二日目④

「...随分と楽しいことをなさっているようですわねぇ、澪未矢さん」


「「「「!?」」」」


紅愛の太ももをふきふきしていたら、そんな低くて冷たい声が入り口から聞こえてきた。


いや、もはや何となく展開が読めていたから”!?”ではないな。


「朝いちばんにわたくしのクラスでプリクラを撮ると約束したのに、それをすっぽかして赤条寺さんとイチャイチャですか」


そんな約束した覚えありませんけどね。


「栄那...これは」


「あら、わたくしには標準語を使うんですの?メスネコさん?」


年上でもないのに栄那にメスネコと言われるのは興奮する。


「なんで私がメスネコと言っても興奮しないのに栄那さんに言われたら興奮するんですか?」


紅愛が不満げに声を上げる。


よく俺が興奮するかしてないかが分かるな。


「よく見たら神楽さんと芯珠さんもいるんですのね」


栄那がこちらに近づいてきた。


「学校まで押しかけてくるとは、もうこれは一種の病気ですわね」


「それはどういうことですか栄那さん...?」


おいおいここでバチバチするな。


「まぁいいですわ。それよりもメニューはこれですわね」


栄那も堂々と三人の席に座り、メニューを凝視する。


「ちょっとにゃみやさん」


お前もにゃみやって言うのかよ。


「ど、どしましタニャン」


「なんでメニューに奉仕っていう欄がないのですか?」


そういえばクラスの女子がそんなことを提案していたな。


流石にクラスの男子全員(長谷川以外)で一致団結して反対したから採用されることはなかったが。


「あーちょっと奉仕というのは...」


「ちょっとそこのメイドさん」


俺が言い終わる前に近くにいた長谷川を呼ぶ。


「はい、どういたしましたか?」


俺の方をニヤニヤしながら聞いてくる長谷川。


この野郎。今の俺の状況を見て楽しんでるな。


「単刀直入に訊きます。何万出してくれれば奉仕を注文できますか?」


は?


何言ってるのこの人?


「そうですね...3万で」


おい、何お前が勝手に決めてんだよ。


それとなんで3万なんて微妙な金額にするんだよ。


「分かりました。支払います」


そう言って栄那が手を叩くと、七桜家の使用人みたいな人が入り口から出てきて長谷川に3万を渡した。


「毎度ありー」


今長谷川をぶん殴りそうになった。


「ではそうですね...」


栄那が奉仕の内容を考えるような仕草をする。


「では」


またもや栄那が手を叩くと、今度は使用人が犬のリードみたいなものを出す。


「......」


完全に察した。


「七桜さん...貴女は」


紅愛も察したようだ。


流石の紅愛でも止めてくれるかも


「センスがいいですね」


ちょっとでも紅愛を信用した俺が馬鹿だった。


「...?そのリードで何をするんですか?」


神楽がまだわかっていないように首を傾げる。


「神楽さん。もう無垢な子アピールはいいですから」


「赤条寺さんの言うととおりです。芯珠さん、いまだに無垢を演じている神楽さんに現実を教えてあげなさい」


「?芯珠?どういうことですか」


「...つまり栄那様はにゃみや様にリード付きの首輪をつけて散歩させるということです」


意外とストレートに言うな。


あといつになったらにゃみや呼びをやめるんだ?


「に、兄さんにリード付きの首輪...!?」


神楽のことだ。


そんなのだめです!!!とか言ってくれそうだな。


「...少しいいかも」


「え?」


今なんて言った。


「え、栄那さん、私も兄さんの首輪姿見てみたいです...//」


まさかの裏切り!?


「やっと素直になりましたね神楽さん」


え、この流れ本当に俺首輪つけられるの?


「澪未矢」


長谷川が肩を叩く。


「覚悟を決めろ」


「......」


お前はあとで絶対しばく。


「栄那様、にゃみや様には私が首輪をつけます」


「なんで積極的になってるの芯珠さん?」


芯珠が慣れた手つきで首輪をつけてくる。


意外ときついな。


首輪を付けると栄那がリードを引っ張る。


「ちょ、ちょっと痛い!」


「...ペットは飼い主に口答えなんてしませんわよ?」


いつの間にか女王様キャラに変わっているし。


「それでは皆さん、少しペットと散歩しに行ってきます」


「はい、お二人ともお気をつけて」


「兄さんの首輪姿...//」


「メスネコ先輩...首輪よく似合ってますよ」


なんでこういう時に限って修羅場にならないの?

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