妹の説教

「......」


もし小学生低学年ぐらいの国語の問題で今の俺の気持ちを色で表すと何色か?という問題が出題されたら、答えは濁った緑色である。


子どもの時によくいろんな絵の具の色を混ぜると何色になるのか?という実験をした時にも、最終的には濁った緑色になった。


今の俺の心はまさに濁った緑である。


「...まさかほとんどのテストが平均点以下だったとは」


そう。

俺の気持ちが濁った緑色になった理由は今日のテスト返却が原因である。


どの教科もある程度手ごたえがあったが、結果は見事に爆死。

まさかのクラスの中でも半分より下になってしまった。


「なんでほとんどのテストが平均点からマイナス3ぐらのギリギリの点数なんだよ」


もし、赤点を取っていたらまだネタになっていたかもしれないが、平均点からちょっと下の点数が一番気まずい。


ちなみに長谷川は日本史以外は見事にクラス最高点をたたき出した。


だが日本史だけは俺より低く、それが原因でクラスTOPは取れなかった。


言い訳はいつも通りである。


俺がただ平均点より低い点数を取ったという事実だけならここまで落ち込んだない。


何より恐ろしいのは今回のテスト結果を神楽に見せないといけないということだ。


神楽にみっちり教え込まれた英語は平均点は63.5点で俺は59点だった。


個人的には上出来な方かと思うのだが、聖神女子に通っている神楽からするとそうもいかないだろう。


多分何にもお咎めなしとはいかないだろう。

来週から夏休みのため朝からみっちり神楽と勉強とかもあり得るかもしれない。


そうなったら俺の精神が崩壊するのも時間の問題だ。


こうなったら芯珠に何とかしてもらうしかないな。


「あ、あの芯珠さん?」


「はい、なんでしょうか」


「多分今日テストの結果を神楽に見せることになるんだろうけど、ちょ、ちょっとその時に俺のフォローとかを...」


「お断りします」


即答!?


「それは澪未矢様のためになりません。それに自分のことを自分でフォローするということは自己肯定感を高めることにつなっがっています」


口ではこんなこと言ってるけど多分内心では芯珠も俺が低い点数を取ったことを怒ってるんだろうな。


「私は決して澪未矢様を咎める気はありません。むしろ澪未矢様にこんな思いをさせた自分を恨んでいます」


もう口調がいつもより明らかに冷たいのよ。

芯珠も自分の主人がこんな点数をたたき出したことに相当ご立腹な様子。


車から降り、屋敷の門を開ける。


「あ、お帰りなさい兄さん。今日はいつもより6時間も早いんですね」


もう授業が午前中で終わるため当然である。

ただそれをわざわざ6時間と詳細に言ったということは今神楽は限りなく冷酷な思考をしているということだ。


「それでは兄さん、中にどうぞ」


「は、はい」


屋敷の中に入った瞬間逃げるように二階から逃げようとした俺を


「兄さん、こんな早い時間から私たちが一緒にいられることはないんですから居間で紅茶でも飲みませんか?」


「いや、ちょっと用事」


「飲みますよね?」


「はい」


しっかりと逃げ場をなくす神楽。

どうやら今日のルートは分岐点がないみたいだ。


「相変わらず芯珠の腕は一流ですね」


「はい、ありがたきお言葉です」


「それで兄さん、今日はテストの返却があったそうですね」


早速本題かよ。

こういう時は世間話から入るんじゃないの。


「よくご存じで」


「ええ、成陸学園にいる何人かの監視役...ではなく私の友達に聞いたことですが」


このセリフ前にも聞いたぞ。


「...返ってきました」


「そうですか。ではまずそれを見せていただけますか」


もう抗えないな。


「か、神楽、成績を見る前に今回俺が本当に勉強したのは分かってるよな?」


「はい、私が丸一日使って兄さんに英語を教えたんですから。高得点に決まってします」


...逆効果だった。


「......」


神楽はずっと無言で俺の成績表を凝視している。


「...兄さん」


「は、はい」


「何か弁解はありますか?」


「...ありません」


「そうですか。それなら」


すーっと息を吸う神楽


「いったい何をやっていたんですか兄さんは!?」


屋敷全体に響くような声で怒鳴ってきた。


「~~~いや、俺だってもうちょっと取れると思ったんだが」


「言い訳は結構です!結果がこうして出てるんですから兄さんのが努力不足だっただけです!」


なんていう実力主義者だ。


「もう兄さんにはこの夏休み期間ずっと勉強してもらいます。芯珠!」


「はい」


「貴女はずっと兄さんが勉強しているか監視しなさい。本来なら私がやるべき役割ですが、私は少しこの夏休み中は聖神の寮に行かなければなりませんから」


いつもの神楽とは思えないほどの早口だ。


「明日までに兄さんの一日ごとのスケジュールを組んでおきます。兄さんはそのスケジュールに従うように!」


「は、はい」


「それじゃ私は一足先に部屋に戻ります。新たにやるべきことができましたから」


そう言うと神楽は自室に向かった。


こうして俺の夏休みは実質消え失せた。


それにしても神楽が照れながらも怒る姿はかわいいな。

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