赤条寺の家庭事情

「えーと、栄那さん、本当についてくるんですか?」


「ええ、わたくし一度おっしゃった言葉には責任を持つ主義ですの」


有言実行というやつか。


「...ついちゃったよ」


栄那と会話をしていたらもう生徒会室の前まで来ていた。


中を見ると赤条寺が何か作業をしているのが分かる。


今日は秋葉はいないのかな?


だとしたら好都合だ。


「どうぞ。まずは澪未矢さんからお入りくださいまし」


「...はい」


渋々生徒会室の扉を開く。


「あ、先輩遅いですよ、まさかトイレで45...なんですかこれ?」


今の発言にはいろいろと突っ込みたいところがある。


まず明らかに最初の方は淑女にあるまじきことを言おうとしていた。


まぁもともと赤条寺が淑女だったかと問われれば怪しいところだが。


次に栄那のことを”これ”とか言うな。


「あら、赤条寺さん、わたくしのことをこれ?というのは失礼では?」


「あ、何かと思えば栄那だったんですね。私はてっきり40年前ぐらいに生産が終了したフランス人形だと思いました」


どんな見方をしたらそう見えるんだよ。


「ちなみに先輩のことは修羅場製造機だと思っています」


あながち否定できない。


「それで先輩、なんで今日は栄那さんを連れてきたんですか?まさかいつものような修羅場を期待しているんですか?」


「いや、そういうわけでは」


「わたくしが来たのは今日の始業式の澪未矢さんのスピーチのことです」


「...そんなくだらないこと訊くためにわざわざここまで来たんですか?」


「...くだらないですって?」


栄那の目つきが変わる。


「よかったですね先輩。早くも修羅場突入です」


相変わらず余裕がある赤条寺。


「まぁ今日わざわざ赤条寺さんに会いに来たのはこんなことのためではありませんわ」


「え?」


これは俺も初耳だ。


「赤条寺さんの家に招待してはもらえませんこと?」


そういえばそんなこと言っていたな。


「...何が目的ですか栄那さん」


「いえ、どんな教育をすればこんなはしたない女子に育つのか気になっただけですわ」


「栄那。さすがにそういうことは」


「私は今親と一緒に住んでいません」


「「え?」」


栄那と声が重なる。


「親が住んでいないってお前確かあのデカいタワマンに住んでいなかったか?」


「はい、あれは高校合格祝いに親に買ってもらったものですよ」


タワマンを購入!?


夜崎家とは勝負にならないとか思っていたが意外と接戦かも。


「でもたしか夏休み中に俺と一緒に過ごすっていうのを親に言ったとか言ってなかったか?」


「あれは噓ですよ。先輩に親と一緒に住んでいないっていうことを知られたくなかっただけですよ」


すこし寂しそうな顔をして赤条寺が言う。


「そ、そうか...」


なんかそう言われるとちょっと気まずくなるな。


「...赤条寺さん。そんなことを一切知らずに無神経なことを訊いたことは謝りますわ」


あの栄那が頭を下げた!?


「まぁ許してあげますよ。その代わりに今日は澪未矢先輩を借りますけどいいですわね?」


「ええ、今日だけはわたくしの愛しの澪未矢さんをお貸ししますわ」


そう言って生徒会室から出て行った。


今日”だけ”というところ強調したのは気になるが。


「それで、今日はどんな雑務をこなせばいいんだ?」


「雑務はもう終わりました。先輩には今日一日私のタワマンで寝泊まりしてもらいます」


「え?」


寝泊り?


赤条寺のタワマンで?


「もちろん拒否権はありません。芯珠さんには私が連絡しておきます」


「いや、なんで俺が寝泊まりしなければならないんだよ」


「先輩、せっかく今シリアスな雰囲気になっているのにそれをぶち壊すようなこと言わないでもらいますか?」


「?」


確かに今は少しシリアスっぽくなっているが。


「ほら、さっさと帰りの支度してください。もうタクシーは呼んでいますから」


早!


いったい今までのどのタイミングで呼ぶことができたんだ。


赤条寺がいつもより少し真剣な顔をして俺がタワマンに泊まることを強いてくるので仕方なく俺もタクシーで向かうことにする。

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