(仮)笑う門には福来る〜疎まれ続けた少年、異世界で我儘に生きる〜
葉月水
はじまり
「それじゃ始業式、行ってくるよ母さん」
「行ってらっしゃい、無理しないでね?」
「それは俺のセリフだよ。朝から晩まで働きっぱなしじゃないか」
「平気よ!母さんだってまだ若いんだから!!」
「え、母さんってもうすぐアラフォーじゃ…」
「………ん?何か言ったかしら?よく聞こえなかったわ。もう歳なのかしら」
「いえ、不老なのではと疑うほどに若々しいなと」
「んふふ、冗談よ。引き止めてごめんさいね。行ってらっしゃい!柊!」
そんなショートコントのような茶番を朝から繰り広げながら、俺は家を出て学校へと歩を進める。
「そんな無理してるように見えるのかな。今は全然平気なんだけどな」
母に心配をかけたことを1人反省しながら昔のことをふと思い出す。
##############
俺ーーーー
それも今に始まった事ではない。
あれは小学五年生の家庭科の授業でやった調理実習の時、俺は重度の火傷をした。
今思えばそれが全ての始まりだった。
家庭科の実習で味噌汁を調理中、コンロの火が1人の男子生徒のエプロンに燃え移る。
焦ったその男子生徒はエプロンを即座に脱ぎ、投げ捨てた。
そして運悪くその投げ捨てた場所に居合わせたのが俺だ。
火がエプロンに燃え移り大きくなっていたこともあり、俺の身につけていた服にもすぐに引火した。
そして瞬く間に全身が火に包まれた時、俺はその想像を絶する苦痛に悶え、絶叫しながら転げ回った。
「うああああぁぁぁぁぁあああああっうああああああああぅぅああああああぅ」
それは担当教師がバケツで俺に水をかけるまで続き、学校中に俺の声が響き渡ったという。
不幸中の幸いと言えるのか怪しいが、俺は奇跡的に一命を取り留めた。
すぐに病院に搬送され処置を施されるが、5年以上たった今でも皮膚の損傷がひどく所々皮膚の色は蝋のように白くなっていたり、炭のように黒くなっていたりなど変色している。
顔も今となっては見慣れたものだが、冷静になって見てみると福笑いで出来上がる顔がイケてるように見えるほどだ。
全身に火傷の跡が残っている為、もちろん普通の青春など送れるはずがない。
小学生の頃はまだ良かった。
同情心からか腫れ物のように扱われたり、少し陰口を叩かれたりした事はあっても表立って虐められるなんて事はなかった。
状況が悪化したのは中学に入ってからだ。
その地域にある小学校から人が集まるため、小学校の頃に比べて人数はおよそ3倍に膨れ上がった。
人が増えるとその分価値観もさまざまだ。
完全に被害者であっても関係ない。
事実なんてどうでもいい。
俺が醜いから罵倒するし、俺が醜いから鬱憤を晴らす為のサンドバックにする。
火傷の跡の他に青あざもどんどん追加されより醜くなっていく。
「お前その顔でよく学校これるな、俺だったら恥ずかしくて秒で自殺するわ」
「体調悪くなるからこっち見ないで、吐き気がする。」
「風紀委員会でーす。粗大ゴミを浄化しにきました〜」
何度やめてくれと頼んでもエスカレートするばかり。
「いじめ?バカ言うな回夜。うちの学校にそんな低レベルなことする生徒はおらん。」
周りは俺が何を言っても聞いてはくれないし、聞こえないふりをするだけだ。
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