夏休み明けの登校

今日も超不快なアラーム音で目が覚めた。


「澪未矢様...起きているのですね」


「ああ、おはよう芯珠」


「おはようございます」


俺がアラームで起きたのが気に入らないのか芯珠の機嫌が悪くなっている。


「おはようございます兄さん」


「おはよう神楽」


神楽はこの前の件があってからより笑みが神々しくなってきた。


「私も兄さんも今日から新学期ですね」


もう俺の夏休みは昨日で終了した。


あれからは神楽も交じって5人でゲームをしていた。


そして気が付くと今日、9月1日になっていた。


「夏休み中はちょっとハメを外しすぎましたね、兄さん」


「......」


一番ハメを外していたのは神楽だと思うが。


「そういえば兄さんの学校の文化祭はもうすぐですよね」


「その...来るのか」


「もちろん来ます」


正直来ないでほしい。


俺のクラスの出し物は女装メイドカフェだ。


やはり恥ずかしいという気持ちが勝ってしまう。


「それに、兄さんの学校生活はいろいろと乱れているみたいですからね」


「...う」


確かに公衆の前で堂々と栄那とイチャついたりしたが。


「それにしてもあんな下品なお方が生徒会長で成陸学園は大丈夫なんですか」


「...それは俺も思うな」


赤条寺には一応偉業があるとしてもよくあの口調の一年生の女子に票が集まったのか不思議でしょうがない。


朝食を食べながらそんな会話をしているとインターホンが鳴った。


「...栄那さんですか。でも珍しいですね。あの常識のないボンクラ女がインターホンを押すなんて」


神楽の言い方にはいろいろと問題があるが、それについては俺も同感だ。


栄那なら無断でいつも入ってくるはずだが。


「澪未矢様、赤条寺様です」


「え?」


赤条寺?


なんか約束でもしてたっけ?


とにかくこれは...


「へぇ~。今日はあの下品女ですか」


まずい。ここで神楽と栄那が遭遇したらまた修羅場に発展しそうだ。


「と、とりあえず赤条寺が向かいに来たみたいだからもう行ってくる。それじゃあ神楽、またな」


そう言って急いで玄関に向かう。


「...澪未矢様、まだ栄那様は訪れていないようですが」


「栄那が来たらうまく誤魔化しておいてくれ」


「...承知いたしました。それではお気を付けていってらっしゃいませ」


だいぶ無茶ぶりだが芯珠ならうまく立ち回ってくれるだろうと思う。


門の向こうにはすでに赤条寺がスタンバイしていた。


「驚きました。学園もののラノベではいつも先輩みたいなオタク主人公は新学期初日に大遅刻するっていうのがお決まりのパターンですが」


お決まりではないだろう。


「それで、なんで赤条寺がこんなに朝早くから迎えに来ているんだ」


「...先輩寝ぼけてます?今日はなんの日かご存じないんですか?」


「何の日って夏休み明けの登校日だろ?」


「いつも新学期初日には何をやるんでしたっけ?」


「...何を?始業式とかか?」


「そうです。始業式にはいつも我々生徒会が一人一人一スピーチするのが当然でしょう」


そういえばそうだったな。


俺も中学校や高校で終業式に何やら生徒会長がスピーチみたいのをしていた記憶はある。


「でもそれってやるなら生徒会長だけでよくね?」


「普通の学校なら確かにスピーチするのは生徒会長一人ですが、成陸学園には生徒会役員が実質3人しかいないですから」


3人目は当然秋葉だ。


「で、俺は今からスピーチ内容を考えなくてはいけないのか?」


「安心してください。スピーチの内容ならもう私が考えています」


...なんだかいやな予感がしてきたぞ。


「分かった。とりあえず早く学校に行こう」


忘れていたがここでいつまでも立ち話を続けていたら栄那に見つかってしまう。


そうすると最近数は減ってきたが、また修羅場に突入してしまう。


「さ、早く行くぞ」


「先輩、なんで今日はちょっと急いでいるんですか」


「お前も知っているだろう。俺はいつも栄那の車で学校まで向かわせてもらっている」


「それで」


「だから今こんな場面を栄那に見られたらエロゲで言うところのBADENDに突入してしまうってことだ」


赤条寺にもよく伝わるようにあえてエロゲという単語を使ってみる。


「それならそんなに急ぐ必要ないと思いますよ?」


「?なぜ?」


「先輩、あれ見てください」


「あれ?」


俺はずっと赤条寺と向かい合っていたから正面は見ていなかった。


今赤条寺が指差しているのは正面だ。


俺も正面の方を向いてみると


「...詰んだ」


そこには”どこかで見たことのある車”がすでに停車してあった。

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