祭り
「ほら先輩、祭りの明かりが見えてきたでしょ?」
「おお、ほんとだ」
今の時刻は午後7:00。
俺と赤条寺は歩いて祭り会場まで向かっている。
「それにしても二人がかりで挑戦したのに何も取れないとは思いませんでしたよ」
赤条寺が拗ねているのはゲーセンのクレーンゲームのことだ。
あの後俺たちはフィギュアをあきらめて別の台に移動したが案の情何も取れなかった。
挙句の果てにはお菓子の台にも移動したが結果はZEROだ。
今日だけで5000円はなんくなった気がする。
「先輩はノベルゲームだけじゃなくてアクションゲームをもっとやるべきです。それこそ私が日々プレイしている死にゲーを」
「でもお前、クリアしてないだろ?」
「まさか私が生放送でプレイしたけど難しすぎて最初のチュートリアルだけで心を折れてそのまま売りに行ったヘタレ実況者と同じだと」
「そんなことは言ってない」
そう言いながらももし赤条寺がゲーム実況者になったらそういう展開も起こりうるかもしれない。
「そういえば先輩、ちゃんと祭りで遊ぶためのお金残っていますか?」
「ああ、一応まだ余裕はある」
神楽からかなりの額のお小遣いをもらっているため金に困る必要はない。
兄が妹からお小遣いをもらっているっていうのも十分おかしな話だが。
「ほんと先輩って金だけは持っていますよね。先輩はよく恋愛映画に出てくるチャラ主人公に婚約者を奪われる性悪な成金野郎がお似合いです」
今は俺がNTRれる側に回っているがな。
会場に着くともうあたり一面が屋台だらけだ。
俺も夏祭りには何回も行ったことがあるがこんなに賑やかなのは初めてだ。
「先輩、まずは定番に綿あめを食べに行きましょう」
まさかわたあめ一つで500円もするとは。
流石に今回は俺のおごりではなく赤条寺もお金を出した。
「...あんまおいしくありませんね」
そういうのはもっと屋台から離れてから喋れ。
「じゃ次は腕試しとして射的でもしますか」
これも定番だな。
まずは俺からということで、ここは倒れやすい飴の缶を撃ってみる。
「...意外と倒れないな」
流石にこれはダサいので一応倒れるまで撃ち続けた。
結果1000円近く失った。
「まぁ先輩がFPSゲームでいつも角芋ショットガン戦法をしているのは予想できましたけどまさかここまでとは...」
確かにFPSゲームをするときはいつもショットガンばかり使っていたがなるべく前線に出るようにはしていた。
「じゃ私はあのデカい熊の人形を撃ち落としますね」
赤条寺が狙っているのは多分この景品の中で一番難易度が高い景品だろう。
「大丈夫か?お前の腕だとあれを落とすのに10000円近く失いそうだぞ」
「失礼な!5000ぐらいで撃ち落とせます」
5000でも明らかに損だが。
「はい、お嬢ちゃんざんねーん」
「もう一回です!」
結果このやりとりが30回ぐらい続いた。
...まさか本当に10000円近く失うとは。
「まぁ私からしてみたら10000なんてドブ金同然です」
それは俺のセリフでは?
「それよりも先輩。お面でも買いませんか?」
「お面?」
赤条寺がお面なんか欲しがるのか?
「私のクラスは文化祭でお化け屋敷をすることになったので怖そうなお面を探してるんですよ」
なるほどそういうことか。
「それにしても高いな」
毎回気になっていたんだが祭りのお面ってなんでこんなに高いんだ?
一枚1000円近くするなんてぼったくりだろう。
とりあえず赤条寺は鬼のお面を買い、俺は変なアニメの女の子のお面を買わされた。
「そういえばもうすぐ花火の時間ですね」
「花火」
「この祭りに来てる人のほとんどが花火目的で来てるんですよ」
夏祭りに花火は定番中の定番だな。
ぞろぞろと人が増えていく。
これも多分花火の時間が近いからだな。
赤条寺が花火の見えやすいところまで移動しようと提案したとき。
「夜崎~こっちこっち」
「!?」
ふいに俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと木野田さんペースが速いですよ」
...なんかどっかで聞いたような女の子の声が聞こえてきた。
「あ、すみません横通ります」
そうって俺の横を通り過ぎようとする”どこかで見たようなことがある”女の子”
俺はとっさにお面をかぶる。
「?あのすみません...私たちどこかで...」
勘鋭すぎだろ!?
「夜崎ー。こっちだって」
「あ、はい、今行きます」
女の子が通り過ぎようとする。
「ちょっと澪未矢先輩!何してるんですか、早く来てくださいよ」
バカッ!なんでこういう時に限って名前呼びなんだよ!
恐る恐る女の子の方を見ると
「......」
あ、完全にこっち凝視してるわ。
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