藁人形

「ここから先は四人で行くのは得策じゃありません」


「ええ、七桜さんの言う通りですね」


「なら二手に分かれると?」


「はい。よく言うでしょ?人数が少なければ少ない方が霊が集まりやすいと」


「なるほど。それで肝心なチームは?」


「「「もちろん私(わたくし)と澪未矢さんです」」」


「......」


やはりこうなったか。


多分栄那は俺と一緒に神社を回るつもりだったんだろうな。


「お二人はご存じないかもしれませんが、澪未矢様は昔からオカルト的なことを苦手としております。そのため澪未矢様の直属の使用人である私が一緒に回るべきかと」


「でも、これは勝手なわたくしの想像なのですけれど、芯珠さんも結構なビビりですわよね?」


「!?よ、夜崎家に仕えているこの私がこのようなことで怖気づくなど」


「でもさっきから芯珠さんずっと体が震えていません?」


「そ、そんなことはありません」


俺の目から見ても芯珠さんが怖がっているのは明らかだ。


結局俺たちは四人で回ることになった。


「なぁ栄那、あとどれぐらい登ればつくんだ」


「わたくしの予想だと後5分ぐらいですわ」


短いようで長い。


「先輩。ペース落ちていますよ?」


「だ、だってもう20分ぐらい階段上っているぞ」


「20分なんて当たり前です。いったいどれだけニート生活を満喫していたんですか?」


確かに俺は高校も大学も部活に入っていないが。


「れ、澪未矢様、今あそこの茂みちょっと揺れませんでした」


「...影じゃないかな」


このように芯珠は些細な草の揺れにも敏感になった。


ただ、階段を上るペースが一番早いのはさすがだ。


「...芯珠さん、そうやってギャップ萌えを狙うのはよくないですよ」


「だ、だから、私はギャップ萌えなんて狙っていません!」


「ちょっと静かにしてくださいまし!」


俺の前では肝試しに似合わないような愉快なやりとりが行われていた。


「あ、見えましたわ、鳥居ですわ」


栄那が指さす方には意外と小さい鳥居が見えた。


「あれが鳥居ですか?なんかずいぶん小さい気がしますが」


「あ、あれが噂に聞く鳥居というやつですか」


まさか芯珠神社に来るの初めて?


階段を上りついに鳥居の中に入る。


「......」


「...七桜さん、これが神社なんですか?」


「き、聞いてた噂と違いずいぶん小規模ですね」


赤条寺と芯珠が不思議に思うのも無理がない。


普通の神社なら鳥居の先に大きな社があるはずだが、ここの神社はただ小さなお地蔵さんのようなものが真ん中に飾られていただけだった。


「えーっと」


栄那も下準備が足りていなかったらしく、珍しく言葉を詰まらせている。


「...七桜さん、これでどうやって肝試しをすればいいんですか?」


やや小ばかにしたような感じで赤条寺が問う。


「や、やっぱり神社など大したことありませんね」


芯珠は安心している感じだ。


「い、いえ。この神社の本命はこの鳥居の中ではありませんわ」


「というと」


「えーっと、そ、そうですわ。奥の方の気に確か藁人形が打ち付けられているっていう噂がありましてよ」


なんかどっかで聞いたことのあるような話だな。


「わ、藁人形が打ち付けられている!?」


またもや芯珠が栄那の話を聞いて顔面を真っ青にしている。


「七桜さん。あまり苦し紛れの作り話はよしといたほうがいいですよ」


「ほ、本当ですわ。いいですわ、そこまで言うのなら確かめに行こうではありませんの」


栄那もすっかり意地になってしまったようで、鳥居の奥に足を運ぶ。


「やれやれ、先輩の許嫁とやらも所詮はあの程度ですか」


と言い、赤条寺も足を進める。


「...芯珠さんどうする?ここで休む」


「そ、そんな気遣いを澪未矢がする必要はありません」


相変わらずの強がりだな。


俺と芯珠も奥の森に足を運ぶ。


「おーい、栄那?赤条寺?どこだ」


呼びかけ続けるも、相手からの反応はない。


「澪未矢。あそこに人影が」


芯珠が指さす方には、栄那と赤条寺と思われる人影が、ある木の前で固まっているのが分かる。


「栄那、赤条寺、どうした?」


「澪未矢さん、まさかこんなことは起こるとは思いませんでした」


「?」


栄那が言っていることがよくわからない。

俺も気の方を見ると


「え?」


俺も思わず後ずさる。


何とその木には大量の藁人形が釘で打ち付けられていたのだから。

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