許嫁と学食で
「おい澪未矢、お前今日はまた栄那ちゃんと...っておい!今日は随分と急ぎなんだな」
長谷川にはすまないが今日は学食までダッシュでいかなければならない。
朝栄那と学食で食べさせ合いっこをする約束をしてしまったため、早く学食に行きなるべく人が集まらないうちに引き上げる作戦だ。
「まぁそんなうまくいくとは思えないが」
栄那のことだからそんなすぐに教室に戻らせてくれるとは思えない。
おそらく学食でイチャイチャするのを強要ぐらいはしてきそうだ。
「...もう俺がファンクラブの連中に粛清されるのは決定事項なのかな」
そもそもあいつらは俺と栄那の関係を知っているのだろうか?
いや、おそらくまだ知られてないはずだ。
もし俺と栄那が婚約関係だなんて知られたら暴動が起きると思う。
「てかこの学校無駄に大きいからどこが学食か分かりずらいな」
私立なのにあまり綺麗じゃないが、大きさだけは一人前だ。
トイレが綺麗なのは幸いだが。
「お、あそこだな」
ようやく学食らしき広場が見えた。
だが気のせいだといいのだがなんかめっちゃ人が集まってる気がする。
「え、栄那!お待たせ...」
栄那の姿を見つけたのでその周りは女子生徒であふれていた。
おそらくあれが俗に言う栄那ファンクラブの館員たちなのであろう。
「あら、澪未矢さん」
栄那が俺の姿を見つけこっちに手を振る。
その瞬間周りにいた館員たちも一斉に俺の方を向きまるでゴキブリを見るかのような嫌悪感あふれる目で俺の方を睨みつけてきた。
「...!」
ファンクラブの館員たちをこんなまじかで見たのは初めてなので、その寒気がする視線を前にして逃げたくなる。
「?どうしまして澪未矢さん。早くこっちに来てくださいまし」
栄那が手招きをする。
「あ、ああ」
俺が栄那に向かって一歩一歩踏み出すのにつれ周りの目線の敵意がどんどん増していくのが感じる。
「これが今日のお弁当ですわ」
映奈に渡された弁当は相変わらず可愛い。
今日はおにぎりの上のノリでクマさんの形をしている。
「い、いただきまーす」
こうなったら栄那にあーんされる前に勢いで食べてしまおう。
「何一人で食べようとしていますの澪未矢さん。わたくしがあーんして差し上げるって言いましてよ」
まぁ止められるわな。
「じゃまずこのクマさんの目の部分を」
そう言ってせっかく自分で一生懸命作ったクマの目の部分を抉り出す。
「......」
これが弱肉強食の世界か。
「はい、澪未矢さん。あーん」
栄那から差し出された瞬間に、射殺されそうな雰囲気が食堂を覆う。
そのあまりにも物騒な雰囲気の影響で、ほかの生徒が食堂から逃げて行った。
...食べるしかないのか?
「ほら、あーんです澪未矢さん」
こうやって躊躇している間にも周りはアサルトライフルやショットガンを出してきそうな雰囲気が増してくる。
「ハイ、アーンデス」
ここは腹を決めるしかないのか。
「アーンdeath」
「!?」
さっきから周りからの視線ばかり気にしていたが今の状況はなんか一番栄那がやばいオーラを放っている。
「ん」
このままではいけないと思いとっさにスプーンを加える。
「どうでして澪未矢さん」
「さ、さすが栄那だな!こんなおいしい白飯食べたことないぞ!」
「ええ、ええ、そう言ってくださると思っていましたわ!」
とりあえず栄那の様子が元に戻ってよかった。
ただ周りが...
「「「「......」」」」
あれ?幻覚だと思うが本当に手に拳銃らしきものを握っているのが見えるぞ?
「さ、次は澪未矢さんの番でしてよ」
「そ、そうだな」
もう一つの関門として俺も栄那にあーんをしなくてはならないのだ。
よくよく見ていたら館員の子たちが手に握ってるのは銃ではなく学校に持ってくるような文房具だった。
定規やら分度器やらコンパスやらホッチキスやらハサミやらカッターやらを持っている。
...これは逃げた方がいい?
「さぁ早く澪未矢さん」
「あ、ああ分かってるって」
とはいってももたもたしてるとまた栄那がやばいオーラを放ってしまうためぐずぐずとしてられない。
「は、はい、あ、あーん」
栄那と同じようにクマの目の部分を乗せる。
「んんんんん!」
加えると栄那が可愛らしい声を出す。
...ただちょっと声が大きいですよ。
「澪未矢さんがあーんしてくれると自分で作ったものが格段と美味と感じますわ!」
それはよくあることだ。
「さ、次はわたくしのバーンですわね。はい、あーん」
こうして俺たちは昼休みをあーんだけで使い切った。
昼休み終了前のチャイムが鳴る。
「あら、もうこんな時間でしたのね。残念、もっと澪未矢さんと学食でイチャイチャしていたかったのに。まぁそれはまた次の機会に、それじゃ後の片づけはわたくしがやっておきますから澪未矢さんは教室に戻っててくださいまし」
せっかく栄那がそう言ってくれてるので一足先に教室に戻ることにする。
「...ちょっと夜崎君、話があるのだけれど」
夜崎といわれるのは初めてなので後ろを振り返る。
するとそこにはファンクラブの館員の子たちが何人かいて俺に話しかけてきたのはそのリーダー的な子だった。
「さすがに今回は堪忍できないなー...って待て!逃げるな」
気づけば無意識に俺の足は動いていた。
どうやら俺の本能が生命にかかわると判断したのだろう。
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