タワマンへ
「ねぇ先輩、今先輩は妹とメイドと3人であの屋敷で暮らしているんですよね」
「ああ、そうだ」
タクシーで赤条寺のタワマンに向かっている途中に赤条寺がそんなことを訊いてきた。
「ご両親はどちらに...」
俺の予想だともう澪未矢の父親はこの世にいない。
母親は確か雫といったか。神楽の話だと俺のことを軽蔑してるっぽいから屋敷に帰ってくるのも年に数回ほどだろう。
「父親はもうだいぶ前に亡くなったよ。母は出張であまり帰ってこないな」
「そうですか...」
いつもの赤条寺とは思えないほど真面目な受け答えだな。
「で、そういう赤条寺はどうして親と一緒に暮らしていないんだ?」
これは普通なら踏み込んではいけない領域だが、赤条寺と親密になるチャンスでもある。
「...ただ単純にあの二人にとっては私の存在が邪魔なんです」
「邪魔?」
「自慢じゃありませんが私の家族は夫婦仲がとてもいいです。ヤンデレとまでは言いませんが完全に共依存です」
夫婦が共依存か。
...なんか気色悪いな。
「あの二人は本当は子供なんて欲しくなかったんです。ただあの二人の親が早く孫の顔を見せろとしつこく迫ってきたから私を生んだだけです」
「......」
「あの二人は私の本当に関心がなかった。小学校の運動会の時に応援に来てくれたことなんてありません。ましてや入学式の卒業式にも来てくれなかった」
俺には黙って赤条寺の話を聞くしかない。
「虐待みたいなことはされませんでした。お小遣いもたくさんくれたし、ほしい物はなんだって買ってくれました。でもそれは逆に言えば愛じゃなくて私には金しか与えなかった」
確かにな。金を与えるのと愛情を与えることはイコールじゃない。
「今回タワマンを買ったのもやっとこれで邪魔な私とおさらばできると思ってその記念みたいなことでしょう」
俺には想像できないが赤条寺は本気でそう感じているのがよく伝わる。
「でも私は本当は家族で過ごしたかった。3人であのタワマンで一緒に生活してたかった」
赤条寺の声が震え声に代わる。
「寂しい...私はただ寂しいだけなんです」
「......」
俺は今改めて赤条寺紅愛というキャラクターの設定を理解した。
ようはただただ寂しくて俺みたいな一緒に仲良く学校生活を送れる友達が欲しかっただけなのだ。
本心ではそう思っていたからこそ秋葉の不登校問題の時に友達の大切さを説いたのか。
「......」
赤条寺は黙っているが体が小刻みに震えている。
これはエロゲなので製品版ではこの場面に選択肢が出ていることだろう。
その選択肢を自分で想像して選択する。
俺は赤条寺の体を優しく抱いた抱いた。
「...先輩!?」
「...泣くな、お前の気持ちはよくわかる」
幸いにも夜崎澪未矢も似た環境に置かれている。
「さっき母が当分屋敷に帰ってこないって言ったろ?あれは単純に俺の顔を見たくもないからだ」
「...!?」
本当にそうなのかは正直わからないが。
「俺は頭脳もスポーツも全体の平均と同じかそれよりも劣っていると思う」
「それは百も承知です」
賛同するな。
「夜崎亭当主の立場で、なおかつ自分の息子がそんな出来だったら心底失望するだろう」
「はい」
ちょっとは否定してくれ。
「もう母はそんな俺をとっくに見限っているのさ。そんな勘当同然の俺の顔なんて見たくもないだろ?」
「当然です」
「......」
「でも、あの神楽とかいう上品ぶっているブラコンも次期当主には不適切なのでは?」
...考えてもみなかったが案外そういうことなのかもしれない。
神楽は前に俺だけ冷遇を受けていると言っていたが、本当は神楽のことも本人が知らないうちに見限ったのではないか。
だから全然屋敷に帰ってこないのではないだろうか。
だとしたらとんでもない鬼畜BBAだな。
「でもまぁ自分の子供を見捨てるような外道BBAが当主なんて夜崎家もいつか終わりですね」
そうなることが雫への復讐かもな。
「もし夜崎家が社会的地位を失ったら七桜さんとの婚約も当然白紙ですよね?」
「まぁそうだろうな」
「そ、その時は路頭に迷った先輩をし、仕方なく拾ってあげますよ...仕方なくです。久しぶりのツンデレサービスです」
すぐにツンデレサービスなんて言ったら意味ないだろ。
「...こんなことを言えるようになったのも先輩のおかげです」
俺は夜崎澪未矢と赤条寺紅愛の馴れ初めを知らないためその手の話題はやめてほしい。
「そろそろタワマンが見えてきたな」
目線の先には30階建てぐらいのタワマンがある。
赤条寺の部屋は最上階らしい。
「...なぁ、ちなみにあのタワマンっていくらぐらいしたんだ?」
「...少なくても三億は超えていますね」
「......」
やっぱり赤条寺家>夜崎家かもしれない。
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