スピーチの内容

「いきなりどうしたの秋葉さん?」


「どうしたのじゃない!なんだこの原稿は!?」


「なんだって、今日のスピーチの内容だけれども」


「そうじゃなくて、なんで私がアンタの信者みたいなセリフ言わなければならない!」


秋葉が投げつけてきた原稿用紙に目を通す。


「どれどれ」


”生徒会役員の秋葉美沙祢です。皆さんには今日言わなければならないことがあります。それは私が不登校をやめ、こうして皆さんの前に立って堂々とスピーチができている理由です。

知っての通り私は怪我をし、部活のプレッシャーに耐え切れず逃げるという選択肢を選びました。しかし、そんな私を救ってくれたのがこの皆さんの目の前にいる赤条寺様です。

赤条寺様のありがたいお言葉が励みになり私はもう一度最初のころの自信に満ち溢れた自分に戻ることができました。そのためこれからは赤条寺様に忠誠を誓い...”


「...うわぁ」


ざっと目を通してみたが、これを全校生徒の前で言うのはなかなか恥ずかしいな。


俺だったら無理だ。


てかなんで”様”呼びなんだよ。


「私はただ事実を書いたまでだけど」


「それは...そうだけど、でもこれはあまりにも...その」


秋葉の言うことはあいまいだが何となくわかる。


「それよりも赤条寺、俺の原稿はどれだ」


「あ、そうでしたね。えーと、これです」


...なんかずいぶんくちゃくちゃな紙だな。


「どれどれ」


”生徒会役員の月城都斗です。今日は皆さんに僕の方から朗報があります。知っての通りここ最近僕は複数の男女からある女子生徒についての嫉妬を多く買っています。ただ安心してください。私はこれからはその女子生徒とではなく生徒会長である赤条寺紅愛さんとイチャイチャすることを誓います。そしていつしかご結婚を...”


「って、なんじゃこりゃゃゃ!」


「先輩もそんなに取り乱してどうしたんですか?」


「どうしたんですか?じゃなくてこんなスピーチできるわけないだろうが!」


「どうしてです?名誉挽回のチャンスですよ?」


俺が一体いつ自分の名誉を傷つけた。


「先輩は今七桜さんと公衆の前で堂々とイチャイチャしていることでファンクラブの子たちから反感を買っていますね?」


「それはそうだが...」


「だからその反感を少し抑えるという面ではこのスピーチは最も効果的ですよ」


「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな」


確かに最近のファンクラブは少し過激になっているが問題はそこじゃない。


もし本当にこれから栄那ではなく赤条寺といちゃいちゃし始めたら、栄那が何をするか本当に分からない。


「安心してください先輩。こんなのは形だけの公約ですから」


「それはつまり宣言はするが本当に実行する必要はないということか?」


「はい、さすがに栄那さんほったらかしで私とイチャイチャしていたらエロゲ定番の虐殺ENDに行っちゃいますからね」


栄那なら本当にやりそうだし、ここはエロゲの世界だ。


「だから一時的にファンクラブからの嫉妬を抑えるんですよ」


「でも、もしこれを言ってからまた栄那とイチャイチャしているところを見られたら今度は嫉妬じゃすまなくなりそうだが」


「そこは七桜さん次第ですね」


俺がこの原稿をスピーチすることで栄那に俺の”もっと人目を避けてイチャイチャしたい”という心中を察してもらうということか。


何となくだがうまくいかなそうな気がする。


「まぁでも今は赤条寺ルートだしやるだけやってみようかな」


これにより栄那が激怒したとしてもゲームじょう何かしらの救済処置があるはず。


「先輩?何か言いましたか?」


「いや、何でもない」


とりあえず全部ではないが最初だけでも覚えておくか。


「ねぇ、本当に私これ言わなくちゃいけない?」


「当たり前でしょう。貴女も立派な生徒会役員なのよ?」


「...正式に入るって言った覚えないんだけど」


確かに秋葉はまだ明確に生徒会役員になったわけじゃないんじゃないか?


これもまさか赤条寺が勝手に決めていることなのか。


「私が所属しているって言ったらもう生徒会役員っていうことなのよ」


どこぞのアニメの王様みたいなことを言う。


「あーもう分かったわよ!覚えればいいんでしょ覚えれば」


意外と素直な秋葉。


それから朝のホームルームの時間が始まるまで俺たちはひたすらスピーチの内容を覚えた。


「そういえば赤条寺、ずっと気になっていたことがあるんだが?」


「気になったこと?」


「なんで俺のことは先輩って呼ぶのに栄那のことはさん付けで呼ぶんだ?あいつも一応お前の先輩だぞ」


「なんだそんなことでしたか。そんなの私が七桜さんのことを先輩だと思っていないからですよ」


「え?」


なんか凄いこと言いだしたぞ。


「私は自分が先輩だと認めた人以外の年上の人のことはすべてさん付けで呼びます。たかだか両親がエッチしたのが一年か二年早いなんて誇れることでも何でもありません。

年齢マウントを取ってくるのは老害と同じです」


「......」


赤条寺にしてはごもっともなこと言うじゃないか。


「だとしたら少なくても俺は赤条寺に先輩と認められているというわけか」


「はい、先輩は私よりも性欲がありますから」


どういう理由?


「七桜さんを先輩だと認められないのはあの態度ですね」


「態度?」


「あのいかにも人を見下しているような態度が気に入りません」


まぁ赤条寺も栄那もプライド高そうだしな。


「そんなことよりも早く原稿の内容を暗記してください」


だんだん目が痛くなってきた。


え?てかこれ暗記すんの?

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