妹の想い

「で、まずは芯珠の言い分から聞きましょうか」


そう言って椅子に座っている神楽の前で俺たちは正座させられていた。


正座と言っても、赤条寺と栄那はあぐらをかいているが。


「神楽様、今回我々四人でゲームをしていたことはすべて私の責任です」


「それはそうでしょうね」


まずいぞ。


このままだと芯珠が解雇とかされそうな雰囲気だ。


何とかフォローしなくては。


「失礼、発言をしてもよろしくて神楽さん?」


「なんでしょうか栄那さん」


俺が何とかフォローの言葉を探していたら、栄那が先に発言した。


「今回澪未矢様がお勉強をサボってわたくしたちとゲームをして遊んでいたことに何の問題がありまして?」


「「!?」」


俺と芯珠が驚き栄那の方を見る。


「...何が問題か、ですか。栄那さん、貴女はもっと理解力ある人だと思っていましたがそういうわけではないようですね」


「神楽さん、話を逸らさないでもらいたいですわ」


神楽は少しイラつきながら答え、栄那はそれを煽るかのように自然と受け流す。


今この状況は栄那の強者感が半端ない。


「...私は兄さんに徹底とした勉強スケジュールを立て、その通りに過ごすよう兄さんに命令し、芯珠にはそれを見張るよう命令をしました。

それをまさか監視役の芯珠さえも破って貴女たちとゲームをしていたなんて怒って当然でしょう」


俺から見てもそう思う。


「確かに澪未矢さんの今回の期末テストの点数はひどかったものですわ」


...改めて思うが俺のテストの点数そんなにひどかったか?


「ですが、だからと言って夏休み中勉強漬けの日々を送るよう強いる神楽さんにも問題がありましてよ」


「...っ」


神楽がより一層憎悪の目を栄那に向ける。


「そんな勉強漬けの毎日を送っていたらストレスがたまることに気づきませんか?澪未矢さんの精神がやられると思いませんか?」


栄那の声もだんだん怒気を含んだものになってきた。


「まさかあなたのお兄さんだから自分のような生活を送れるとでも?」


「...っっっっ!!!」


神楽が何か言いたそうにしているが、うまく言葉が見つからないみたいだ。


「自分の兄の能力やメンタルも分からないのですかあなたは?もしそうだとしたらあなたに澪未矢さんの妹を名乗る資格はありません」


「!!!!」


その一言で堪忍袋の緒が切れたのか、神楽は栄那に近づき、思いっきり平手打ちをした。


「「「......」」」


突然の出来事に俺も赤条寺も芯珠も固まる。


「貴女に...」


神楽は感情を押し殺すことをやめ、言葉を紡ぐ


「貴女に何が分かる!!!!」


今までずっと神々しい笑みを崩すことなく常に放っていた神楽が、こんな感情を露わにして声を荒げるなんて予想だにしなかった。


「小さいころから自分は兄さんよりも優秀だと吹き込まれて」


「兄さんと全く違う教育をされてきて」


「お母様に兄さんにできるだけ関わるなと言われてきて」


「兄さんの悲しそうな顔を見て、兄さんへの罪悪感で心の中がいっぱいになる私の気持ちが貴女に分かるか!!!」


そんな神楽の怒号をつまらなさそうに眺める栄那。


てかそんな設定あったんだ。


「でも、私は兄さんが私よりも劣ると思っていない」


「劣ってほしくなんかない!」


「いつかお母様を見返すように兄さんを私よりも優秀な人間として育てる」


「そのことの何がいけないというんですか!!!!」


「......」


これだけ叫び続けられているというのに、栄那は全く動揺しない。


俺たちはと言うと、全員気まずそうに神楽と栄那の方を見ている。


「自己満は終わりましたか?」


「え」


慰めの一つでも言うと思ったら、栄那が放ったのは突き放すかのような言葉だった。


「結局あなたは自分の理想の兄を澪未矢さんに押し付けているだけですわ」


「だからそれはお母様たちに兄さんのことを認められたくて」


「だからそれを自己満だと言っておりますのよ」


「......」


「あなたはずっとお母様に澪未矢さんのことを私よりも優秀な兄として認めさせるとかほざいていますが、要はただ束縛がしたいだけでしょう?」


「!?」


...今ので相当神楽の心がえぐられたな。


「今回の夏休み中の勉強スケジュールだってそう。あんな何時間も勉強させることで本当に学力が上がるとでも思っていますの?ちがいますわよねぇ?

あのスケジュールは徹底的に澪未矢さんを束縛することが目的ですわよねぇ」


「違う」


「何も違わないですわ、現に」


「違う!違う!違う!違う!違う!」


ヒステリックを起こしたかの用に暴れ始める神楽。


「私は兄さんのことを想っただけ!想っただけ!!!!」


「...見るに堪えませんわねぇ」


「違うんです兄さん!この女狐が言っていることは全部嘘なんです!」


俺はこの状況をド押していいか分からずただ固まることしかできなかった。


「こんなの私の本心じゃない!虚言を語るなこの女狐がぁぁぁ!!!」


神楽が栄那の首を掴もうとする。


「神楽!!!」


俺はそれを寸前のところで止める。


「え?兄さん...?」


「神楽...暴力はだめだ」


「...先輩、語彙力なさすぎじゃありません?」


今いいところなんだからいい加減空気読めよ赤条寺!


「なんで、そんな女狐をかばうんですか...?」


「......」


「いやだ、こんなの...こんなの、私の兄さんじゃない!」


そう叫ぶと、神楽は走って自室まで向かってしまった。


「先輩、ヤンデレ妹ゲームによくあるような展開になりましたね」


「とりあえずお前は空気を読むことを勉強しろ」

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