勉強スケジュール

「...もう朝か」


スマホのアラームで起きた。

夏休み一日目の始まりである。


まぁ俺の場合は実質夏休みじゃないが。


「それにしてもみんなは友達とどっかに出かける予定とか立てていていいな」


もし神楽からの罰がなかったとしても俺が遊べる友達は長谷川ぐらいだ。

その長谷川も塾の夏期講習でなかなか遊べないが。


「それにしても寮に何しに行くんだ?」


神楽は自分が聖神女子の寮に行くから俺の監視を芯珠に任せると言っていた。


「つまり今この屋敷にいるのは俺と芯珠の二人だけということか」


そう考えると何とか不気味である。


よく夜になると屋敷の当たるところから音がする。

これはどこの家でもそうだと思うが屋敷になると回数がけた違いに多い。


そうなると自然なことだと思っていても余計に怖くなってきてしまう。


一人暮らししていた時は大体寝るときにエロイことを想像してなるべくそういうことを心霊現象だと結び付けないようにしていた。

だが最近はエロ不足なので想像もできない。


「ただ今一番怖いのは神楽が組んだ俺の一日のスケージュールだよな」


正直逃げ出したい。

ただ芯珠から逃げらるとも思えない。


「この約1月は勉強漬けになってしまうのか?」


間違いなく俺の人生で一番勉強する月になるだろう。


受験生時代の夏休みはずっと家でエロゲかラノベか同人誌という選択肢だけだったからな。

勉強という選択はなかった。


「澪未矢様。朝です、お目覚めになられてください」


ノック音と真珠の声がする。

やっぱりいつもの芯珠が起こす時間より少し早い。


「もう起きてるよ」


「そうですか。それでは1階にお越しください。朝食の準備はもう整っています」


いつもより仕事が早いな。

おそらく朝早くからお勉強タイムが始まるというわけだな。


いつも通り朝食を食べる。


もちろん芯珠も俺の真横で食事をとる。


食事が終わり、片付けも終わる。


「澪未矢様。それでは今日のスケジュールをお伝えします」


ついに来たか。


「まず、今から12:30分はひたすら暗記科目を勉強し、1:00から国語、数学、英語をそれぞれ3時間勉強せよとのことです」


「......」


予想以上だ。


「...マジ?」


「マジです」


表情一つ変えずに冷酷にそう告げる芯珠。


「ただ、もし澪未矢様の体調がすぐれないようでしたらこのスケージュールは中止し、直ちに私の澪未矢様の介抱スケジュールを組みますが」


そうなると別の意味で危ないような気がする。


「い、いや特に体調は悪くはないよ」


「...そうですか。なら早速澪未矢様の部屋に行き暗記科目のお勉強を始めましょうか」


「えっと、芯珠さんはずっと俺の部屋にいるってこと」


「はい、澪未矢様の真横でいつ体調が悪くならないかを監視いたします」


神楽に命令された内容からだいぶ遠ざかっている気がするが。


それから本当に12:30まで芯珠の監視のもとひたすら暗記科目を勉強した。


「それでは澪未矢様。昼食はもう朝の時点で仕上がっておりましたので下までどうぞ」


「そ、そうですか」


今更だが芯珠は本当に優秀なメイドだと思う。


多分ここに来る前は一流層が集まるホテルのホテルマンとかやっていそうだ。


「昼食はスパゲッティとなっております」


そう言って渡されたのはそこら辺のコンビニで売っているスパゲッティとはけた違いの出来だった。


「では、私も澪未矢様様のお隣で召し上がりましょう」


そういえば芯珠の年収とかはいくらぐらいなのだろう。

ホテルマンがどれぐらいの年収かはわからないが、そこをやめてまでこの屋敷に仕えているということはそれなりに年収が高そうだ。


やばい。ちょっと聞きたくなってきたぞ。


「そういえば芯珠さんって、どうやって生計を立ててるの?」


だいぶ失礼な言い方になってしまった。


「私は生計を立てる必要はありません。私もこの屋敷を寝床として暮らしています。いつも神楽様や澪未矢様の食事の食材は雫様の会社の下請けの会社から屋敷に届いています」


そういうことか。

たが、それはただ働き同然なのでは?


「報酬など私は気にしておりません。私はただ夜崎家、そして澪未矢様に仕えているだけで満足です」


模範的な回答だ。

ただおそらく嘘はついてないだろう。


「それでは澪未矢様、また自室にお戻りになられてください。次は3科目をそれぞれ3時間ずつ行ってもらいます」


実質9時間ぶっ通しで勉強しろということだ。

確か人間の集中力って1時間も持たないんじゃなかったっけ。


それから本当に9時間も勉強した。


途中で少しでも寝そうになったら耳元で「澪未矢様」っと色っぽい声で囁かれるためいやでも目を覚めてしまう。


「......」


10時になるころにはもう何も考えられなくなっていた。


流石に9時間ずっと集中して勉強していたわけじゃないがそれでもつらい。


「澪未矢様、お疲れさまでした。この後は夕食を召し上がりになりますか?」


「ああ、今はとりあえず何かを口に含まなくちゃいけない」


「かしこまりました。澪未矢様ならそう言っていただけると信じておりましたのでもうすでに夕食はできております」


「それは助かる」


そのあとは神楽がいないこと以外はいつも通りの夕食の時間を過ごし、風呂にも入った。


「こんな生活があと30日以上も続くのか」


これなら夏休みなんてない方がましだな。


まだ釖竜さんの公民の補修の方が楽そうだ。

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