幕間4

魔が差した

それ以外に言い様が無い

私はあの子を好いている

恋をしているかは分からない

想像をしてみよう

あの子がもし、他の誰かとピクニックに行ったら

後日、楽しかった?と聞くだろう

あの子がもし、誰かに写真を教わっていたら

面倒をみてくれる人が増えて良かったねと思うだろう

あの子がもし、恋人が出来たのだと言ったら

私は、素直に喜ぶだろう

喜んでしまうだろう

ただ、後輩に好きな人が出来て、それが成就したという事を、喜ぶだろう

恋とは、誰とも共有したくない感情だと、あの子は言った

独り占めしたいのだと

ならばきっと、私はあの子に恋をしていない

好いているのは確かなのに

あの子からの恋心は、決して不快ではないのに

私はどこまで行っても、無性愛者だった

そうだ、不快では無かったんだ

むしろ純粋に好意が嬉しかった

だから調子に乗って、あんな事をした

私はただ、自分に酔っていただけなんだ

誰かに恋されて、その恋心を満たす事が、多少は出来て

自分が普通の、一人前の人間になれた気がして

個人的な欲を満たすために、あの子にあんな事をした

自分のしたことは、異性なら立派な犯罪だ

いや、同性であってもそうかも知れない

冷静になって考えれば、許されることではない

行動自体も、その裏にあった自分の感情も

「・・・謝らないと」

ちゃんと謝って、終わりにしよう

残酷な事をしてしまったあの子の恋を、せめて出来るだけ綺麗な形で終わらせよう

それが、自分に出来る唯一の事だった

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