xxxゲーム

人生

第1話 公開処刑/1日目




 投票で選ばれた一人の生徒が席を立つ。

 教室にいるほぼ全員がそちらに目を向ける中、黒板の前に立つ女性教師だけがこちらに背を向けていて気付かない。


「先生!」


 席を立った少女が声をかけ、教師はようやく振り向いた。


「……何?」


 低い声音、胡乱な眼差し。声を上げた少女は「うっ」と息を呑んでから、



「お、大きな声では言えないけども、

 め……面と向かっても言えないけども、

 でも……、

 ときには声を大にして、

 うれしい気持ちを伝えます。


 ……先生、お誕生日おめでとうございます」



 シン、と耳が痛くなるような沈黙があった。それから、


「……サプライズとか、あるの?」


 先生はちらりと私たちに視線を走らせる。皆それとなく目をそらした。


「……い、いえ……」


独断専行ソロプレイ?」


「はい……」


「そう、ありがとう。じゃあ、あとで職員室に。……他には?」


「……あのう、トイレに行ってもよろしいでしょうか……」


「どうぞ」


 クラスメイト達の失笑を背に受けながら、こうして一人目の犠牲者が教室から去っていった。


 私も周りに合わせて苦笑を浮かべてみたけれど、内心では今にも叫びだしたい衝動に駆られている。


 ――これが、敗者に訪れる結末。


 一歩間違えば、私にも訪れる……。


 地獄のだまし合いはまだ、始まったばかりなのだ。




   /




 嵐によって外界と隔てられた孤島、集められた私たち7人は屋敷への滞在を余儀なくされた。

 そんな中、事件は起こったのである。



平塚ひらつかGM】「平塚さんの死体が発見されました」



 では、会議を始めてください――そのメッセージは当の平塚さんのスマホから発信されたものだけど、そこらへんは特にこだわらないようだ。今の彼女はただの平塚さんではない、ゲームマスターことGMだから別人という扱いなのかもしれない。


 ともあれ――私たち【一般客】は、自分たちの中に紛れ込んだ、平塚さんを殺した【殺人犯】を見つけ出さなければならないのである。

 さもなくば、次に死ぬのは私たちの中の誰か――


 とまあ、そんな……いわゆる『人狼ゲーム』を、私たちは授業中にスマホのメッセージアプリを使って行っている。


 ゲームとはいえ、遊びではない。

 負ければ「死」、勝者はクラスの実権を握る『女王』になれる――この乙女たちの園・アリスニア女学院にて形を変え手段を変えながら代々受け継がれてきた、演技力と政治力を兼ね備えた淑女たらんとするものたちが競い合う、闇の伝統。


 本日、その戦いに一つの決着がつく。


 各グループごとにもっとも点を稼いだ7人だけが参加できるシーズン最後の戦い。いわゆる決勝戦――それは予想外の一言から始まった。


桐生きりゅう】「私が殺しました」


 …………。


節見ふしみ】「へたくそか?」


 人狼とは、村人の中に紛れ込んだオオカミ……【殺人犯】を突き止めるゲームだ。


 本来であれば『村人』……『一般陣営』は協力して『人狼』こと『犯人陣営』を倒すものだが――これは決勝戦。誰もが「一人勝ち」を狙っており、またそれを可能とする特殊勝利条件を有した役職を得ている……。


【桐生】「殺すことで彼女を私だけのものにしたの。平塚さんの血液で私の部屋は赤く染まってるわ。見に来る?」


 ……桐生さんの発言はともかく……ここで自ら犯人だと名乗り出る意図は。


 素直に受け取れば、「吊られたい」のだろう。投票の結果、処刑されたいのだ。そのための不審者ムーブ……。


 今回のゲームには以下の役職がある。



   『一般陣営』


 ・【霊能者・真】初日、【殺人犯】を知ることが出来る。夜、死者を指名し、その役職を知ることが出来る。


 ・【警官】夜、指定した相手を一度だけ守ることが出来るが、その相手は夜に行動できない。【殺人犯】襲撃時、その正体を知る。ただし二度目はない。


 ・【医者】夜、指定した相手の部屋を訪れ、襲撃後であった場合それを蘇生する。蘇生時、その役職を知る。


 ・【記者】夜、指定した相手の動向を探ることが出来る。【殺人犯】を指名し、翌日その相手を処刑出来れば勝利権を得る。


 ・【詐欺師】生存時のみ、あらゆる役職に対して事前に指定した偽りの役職を提示する。一般陣営勝利時、生存していた場合優先的に勝利権を得る。


 ・【悪役令嬢】処刑されることが勝利条件。一般陣営勝利時、優先的に勝利権を得る。



   『犯人陣営』


 ・【殺人犯】夜に1人、指定し殺害できる。


 ・【霊能者・偽】基本的な能力は【真】と同じ。しかし初日に伝えられるのは偽の情報であり、自分が偽物である自覚がない。【狂信者】を兼ねるが、本人に通知されない。


 ・【狂信者】殺害されることが勝利条件。犯人陣営勝利時、優先的に勝利権を得る。



 ……以上に加え、両陣営にまたがる可能性のある【恋人】という、相手パートナーの役職を把握し、片方が死ねばもう片方も次の夜に自殺する特殊な役職がある。


 今回の場合、【恋人】以外の役職の重複かぶりはなし、参加者7名それぞれに何かしらの役職が与えられ――2名いる『犯人陣営』を処刑すれば『一般陣営』の、『一般陣営』を自陣営と同数になるまで殺害すれば『犯人陣営』の勝利となる。


 しかし皆が積極的に「一人勝ち」を狙っている現状、話はそう単純ではない。


 先の自白もそう。彼女が【悪役令嬢】なら処刑されることで勝利条件を満たす。シーズンを通しての獲得ポイントを考えると、それだけでも彼女の「勝利」は堅い。『一般陣営』が勝利すれば彼女の『女王』続投は確定する。


 対処法は【殺人犯オオカミ】が殺すことだが――それで実は【狂信者】だったという線も否めない。


 吊るにも殺すにもリスクが伴い、カバーするために他の役職が動くことも考えられる……。


 たった一言で初日の安全を保障してみせた――さすがは現『女王』。クラスの実権を長らく握り続けてきた、悪の女王……。


 私は彼女を打ち倒さなければならない。

 囚われの王子様を救うために。



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