寮生活7

「それで、あの四三川先輩と演説対決することになったと...」


「はい」


私はとりあえずルームメイトに報告する。


「えーと、何かアドバイスとかは...?」


「いや、アドバスとかはできないなぁ。私も演説なんてしたことないし」


「吉岡さんは?」


「わ、私も特には...ごめんなさい」


「松瀬さんは?」


「...私も演説とかしたことないから何もアドバイスできないけど...四三川がムカつくのは事実」


そう言えばルームメイトの中でも松瀬さんは特に四三川先輩を嫌っています。


「...もしかして松瀬さんも懲罰房に入れられたんですか」


「...うん、私も入りたての頃はいろいろと悪さしていたから」


なるほど。


確かに松瀬さんは成宮さんにどこか似た雰囲気を感じます。


「それで、勝算はあるの?」


「ちょっと難しいかもです」


「まぁな。この寮には四三川信者がたくさんいるからな」


まぁ信者なんて呼ばれている程度の低い連中は鼻から味方につける気はないですけど。


「とりあえず頑張れよ夜崎」


「お、応援しています」


「いい?これからの寮の命運はアンタにかかってるんだからね」


ルームメイトの皆さんは一応応援だけはしてくれるそうです。


とにかく今はぼーっとしているわけにはいきません!早く演説の内容を考えなくては!


私が必死に演説の内容を考えて7時間が経過し、すぐに夕食の時間となった。


「準備はいい?夜崎」


「ええ、ばっちりです」


私たちは学食まで移動しました。


食堂にはいつものようにもうほぼすべての生徒が着席していました。


「あら、神楽ちゃん。待っていたわよ」


前の方には四三川先輩が不敵な笑みを浮かべていました。


私は四三川先輩の隣まで行き、何とか緊張をほぐします。


「皆さん、夕食をいただく前に少しお時間をいただけるかしら?」


何の子とか分からず慌てだす寮生たち。


「実は今私の隣にいる夜崎神楽さんからこの寮の規則を緩くしろという申し立てがあってね」


四三川先輩がそう言った瞬間に寮生たちの目が一気に私に向けられる。


「ただ当然私は規則を緩くする気なんてちっともないのよ」


はっきりという四三川先輩。


「でも神楽ちゃんはそれでも引き下がらない気でいるわ」


こんな真剣な場でも私のことをちゃん付けで呼ぶとは。


とことん舐められてますね。


「そこで、今から私と神楽ちゃんが演説するから、皆さんにジャッジを下してもらいます」


さらに騒がしくなる。


「安心してください、別に私じゃなくて神楽ちゃんに賛成したとしても何もお咎めなしですから」


笑顔で言いなすが、その言葉を素直に信じる人は果たしてこの中にいるのでしょうか。


「それじゃあハンデとしてまず私から演説します」


そう言うと四三川先輩が一歩前に出る。


「皆さん。私が入寮する前の子の寮の悲惨な状態は覚えていますか?」


当然私が知っているはずがありません。


「あの頃はいじめが多発していました。中にはホームシックになり精神を病んだ子も多数いました」


あの天下の聖神女子の寮とは思えない状況ですね。


「ただその時に現状と一番真剣に向き合っていたのは誰ですか?」


「周りがいじめに屈していた中で一人だけで立ち上がったのは誰ですか?」


「嫌がらせにも負けずこの寮に革命を起こしたのは誰ですか?」


だんだん四三川先輩の語尾が強くなってきました。


「四三川先輩です!」


どこからか頭がハッピーセットな四三川信者の声が聞こえてきました。


「私は当時の寮を変えるため、理事長と直接直談判し、今みたいに全校生徒の前で演説をし、見事今の寮を勝ち取ることができました」


言い方がまるで戦争時代の独裁者みたいです。


「そして一からこの寮の規則を直していき、どのようにしたら生徒たちが気持ちよく生活できるか考えて考え抜いた結果が今の規則です」


これは明らかな嘘です。


まぁそれを今見抜けるのは私ぐらいしかいないと思いますが


「それが今ここにいる一年生によって脅かされようとしています」


私のことをテロリストのように言わないでください。


「私はこの一年生の発言だけで、今まで築き上げてきたこの聖神女子にふさわしい寮を潰されるわけにはいきません」


まさかここまでひどい言われ方をするとは思っていませんでした。


「ですからどうか今一度私を信じてついてきてください!」


四三川先輩が土下座をする勢いで頭を下げる。


寮生の中から


「負けるな四三川先輩!」


「そんなブラコンに負けるな!」


「私たちは一生あなたについていきます!」


寮生の中からそんな頭の悪そうな発言が聞こえます。


ちなみに私のことをブラコンって言った人の顔はとりあえず覚えました。


「皆さん...ありがとうございます」


四三川先輩は目から水を流してお礼を言う。


私が涙じゃなくて”水”という表現にしたのは明らかに目薬だと分かったからです。


「さぁ次は神楽ちゃんの番よ。せいぜい悪あがきをしなさい」


先ほどまでの熱弁をしていた態度はどこに行ったんでしょうか?


今はもうすでにいつものふてぶてしい笑みを浮かべている四三川先輩に戻ってしまっています。


とりあえず私は前に出て、まずはお辞儀から始めます。


どこからかブーイングが聞こえますが気にしない気にしない。


私は新呼吸をして第一声を発します。


「私はこの学校が大っ嫌いです」


第一声はそんな爆弾発言から始まりました。


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