寮生活

兄さんたちを見送った後は解散となった。


「夜崎、お前たちっていつもあんな高級な車で送り向かいされてるの?」


「?まぁそうですけど。別に高級っていうほどじゃありませんよ」


「...やっぱ金持ちは感覚バグってるわ」


まだ消灯時間ではないため部屋で木野田さんと適当な雑談をしていた。


すると部屋の中にほかのルームメイトが入ってきた。


「お、来たな」


ルームメイトの一人は特にこれといった印象がありません。ただギャル一歩手前みたいな雰囲気は感じます。

もう一人は眼鏡をかけていて失礼ですけど、教室の端の方で読書してそうな女の子です。


松瀬まつせ吉岡よしおか。こいつが今日から一緒の部屋で過ごす夜崎だ」


「よろしくお願いします」


木野田さんに紹介されたので頭を下げてお辞儀する。


「...どうでもいい」


「よ、よろしくお願いします...」


反応はいまいちですね。


「あんまり気を悪くするなよ夜崎。松瀬は誰に対してもさほど興味を持たない性格なんだ。吉岡は人見知りが激しいからな」


「は、はぁ」


吉岡さんは何となく理解できるが、ふつうギャルというのは反抗期だけど明るい性格だとずっと思って来たんですか。


「松瀬、お前またこんな時間にコンビニ行きやがったな」


「別に、あんたに関係ないでしょ」


「関係あるよ。夜10時を過ぎたら外出禁止っていう規則があるのはお前も知ってるだろ?もしこのことが四三川先輩になんてバレたら連帯責任として私ら全員一日中風呂や各部屋を掃除させられるぞ」


やっぱり四三川先輩は厳しい人のようです。


このご時世に連帯責任なんて導入してる時点で時代遅れです。


「...もしバレても私一人で罰を受けるつもりだから大丈夫だよ」


これは驚きました。

周りに対して無関心といわれていましたけど意外と仲間思いの一面も見れるようです。


「そ、それよりも私お風呂に入ってもいいですか?」


突然大きな声で吉岡さんがしゃべり始めた。


「もうこんな時間か。じゃ松瀬と吉岡はもう風呂に入ってくれ」


「ふ、二人で入るんですか!?」


あまりの驚きに思わず声を上げる。


「?そうだけど?その方が時間も短縮できて効率いいだろ」


「そういうことを言ってるんじゃありません!」


いくら女同士だとしてもあんな狭い風呂に二人で入るなんていやらしいにもほどがあります!

私は兄さん以外とは一緒に風呂に入る気はありません!


とはもちろん言えなかった。


本当に松瀬さんと吉岡さんが二人で風呂に入っていった。


「...まさか私も木野田さんと一緒に入るんですか?」


「当然だろ?」


「絶対だめです!!」


もう夜遅いのに大声で怒鳴ってしまった。


「なんだよいきなり。女同士なんだしこれが普通だぜ?」


「全然普通じゃありません!夜崎亭みたいな大浴場だったらまだわかりますけどこんなクソ狭いお風呂で二人で入るなんて持ってのほかです」


「...お前さらっとこの寮のことを馬鹿にして屋敷の自慢しやがったな」


「とにかく私は一人で入ります!!」


「夜崎がそこまで言うなら別に強制はしないけどよ...ひょっとして大好きなお兄ちゃん以外とは一緒に風呂にはいれないとか?」


「!?」


にや着いた笑みを浮かべる木野田さんの問いに答えられない私。


「......」


「え?マジ?お前そこまでブラコンだったの?」


ちょっと引いたように私のことを眺めてくる木野田さん。


「そ、そんなことは今はどうでもいいんです!とにかく私は一人で入ります」


「そ、そうか。じゃ私は今から入ってこようかな」


「それって三人で入るってことですか?」


「そうだよ」


いや、そんな当たり前のように言われても


「じゃちょっくら入ってくる」


そう言うと木野田さんは本当に風呂の中に入ってきた。

しかも途中でドアが開けられても全く悲鳴が聞こえてこない。


「......」


私はただ黙って三人が出てくるのを待っているしかありませんでした。


「じゃあ夜崎のベットはそこねぇー」


「そこねぇーじゃありません!なんで木野田さんはパジャマを着ないんですか!」


あれから三人が出てきて、私が一人でシャワーだけ浴びてもう寝ようとしていた時に、いきなり木野田さんがパジャマを脱ぎ始めた。


「だって今の時期って熱いじゃん?明日は普通に練習があるから早く寝るためにパンツ一枚でいいかなーって」


木野田さんの体はテレビで見るような女子陸上の選手のようで、筋肉があらわになっていた。


「別に女の裸なんて見たところで何も変わらないだろ。何だったら夜崎も脱いでみるか?」


「結構です!」


そう言って木野田さんの体から目を外すように布団に潜り込んだ。


「消すぞー」


木野田さんの声がすると部屋の電気が消えて思いのほか真っ暗になった。


布団の中で、ホームシックではないが兄さんの顔を思い出して思わず泣きそうになった。


「兄さん、私この夏休み中にそっち系の趣味にはまってしまうかもです...」

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