寮生活5

兄さんの電話から二日が経過し、今ようやく本来の役割を実行することができそうです。


「えーっと確かこの部屋ですね」


今私は、この寮生の中でも特に悪評高い生徒の部屋の前にいます。


三階ノックするとドアが開き


「...なんか用?」


中から髪の毛を金髪に染めたいかにも底辺女子高のJKみたいな感じの女の子が顔を出し、機嫌が悪そうに尋ねてきました。


「こんにちは成宮なるみやさん。私は夜崎神楽です」


「そんなことは知ってる。私に何の用かって訊いてるんだよ」


どうしてこういう人はいつもけんか腰なんでしょうか?


「少しお話を聞かせてもらいたくてですね、中に入れてもらえませんか?」


成宮さんが私を警戒のまなざしで見つめています。


「一つ訊くけど、アンタ四三川の手先ってことはないだろうね」


「はい、今は個人的な理由で成宮さんの部屋を訪れています。


「ふーん、ならいいよ、部屋に入れてあげる」


「お邪魔します」


部屋に入ると、中は意外と殺風景で、別にどこか整頓されていないというわけでもなかった。


「それで?四三川の手先じゃないんならなんで私の部屋を訪ねる必要があるんだ?」


「それを説明するには、まず私がここの寮生になった理由から話さなくちゃいけません」


そうして私は、今までのいきさつを話しました。


「なるほどね、つまりアンタはこの寮の治安改善のために理事長直々に夏休み中は寮生になってくれと頼まれたってわけ」


「はい」


「それでまず一番素行が悪い私に話を聞きに来たってわけね」


「はい」


この成宮空実なるみやそらみは一年生で、寮の評判やここら辺の近所からの評判が著しく低い生徒です。


ただ確か成績面で言えば文句なしだった気がします。


順位もTOPの方に載っていたと思います。


「それで単刀直入に訊きますけど、なんであなたはこの寮のルールや規範を破るのですか?」


「...アンタは知らないかもしれないけど、もともとこの寮はそれほどルールに厳しくなかった。2か月前ぐらいは門限も存在してなかった」


これは驚きました。

門限がない寮なんてないと思っていました。


現に夜崎亭にさえ門限は存在するのですから。


「でも、あの四三川がこの寮を仕切るようになってからはこの寮のルールが一気に厳しくなった。門限や朝食を食べる時間までも決められた」


確かに寮生全員で朝食と夕食を食べるのは異常だ。


夜崎亭みたいに小規模だったら納得できる話だが、この寮の生徒数からして、全員一緒に食べるのはスコシ常識からは外れている。

中学校の林間学校みたいだ。


「で、前それをあの四三川に直接抗議しに行ったらご覧の通り懲罰房行きさ」


「懲罰房?」


「ほら、この部屋って他の部屋に比べたらずいぶん狭いでしょ?これはこの部屋に私しかいないからだよ」


「なるほど、これが懲罰房」


ここまでくると本当に独裁者と大差がなくなってきた。


抗議したら懲罰房行きは暴君ですね。


夜崎家の当主であるお母様でさえそんなことし...ないとは言い切れません。


「でもさ、今この寮の評判が悪い乗ってそれが原因だと思うんだよね」


「というと?」


「人って行動を厳しく制限されれば制限されるほどストレスが溜まって非行に走りたくなるの。現に私もそのストレスで夜中仲間と一緒にコンビニとかで騒いでるんだからさ」


「......」


何だろう。これは私にも言えることかもしれない。


私も言ってしまえば兄さんの行動を厳しく制限している。


だから兄さんはあの女狐や下品女と遊ぶという非行に走ったのかもしれない。


「ちょっと、アンタ何急に黙りこくってんの?」


「あ、すみません」


いけない、兄さんのことを深く考えすぎると私だけの世界に入ってしまう。


「とりあえず私から言えることはこれぐらい」


「そうですか...」


正直解決の方法が分からない。


私が四三川先輩に直談判するぐらいしか思いつかない。


「どう?なんか解決策思いつく?」


「もう私が四三川先輩に直談判するぐらいしか方法がないのは分かるけど...私変に四三川先輩に対抗心持たれているからなー」


「あんたは四三川に対して対抗心持ってないわけ?」


「眼中にないです」


だって兄さんの周りにはもっとたちの悪い女たちが常に潜んでいるんですから。


「じゃあその眼中にもない相手を怖がってどうするの。そんなんで堂々とあの兄貴の妹ですって言えんの?」


「う」


やっぱりあの中に成宮さんもいましたか。


「アンタあの様子じゃ相当のブラコンでしょ」


「それ、いろんな人に言われますけど私はブラコンじゃありません!」


「そーなんだ、そんなアンタに一ついいことを教えてあげる」


「いいこと?なんです?」


「四三川アンタの兄貴のことずーっといやらしい目で眺めていたよ」


「なっ!?」


そんなの初耳です!


「このままじゃ近い将来四三川アンタの兄貴に近づくかもね...」


「ぐぬぬ...」


今でさえ兄さんの周りには厄介な女がたくさんいるのにそれがこれ以上湧くなんて耐え切れません!


「分かりました。ここはひとつ妹としての威厳を四三川先輩に思い知らせてあげましょう」


「それでこそ真のブラコンだよ」


「だからブラコンじゃありません!」

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