崖っぷち

「...神楽さんが帰ってきた?」


「ああ、今一回で芯珠が相手をしている」


「なるほど。これから修羅場に突入するということですか」


先読みが早いな赤条寺。


もし今神楽がこの自室を見たら、怒りで気絶しそうだ。


ゲームはしてないにしても栄那と赤条寺の姿を見たらBADENDは避けられない。


そこで俺はこの二人に勉強を教えてもらっているという形を作る。


そうすることである程度神楽にも理解をしてもらえるはず...だよな?


「とりあえず二人には英語を教えてもらっているという設定にするぞ」


「...なんか納得できない点もありますがいいですわ。これも許嫁のためですわね」


「先輩、これは貸し一つっていうことでとかいう青春ラノベあるあるなセリフを言っておきましょう」


「...感謝する」


早速学校のワークを開き三人で机に近づく。


「澪未矢様、そこは仮定法が使われていてですね」


「先輩、そこはイディオムの意味もしっかり理解しなくては」


よしよし、いい感じに勉強してる感が出てきた。


いい感じに勉強している風を装っていると神楽と芯珠の声が廊下から聞こえてきた。


「...芯珠。今ならまだ許してあげます。本当に兄さんは勉強しているんですか」


「神楽様。これ以上澪未矢様を疑うのはどうかと」


「ずいぶん強気ね芯珠。まぁ今から兄さんの部屋に行けばすべてわかることだけれども」


よし、来い!


堂々と身構えているとノックオンが聞こえた。


「どうぞー」


俺が返事をすると、ドアが開き、神妙な顔を下芯珠と感情を押し殺している笑みを浮かべた神楽が入ってきた。


「......」


笑みを崩さず、俺たちを観察する神楽。


「お、お帰り神楽。もう寮の方はいいのか?」


「はい、ご心配なく。寮の問題は私がきれいさっぱり解決してきました」


「そ、そうか」


...もうちょっと治安悪くなってもよかったんじゃないんですか聖神女子さん。


「ところで、なぜ兄さんの部屋に女狐...じゃなくて栄那さんと下品女...じゃなくて赤条寺さんがいるんですか?」


偏見隠す気ないな。


「あ、ああ。ちょっと二人にお勉強を教えてもらっていて...」


「へぇ~。お勉強ですか?」


「そ、そうだ」


明らかに疑っているなこれ。


「神楽さん、わたくしたちは真剣に勉強を教えているんで寮が済んだら早く出て行ってくださいませんか?」


「そうですよ神楽さん。私たちはさっきまでゾンビ...ゾンビに関する長文を解いていたんで早く出て行ってください」


危な。


「そうですかそうですか。お二人ともありがとうございます。わざわざ兄に勉強を教えに来てくれるなんて」


これは成功したのかな...


「ところで、ちょっと皆さんこれを聴いていただきますか」


そう言って神楽が取り出したのはスマホだった。


「私のスマホは録音機能がついているんですよ」


へぇ。それは珍しい...いや、ちょっと待てよ。


「ちょっとこの会話を聞いていただきたいんですよ」


神楽が音声を再生する。


”「もしもし」”


”「もしもし、兄さんですか?」”


俺と神楽の声だ。


”「昨日も電話かけたんですけど出てくれなかったので...久しぶりに兄さんの声が聞きたいなって」”


「なんですかこの明らかに萌えを狙っているようなイタい声は」


赤条寺の横やりに神楽が殺意を向ける。


”「それで兄さん。ちゃんと勉強はしてますか」”


俺の記憶が正しければこの後に


”「はい、七桜さんざんねーん!」”


「Oh...」


”「...私の道ずれ作戦が失敗しましたわ」”


「Oh...」


立て続けに赤条寺と栄那の声が聞こえた。


”「澪未矢様、コントローラを握られていないようですがここは決めさせてもらいます」”


「Oh...」


芯珠の声まではっきりと聞こえた。


「で、これを聴いてもなお皆さんで勉強をしていたというのですか?」


「「「「......」」」


四人同時に沈黙する。


「...とりあえず全員居間に来なさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る