう二度と悲しい顔をしなくて済むように。


 俺の笑顔が母さんの笑顔にも繋がるのなら……俺は



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