緊急事態

夏休みも残るところ一週間になった。


「私がゾンビたちを引き寄せておくので早く皆さんは先に行ってくださいまし」


「七桜さん...」


「栄那様...」


「......」


このように今日も俺たちは四人でゲームをしていた。


今は協力型のゾンビゲームをプレイしていた。


「ちょっと先輩!なんですかそのエイム力は!そんなんじゃFPSゲームのキルデス比1を切りますよ!」


「...澪未矢さん、こんなことを許嫁である澪未矢さんに申し上げるのは不本意ではありますがもうちょっと真剣にやっていただきますか?」


「澪未矢様、決して私から離れないでください」


...なんか俺めっちゃ戦犯プレイじゃね?


今までノベルゲーしかプレイしてこなかったつけか。


「ふー、何とかクリアしましたね」


「ええ、私はあとハートが残り2のところでクリアしましたわ」


「栄那様。私はハート3で生き残りました」


「なんですの?私に喧嘩を売っていらしゃるの?」


「...事実を申し上げただけです」


...俺はみんなに守られながら進んだからハート10ぐらい残っていたが。


「どうします?もうひとステージ進みますか?」


「ええ、当然です」


「安心して下さい澪未矢様、私が命に代えてもお守りします」


俺としてはもう終わりたいのだが。


もうひとステージにすすもうとしたときに、屋敷のインターホンが鳴った。


「...チッ。いいところで誰か来ましたわね」


「そのようです。ちょっとうかがってきます」


そう言って芯珠が遊び場から出て行った。


「...芯珠さんがいない間に進んじゃいません?」


「七桜さん。さすがにそれは非道では」


「芯珠さんが澪未矢さんをお守りする姿が目障りだったので」


「...それもそうですね」


...この人たちちょっと倫理観に欠けてね?


そんな会話をしているとスマホが鳴った。


「...誰だ?」


恐る恐るコールボタンを押すと。


「~~~~~~」


「ん?」


何か小さな声で俺に話しかけてきているのは分かるが、あまりにも声が小さいので聞き取れない。


「えーっと、もしもし」


「澪未矢様、澪未矢様」


ようやく聞こえてきた声は芯珠のものだった。


「芯珠さん?」


「澪未矢様、緊急事態が起きました」


「緊急事態?」


なんかもの凄くいやな予感がする。


「...緊急事態って言うのは?」


「神楽様が帰ってきました」


「Oh....」


なんで!?なんで帰ってきた!?


確か夏休み中はずっと寮で生活するんじゃなかったの?


「芯珠~どうしたの~早く開けなさい?」


電話越しから神楽の声が聞こえてくる。


だが、いつもの神楽の声とは違い感情を必死に押し殺しているような声だった。


「...芯珠さん、指示を」


こうなったらもう芯珠さんに頼るしかない。


「とりあえず今すぐ栄那様と赤条寺様を連れて澪未矢様の部屋に向かってください」


「分かった」


神楽は夏休み中はずっと自分の作った勉強スケジュールで過ごすことを強要していた。


にも関わらず、こうして栄那と赤条寺とゲームをしていたところなんて見られたら...想像するのは難しくない。


「赤条寺、栄那」


二人に呼びかける。


「ちょっと待ってください澪未矢さん。なぜわたくしよりも赤条寺さんの名前が最初に出るのですか?」


「今はそんなことどうでもいいでしょう」


珍しく赤条寺が突っ込み役として機能している。


「とにかく、今すぐ二人とも俺の部屋に行くぞ?」


「え?先輩の部屋?自分の部屋をラブホ代わりに使うんですか?」


「...赤条寺さん。それはどういうことでしょう?」


「ちょっと今はそんなことを言っている場合じゃないんだ!」


俺は二人の腕をつかみ自室まで走る。


「ちょっと先輩。ヒロインをラブホに誘えるぐらいの好感度はまだありませんよ」


「澪未矢さん、わたくしは当たり前としてなんで赤条寺さんの腕まで掴んでいるんですか...?」


栄那のヤンデレモードが発動しているが、そんなことにかまっている場合じゃない。


火事場の馬鹿力とはこのことかと思うぐらいの速さで自室まで向かった。

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