第2話 1日目・夜/内心




 私、木隅きすみハルには幼馴染みがいる。


 同じ学校に通う女の子……なのだけど、なぜだか年々カッコよくなっていく。そのため、男の子に興味はあっても縁もないし出会いもない、乙女ばかりのこの学校では『王子様』と呼ばれ人気を集めている。


 現在、その『王子様』こと宮代みやしろナオを独占しているのは、現『女王』桐生きりゅう観納古みなこ――何かと理由をつけては一緒にいたり、自分の仕事をナオに押し付けたりしているのだ。仕事を押し付けたりパシリに使えるのは『女王』の特権ではあるけれど――そのたびに、思い知らされる。


 クラスでも日陰者である私が今の幼馴染みと釣り合うためには、『女王』にでもなるしかない、と――


 ――そして、運命は私に「勝て」と囁いている。


 私の役職は殺害された人間を助けることが出来る【医者】――これだけでは『一般陣営』として勝利する以外に道はないが、今回は決勝戦。私にもまた特殊な勝利条件が設けられている。


 ――【恋人A】。


 相手パートナーに道連れにされるリスクはあるものの、相手の役職を知り、連携をとることも可能。


 しかも今回、私の相手は【殺人犯】その人だ。


 これが大きなアドバンテージなのは言うまでもない。

 桐生さんを安全に殺し、役職を知ることが出来るのだ。彼女を助けることで恩も売れるだろう。私を「味方」と思わせることも可能だ。


 いいこと尽くしではあるけれど、一つ、問題がある。


来栖くるす】「二人きり、だね。お医者さんごっこ、する?」


 ……よりにもよって、私の恋人パートナーは来栖幸野ゆきのという、私とはまるで正反対な人格の持ち主なのである。


【木隅】「【桐生】、キル」


【来栖】「お願いしてくれなきゃヤダ」


 私は思わず彼女の方を見やるが、来栖さんは澄まし顔で授業を聞いている。私には見向きもしないまま、手元に隠したスマホで、


【木隅】「桐生さんを噛んでください。お願いします」


【来栖】「私のこと、好き?」


 ……面倒なことこの上ないけど、彼女の実力は確かだ。つい最近この学校に転校してきたばかりでシーズン途中からの参加であるにもかかわらず、連戦連勝を重ねてこうして決勝戦にまで食い込んできた。


 だから今打てる有効打について、詳しく説明せずとも意図は察してるはずなのに――


【木隅】「好き好き大好き愛してる」


 それぞれの役職が行動できる「夜時間」はそう長くない。早めに決断してもらうためにも、顔が熱くなるのを堪えてメッセージを打った。GMにも見られていることは承知の上だが、もはやヤケだ。


【来栖】「ダーリンのお願いなら……」


 ……これで、後は私がGMに個別チャットで【桐生】の部屋を訪れる旨を連絡すれば――


平塚ひらつかGM】「桐生さんが重傷を負っていましたが、回復が間に合い助かりました。

 桐生さんの役職は【悪役令嬢】です」


 すぐに返信が来た。【警官】に止められることだけが気がかりだったけど、なんとか通ったようだ。来栖さんが万が一止められていても、【警官】には役職バレしないから、【医者】だと言い逃れさせるつもりだったが。


 ともあれ――


 これで明日の夜、安心して彼女を殺せる。




   /




 桐生さんの一言によって議論時間を奪われてしまったため、初日の定石である【霊能者】のCO《カミングアウト》について考察する余裕がなかったが――


節見ふしみ】が【宮代】を、【染井そめい】が【節見】を【殺人犯オオカミ】だと告げた。


【霊能者】は議論の中心を担うだけに、もっとも命の危機に晒される役職だ。本人たちは自分に確信を持てないが、名前を出された当の【殺人犯】にはどちらが本物かが分かるのだ。


 私はオオカミの正体を知っているから、これらの証言が嘘だと分かる。【真】は身を隠しているのか、あえて偽証しているのだ。私に弊害はないのでどちらでもいいが、この誘導でナオちゃんが吊られるのは避けたいところ。


 私が勝つためにはどこかでナオちゃんを切り捨てなければならないとは、分かっているけれど――なるべくなら、投票での死は避けたい。


 これは、闇のゲーム――吊られた者には、相応の罰則が与えられるのだから。



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