夏休みの雑務
「先輩、言い訳考えていますか?」
「言い訳は会長であるお前が考えるべきでは?」
「いつもギャルゲーでヒロインとデートしているところを他のヒロインに見られて修羅場展開になる時に主人公が言い訳するでしょう?それを真似すればいいんです」
「あれは選択肢の中から選ぶもんだから語彙力が鍛えられるわけではないぞ」
このエロゲの世界だと選択肢が出てこないから語彙力は鍛えられるが。
「...それにしても秋葉は本当に一人で雑務をこなしているのか」
「彼女は友達がいないので頼れる人もいないでしょう」
「...お前みたいにな」
「私をいじるとか先輩のくせに生意気です」
否定派しないんだな。
「ほら先輩着きましたよ」
今にして思えば歩いて学校に来たのもこれが初めてかも。
「...やっぱり帰ります?」
「いや、さすがにそれは人道に反しているぞ」
俺たちが何をこうも心配しているかというと、夏休みは生徒会の仕事がたくさんあるのにそれを一年の秋葉に全部丸投げしていたことだ。
生徒会室の前に来るとやはり秋葉が一人で何か作業をしているのが見える。
「先輩、お先にどうぞ」
「いや、そこは生徒会長のお前が行けよ」
赤条寺がドアを開けると凄い形相で俺と赤条寺を睨みつけた。
「これはこれは生徒会長とそのペットじゃないですか」
ペットっていう言い方はなんかいやらしい意味がするからやめろ。
「おはよう秋葉さん、早速だけどいったいどこまで進んでいるのかしら」
「...その前に私に何か言うことない?」
あ、これは誤魔化せないな。
「秋葉さん、勘違いしているみたいだけど、別に私だって遊んでいたわけじゃなわよ」
え?明らかに俺の家でゲームしていただけじゃなかった?
「ちょっとここにいる澪未矢先輩の家に出張に行ってたのよ」
「...なんのために?」
「社会勉強」
...意外と赤条寺の言い訳が上手い。
「ちなみにどんな社会勉強を?」
「もちろん澪未矢先輩と一緒にご飯を食べたり、ゲームをしたり、一緒に寝たり」
おいおい、せっかくしゃっき上手いこと言って誤魔化せそうだったのにそこで正直に言ってどうするんだよ。
しかもいろいろと誤解を生みそうな言い方はやめろ。
「へぇ~」
すると秋葉は少しニヤニヤしながら俺たちの方を見つめてきた。
「二人はそういう関係なんだ」
「言っておくけどセフレじゃないわよ」
「誰もそんなこと言ってないわよ!」
もし本当に赤条寺とセフレ関係になったりしたら今度こそ栄那に東京湾に沈められそうだ。
「それで、話の続きだけど、どこまで進んだのかしら?」
「...会長が仕事を把握していないってどういうことでよ...まぁいいわ。今は各クラスの文化祭の出し物の確認をしているところ」
そうだ。確か夏休みは文化祭に関する仕事が多かったな。
「一年生のクラスは一通り確認したからこれから二年生のクラスを確認していくところ」
「一応一年生の各クラスの出し物の書類を見せてくれるかしら」
「確認し終わったのはそこの段ボールの中に入っています」
俺も一応確認することになり、一つ一つクラスの出し物を見ていく。
「しかしどれもつまらなさそうなものばかりだな」
やはり私立ということもあり、それなりにいろいろな制限がある。
どこも飲食店やよくわからない迷路やセンスのかけらもないボール遊びだけだ。
「そういえば”俺”のクラスは何やったっけ?」
たしかお化け屋敷だった気がする。
クラスのみんなが放課後頑張って残って作っている最中ずっと端の方でスマホをいじっていただけだが。
「..秋葉さん、なんでお化け屋敷が不採用なのかしら?」
「いや、不採用も何もこの学校は文化祭の時にお化け屋敷禁止っていう規則があるって聞いたんだけど」
「なるほど。じゃ今年からはその規則を撤廃するからこのクラスのお化け屋敷の案は通しましょう」
また例の”権力”でどうにかできるのか?
いや、ここまで自信満々に言うからには本当に赤条寺は何かこの学校の大きな権限を持っているのかもしれない。
それから三十分ぐらいかけて俺と赤条寺は一通り一年生の出し物を確認した。
「それにしてもどれもどれもクソつまらなさそうなものばかりね」
それ生徒会長が言う言葉かか。
ちなみにさっき赤条寺がお化け屋敷禁止の規則を撤廃したのは単に自分たちのクラスの案が却下されるとまた一から考えるのがめんどくさいということだろう。
「ところで秋葉さん、あなたのクラスのこの牛丼屋って誰得なのかしら?」
「し、仕方ないでしょ、クラスの男子が勝手に決めたことなんだから」
いや、でも本当に牛丼屋は一年生のクラスの中では一番ひどいと思う。
俺でもまだマシな案を思いつく。
「まぁ先輩みたいにクラスの出し物に風俗店を提案する男子よりはマシですが」
「もし本当に出し物が風俗店になったらお前も来るだろう」
「もちろん」
即答かよ。
「くだらないこと言ってないで早く二年生の出し物も確認してくれます?」
いつの間にか主導権は秋葉に握られていた。
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