寮生活8

「私はこの学校が大っ嫌いです」


先ほどの四三川先輩の演説で激情していた食堂が嘘のように静まり返る。


「この聖神女子に入学したことを誇りだなんて一度も思ったことありません」


良い感じに皆さんが唖然としています。


「むしろ汚点だとも思っています」


「し、失礼だー!」


誰かがそんな声を上げる。


おそらく四三川信者の方だと思いますけど。


「いえ、失礼でも何でもありません。現に私の夜崎亭の方がこんなクソみたいな寮より全然きれいだし豪華です」


いつも優等生キャラで通っている私から”クソ”なんて言葉が出て皆さん固まってますね。


「逆に訊きますが皆さんはこんな高校に入学してことを誇りだなんて思っているんですか?」


煽るように問いかける。


「と、当然でしょ!」


「こんな素晴らしい高校に入学できたことを誇りと思わない方がおかしい」


「なんて失礼な一年なの!?」


想定内の返答が返ってきます。


「はい、ありがとうございます。皆さんの気持ちはよくわかりました。でもそれは果たして本心ですか?」


「「「......」」」


そう問いかけるとまた静まり返る。


「何度でも言いますが私はこの学校が大ッッッッ嫌いです!!」


今度は声を荒げて言う。

何人かはビクッとしました。


「周りをよく見てください。ビッチとまな板と顔面偏差値ボーダーフリーしかいないでしょう?」


自分でもとんでもないことを言っているのは分かっています。


ただ事実この聖神女子にはそんな奴らしかいません。


男子たちの理想の女子高のイメージとはかけ離れているんです。


「そんなのしかいない学校を誇りとなんて思えるのでしょうか?」


なんだかだんだんと気まずい雰囲気になってきました。


「私が初めてこの寮に来た時に私のお兄さんもいたのを覚えていますか?」


何人かが顔を見合わせる。


私のお兄さんを覚えていない人なんていないでしょう。


「兄さんが通っている高校は成陸学園と言って、この学校よりも偏差値が10ぐらい低いです」


実際はもっと低いと思いますが。


「ただ、偏差値が低かろうと私の兄さんみたいな完璧な男性がいっぱいいる成陸学園と、野獣がたくさんいる聖神女子、どっちが誇りに思えるでしょうか?」


「それは...」


またもや四三川信者の方が何か言い返そうとしていますが言葉に詰まっています。


「先ほどこちらの四三川先輩はこの寮を変えたなど言っていましたが、そもそも聖心女子高校みたいな犬の糞みたいな高校の寮になんてそんな価値はないんです」


「......」


「四三川先輩、あなたはただ厳しい規則で生徒たちを拘束し、自分の言いなりになるように洗脳しているだけです」


「......」


私に指摘されても四三川先輩は表情一つ変えません。


「その結果が今の聖神女子の寮です。皆さんも知っての通り最近は近所からの評判がひどいです」


正直情報規制されているかもしれないので本当に寮生が知っているは分からない。


「それもこれも四三川先輩が厳しい規則を定めたせいです。そのせいで皆さんには少なからず何かしらのストレスが溜まっているはずです」


「......」


黙っているということは図星ということでしょう。


「本当は皆さん明善高校のような驚愕の男子たちと遊びたいんじゃないんですか?合コンしたいんじゃないんですか?夜の遊びをしたいんじゃないんですか?」


だんだん皆さんの顔が赤くなっているのが分かります。


「当然私には兄さんという存在がありますので、そういう男子との付き合いは望みません。ただ皆さんは違う。皆さんは将来ともにいることを約束した異性なんていないんじゃないんですか?」


「...っ」


どんどん皆さんの顔がリンゴみたいに真っ赤になっていきます。


「少なからず聖神女子に通っているというのはステータスになります。いくら顔面が崩壊していようとそれだけで大勢の男子たちに注目されるでしょう」


現に一回成陸学園の授業参観に行ったときに兄さんが私を聖神女子に通っていると紹介した瞬間に注目の的になりました。


「この聖神女子に通っているというステータスを活かしてみたいとは思いませんか!」


私がそう言った瞬間にどこからか拍手が送られる。


それにつられるように次々に拍手が起こる。


私はその拍手を聴いて演説を終えた。


「どうですか四三川先輩?私の演説は」


「...負けたわよ神楽ちゃん。まさかあなたがあそこまで饒舌だったなんてね」


この饒舌も少なからず兄さんにまとわりついている女狐の影響だと思うと寒気がします。


「確かに神楽ちゃんの兄さんは素敵な方だったわ。いつか私にも紹介」


「断固お断りします」


笑顔できっぱりと断る。


「...それは残念ね。私にも生まれて初めて恋ができると思ったのだけれど」


少し驚きました。


四三川先輩は紛れもなく超絶美人です。

それに加えて聖神女子に通っているとなるともうそこらじゅうの男子が放っておかないでしょう。


「...まさか四三川先輩も本当は合コンがしたい?」


「......」


初めて四三川先輩ににらまれた気がします。


そのあとすぐに投票タイムとなり、結果は見るまでもなく私の圧勝でした。


かくして厳しすぎる聖神女子の規則は撤廃するという方向で話が終わりました。


...ただこれで本当に治安が治ったというとそれとこれとでは話が違います。

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