言い訳台本

「あ~死ぬかと思った」


ついさっき始業式が終わった。


スピーチの時は周りの痛い視線に耐え切れず、本当に倒れそうになった。


「...先輩。だいぶ原稿を修正しましたね」


「しょうがないだろう。全校生徒の前で結婚するとかお前がいつも言っているエロゲがどうのとか言えるわけないだろ」


「私先輩がそれを言うところを期待してカメラを持っていたのに」


お前も栄那と同類かよ。


「でもまさか本当に私とイチャイチャすると言うとは」


「お前が栄那に心中を察してもらおうって提案したんだろ」


「あれ本当に信じてたんですか?ただ私がとっさに考え付いた嘘ですけど」


「...は?」


ちょっと待て。


だったらどうやって栄那に説明すればいいんだよ。


栄那は最初の方は宣言通り周りに控えている七桜家の使用人たちにカメラ撮影や動画撮影を命令していたが、俺が赤条寺の話を持ち出した瞬間してからただただ俺を絶対零度で貫くような目で見詰めていた。


「というかさっきからポケットで震えまくってるんだが」


もう怖くて見れない。


「それよりももうすぐ一時間目が始まる時間なので早く戻ったらどうですか」


こいつ本当に責任感ないな。


「あ、ちょっと待ってください」


「ん?」


「一応これを持って行ってください」


「なんだこれ?」


渡されたのは小さな紙だった。


「先輩みたいにギャルゲで攻略サイトを見て選択肢を選ぶヘタレが七桜さん相手に嘘なんてできるわけありません。だから私が前もって先輩の言い訳を考えていました」


俺は赤条寺から髪を受け取り、教室に戻っていった。


教室に戻ってからは長谷川にいろいろと煽られた。


多分こいつは夏休み中ずっと塾の夏期講習だったからこうして夏休みが終わったのが嬉しくて仕方ないんだろう。


4時間目が終わり早速便所飯で我慢しようと購買に行こうとしたら。


「あら?澪未矢さん、偶然ですわね」


教室のドアを開けると目の前に栄那が立っていた。


「え、栄那さん...あ、朝のは」


「朝のは?」


「朝のスピーチはちょっと違くてですね」


「......」


今の栄那の目はどのホラー映画の幽霊の目よりも怖いだろう。


「とりあえず澪未矢さん、地下まで来なさい」


「...はい」


栄那が俺の腕をつかみ足を進める。


てか今地下って言った?


そういえば夏休み中の工事で地下ができたとかどうか。


まさかあの工事も栄那が?


そんな考察をしているとエレベーターの前に着いた。


「えーと、この学校にこんなエレベーターなんてあったっけ?」


「気に入りませんの?夏休み中わたくしが取り付けさせましたわ」


「......」


もう絶対栄那の方が赤条寺より権力持っているだろ。


地下一階にはホテルのホールみたいな場所が広がっていた。


「澪未矢さん、そこに座りなさい」


「......」


近くにあったテーブルに腰を下ろす。


「それで?今日の始業式はどう説明してくれますのぉぉぉぉ!」


あ、これは完全にガチギレ中のガチギレだわ。


「あ、あのあれは俺の心中を」


「心中を?」


「察してもらいたいというか」


「わたくしが許嫁の心も分からないような薄情な女とでも?」


「い、いえそういうわけではなくて」


めんどくせー。


「めんどくせーって今思いましたか?」


「...思ってません」


これはなんと言ったらいいのか。


赤条寺に渡された紙をチラ見する。


こうなったらファンクラブの子たちに犠牲になってもらうしかない!


「あ、あの実は自分栄那のファンクラブの子たちに脅されていまして」


「脅されている!?」


一気に栄那が心配モードになった。


「ああ、次もし栄那とイチャイチャしているところ見られたら俺のイチモツを切り落とすって....」


って、何言わすんだあいつ!


「...澪未矢さん。もう少し上品な言い方はできないんですか?」


栄那も今の言葉で嘘だって何となく気づいているっぽいぞ。


「...ところで澪未矢さん、さっきから何を見ておりますの?」


「え?見ているって?」


「その紙ですよ」


「......バレてましたか」


「...どうやらこれもあの下品女が書いたものですか」


「...はい」


「...ちょっと今日はあの女の家にお邪魔しなくてはいけませんね」


赤条寺、ドンマイ。


「もちろん澪未矢さんもですわよ」


......

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