妹と許嫁

風呂を上がり、まさかの芯珠に体を拭いてもらい自室まで戻ってきた。


「本当はまだ眠くないけど、寝転んだ方が考え事ができるっていうしな」


ちなみにこれは底辺大学生が勉強をサボる時に使う言い訳である。


「それにしてもこのベットは寝心地がいいな」


よくよくベットが人間をだめにするというが本当そのとおりであると思う。


多分主人公があんまり頭がよくないのもこのベットが原因なのだろう。

...俺の場合は布団だったが。


「あれ、そういえばあんまエロゲ要素がないな」


肝心なことを忘れていたが、この世界は”エロゲ”の中である。

つまりエロ要素がないと成立しない。


「......」


そういうシチュエーションを想像してみる。


例えば今神楽が夜這いに来るとか...?


普段はあんな神々しい笑みを放っている妹が夜になるといきなり襲ってくるってシチュエーションなんて理想的すぎる。


「芯珠夜這いに来るのもいいな」


そもそもエロゲのメイドなんてそれが定番だろう。


「まぁそんなことはありえないな」


おそらくまだ序盤なはず。

序盤からそんな展開があったら尺が足りなくなる。


「もし本当にそういう展開があったら...//」


と思いつつも期待しないなんてできない。


「まぁ来たら来たらで全然俺はかまわないが...いや、来てくれ//」


さぁ来い!俺の貞操はもう覚悟を決めてるぞ!

そう決意しながら待って、待って、待ち続けて


朝になった。


「......」


そんなシチュエーションがこんな序盤から起きるわけがないとはわかってはいたが。


「失礼します。澪未矢様、朝です」


当たり前のように入ってくる芯珠。


「もう朝食の準備は出来上がっていますのでどうか下...澪矢様?」


「ん?」


「少し目の下にクマができているようですが」


「ああ」


当然だ、あれから待ち続けていつに寝たかもうおぼいてないからな。


「大丈夫でしょうか。今日は学校はお休みになられた方が」


「いや、いい」


ことあるごとに学校を休ませようとしてくるな。


「そうですか。では下までお越しください。神楽様がお待ちしておられます」


待っているということは今日は朝食も一緒に食べるのか?

それはそれで気まずいが。


「あ、兄さんおはようございます」


神々しい笑みを放つ神楽は食堂にいた。


「澪未矢様、こちらです」


芯珠に案内されたのはやはり神楽の目の前の席だった。


『いただきます』


昨日は芯珠も一緒に朝食を食べたがさすがに神楽がいるとそうもいかないらしい。

...確かに何となくだが神楽の前で俺と芯珠が体を密着させながら食事したらただじゃすまない気がする。


『ごちそうさまでした』


今日は昨日よりは早く食べ終わった。


会話は特になく終始気まずかったが。


「兄さんごめんなさい。今日私は日直当番なのでもう出ますね」


ずいぶん早いな。

もしかして聖神女子はここから少し遠いのか?


「それでは兄さんまた夕食の時に」


「あら?もうお出かけになりますの?」


突然、この場の温度を一気に下げるかのような声が聞こえた。


玄関の方を見るといつの間にか栄那が入ってきてた。


「栄那様、お入りになられるときはチャイムを」


「まぁ芯珠さん、そんな細かいことはどうでもいいじゃありませんの。それよりも残念ですわ。最近あまり話せていなかった神楽さんと話すいい機会だと思いましたのに」


「...あなたと話すことなんてない気がしますが」


凄いな。

あの神楽が敵意むき出しになっている。


「いや、そうはいきませんは。何せわたくしは澪矢様のい・い・な・ず・けである身。その妹とコミュニケーションをとろうとするのは普通のことではなくて?」


絶対に煽っているだろう。


「...まだ私はあなたが兄さんの許嫁であるのに相応しい女性だとは思ってませんが」


「なんですって?」


栄那が煽り口調をやめて一気に絶対零度のような声と視線を放つ。


「今のは聞き捨てなりませんわね。まさかあなた、両家の意志に背く気ですの」


「私はただあなたが兄さんの許嫁として相応しくないと言っただけですが?」


だがそれに負けじと相変わらず冷たく低い声で言い返す神楽。


流石に止めなきゃまずいか?


「とにかく私はあなた如きの相手をできるほど暇ではないのでもう行きますね。それじゃ兄さん、行ってきます」


切り替え早!


「本当にいちいち癇に障る女ですわね」


神楽の背中をずっと睨み続ける栄那。


「......」


そしてそんな栄那を汚物でも見るかのような冷ややかな目線で見つめている芯珠。


...どうやら俺は場違いのようだ。

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