屋敷での四人の朝

「...うん?ここは」


目覚めた場所はどう考えても自室じゃない。


「そうだ、確か昨日ずっと赤条寺とあの死にゲーをプレイしてたんだ」


赤条寺はベットで寝ていた。

てかなんだ俺は床で寝てるんだ?


「そういえば今何時だ」


スマホの時計を見ると


「げっ!?もう朝ごはんの時間すぎてる」


これはやばいな。

もう芯珠さんには俺が自室で寝てないというのはバレただろう。


急いで食堂まで行くと芯珠が食堂を掃除していた。


だがいつもより少し掃除の仕方が強い気が...


「お、おはよう芯珠さん」


「おはようございます澪未矢様。今日は随分遅いお目覚めですね」


じーっと俺の方を見つめてくる芯珠。


やっぱりこれは怒ってるな。


「そ、それよりも今日の朝食は」


「澪未矢様がなかなかお目覚めになられないので、私一人で召し上がりました」


この口調はだいぶ根に持ってるな。


「わ、悪かったよ。実は昨日は」


「遊び場で朝方まで赤条寺様とゲームをなさっていたんですよね?」


全部お見通しとは。


「澪矢様、今は神楽様に勉強に励むよう命令されているのはご存じですか?」


あれって命令だったの?

やっぱりこの家における権力は俺より神楽の方があるようだ。


「先輩、もう起きたんですか?あ、芯珠さんおはようございます」


「...おはようございます赤条寺様」


赤条寺の姿を見てますます機嫌が悪くなっている。


「それにしても昨日は激しかったですね先輩。ベットの上だとあんな獣に豹変するんですね先輩って」


「な、なにを」


何を言ってるんだこの生徒会長は!?


芯珠の方を向くと顔を赤くして黙りこんでいる。

まさか信じてる?


「れ、澪未矢がそんなことするわけありません!そんな女性に性的苦痛を与えるなど」


もう言い回しが信じてる奴の言い回しなんよ。


「なんだか朝から騒がしいですわねぇ」


その時、玄関の方から久しぶりに聞く声が聞こえてきた。


「おはようございます澪未矢さん、芯珠さん、そして」


栄那が赤条寺の方を向く。


「確かあなたは生徒会長ですわよねぇ?こんなところで何していらっしゃいますの?」


「貴女が先輩の許嫁ですか」


え?なんで栄那が許嫁だって知ってるの?


「なぜ私と澪未矢さんの関係をご存じなのかはわかりませんけど、まぁいいですわ。それよりも芯珠さん?お客様が現れたのですからお茶の一つでも入れるのがメイドという者ではありまして?」


「...はい、ただいまお持ちします」


どんどん芯珠の機嫌が悪くなっていく。


「そうそう、わたくし少しあなたに訊きたいことがありますの」


栄那が赤条寺に訊きたいこと?

いろいろとありすぎてどれのことか分からない。


「確かあなた、前にわたくしと澪未矢さんの食事を邪魔しましたわよね?それと休日に澪未矢さんとどこか遊びに行きましたわよね?」


やっぱそのことか。


「別に先輩と私が一緒に食事をしようが遊びに行こうが七桜さんに関係はないと思いますけど」


「それが大ありですわ。わたくしと澪未矢さんの許嫁である身。そのわたくしに何の断りもなく食事をしたり遊びに行ったりするのは常識に反していますわよ」


「そんな許嫁ばっかり言っていると、最終的に先輩よりスペックの高い男性にNTRれてどんどん人生が転落していくざまぁ展開の主役みたいですよ」


ここでも高性能の煽りを披露するか。


「どうやらその口調にも品がないようですわね」


やばい。

栄那が本気で怒ってる。


「そもそも勝手に玄関に入ってくるエロゲの非常識のヒロインみたいな人に品がないなんて言う資格はないと思いますけど」


「ふふふふふふ」


まずい!

栄那が小さく笑うときはもう放送事故レベルに怒ってる。


まぁ赤条寺が言うことも正論ではあるが。


「紅茶をお持ちしました」


一触即発寸前に芯珠が紅茶を持ってきた。


多分タイミングを見計らったのだろう。

流石メイドだ。


「...まぁ今回は芯珠さんの紅茶のできに免じて許して差し上げますわ」


それで許すのもなかなかおかしな話だがとりあえず一件落着。


「とこれでわたくし澪未矢さんにも訊きたいことがありますの。本来それが目的でお邪魔しましたわ」


俺に訊きたいこと?

なんかあったか?


「澪未矢さん、前回の期末テストの成績を見せてほしいのですけれど」


「!?」


そうだ忘れてた。

俺の成績を機にかけてるのは神楽だけじゃなく栄那もだった。


「い、いや成績は」


「こちらが澪未矢様の今回の成績です」


ちょっと芯珠!?


「ほうほうほうほうほう」


ほうを連呼しているということは少なくとも俺の成績に満足しているわけじゃなさそうだ。


「...澪未矢さん、これは少しわたくし直々にお勉強を教えて差し上げる必要がありますわ」


ですよねー。


「栄那様、私もお供もさせて頂きます」


やっぱり芯珠は朝のことをまだ許してないらしい。


「それなら私も一応生徒会長だし先輩の学力向上に貢献しますよ」


これはお前のルートだぞ!?


「さぁそうと決まれば勉強部屋まで行きますわよ澪未矢さん」


「...はい」


どうやら俺の夏休みは本当に勉強漬けになるそうだ。

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