挑戦
「こんな所あったんですね」
「穴場で良いでしょ。人口密度低くて落ち着く」
確かに駐車場には車がずらりと並んでいたが、広間に出てしまえば驚くほど人が少ない
ほとんどが家族連れのようだが、充分静かに過ごせる雰囲気だ
「先輩人混みとか苦手そうですもんね。自分で見つけたんですか?」
「昔から父親に連れられてたの。近くに海があってさ。釣り人だから、父親」
「うわぁ、先輩のお父さんとか超見てみたい」
そう言えば、写真も父親の影響って言ってたっけ
わたし達は車からカメラ類だけを持ち出して、公園の端にある森林エリアを目指す
今日の目的は、写真専門学校の学生らしく自然豊かな公園で野外撮影である
「彩羽、あんた専攻どうすんの」
「うっ、まだ決めてない、です・・・」
正確には覚悟が決まらない、だけど
先輩は別にわたしにダメージを与えたかった訳じゃ無くて「私は風景撮るけどアンタ付き合ってて大丈夫?」の意味だ
わたしは先輩の事理解してるから大丈夫
言葉の裏の優しさまで完璧に汲み取って見せる
「先輩はなんで風景選んだんですか?」
「やりたかったから」
「一番参考にならない返事だぁ」
ちなみに、うちの学校は就職率が100%ではない
スタジオゼミや広告ゼミに進めば職業人としての側面が強くなるが、風景・動物ゼミは一番アーティストとしての側面が強くなる
それ以外は大抵それなりに安定した就職先があるが、逆に言えば先輩のゼミは圧倒的に堅実な将来性が無い
「あんた、風景か動物やりたくて学校入ったって言ってなかった?」
「確かにそんな事も言ったかもですけど・・・」
「やりたいならやれば良いじゃん」
「簡単に言うなぁ、この人」
先輩なんて見ていれば、あっという間に自信なんて無くなる
この人は学校で浮いているけれど、孤立してはいないのは実力があるからだ
一年の夏、先輩は全国的に大きな大会でU20部門の大賞を獲った
それがどれだけ凄い事か、専門に入ってから思い知った
「要は自信無い訳?」
「そう、なりますかね」
「じゃあ作ろうか、自信。それから専攻決めればいいじゃん」
「・・・具体的には?」
「10日後締め切りの手頃なコンテストがある。あれ一次審査の結果出るのめちゃくちゃ早いし、ちょうどいいでしょ」
10日後締め切り
それってつまり確か
「先輩が、去年大賞獲ったやつ・・・?」
「ああ、そう」
ケロっとした様子で先輩は答えた
先輩にとってはホントに「手頃なコンテスト」なんだろうな
格とか気にする人じゃ無いから、多分手続きとか的に
「写真さえあればすぐ出せるから。今日撮ればいいじゃん、作品」
「そう、ですね」
「ま、やるかやらないかはアンタが決める事だけどさ」
「・・・・・」
コンテストは学校の成績になんの影響も無い
応募しなくたって学校は卒業出来るし、真面目にゼミへ通えばそれなりに写真で食べていける所へ就職出来る
でも、先輩に前で二択を提示されて
後ろ向きな選択なんて、してられない
「やる。やります」
「よし。まずは森歩くか。その内撮りたいものが見つかるから」
「はい・・・!」
先輩は何処となく上機嫌だった
わたしたちは二人して一眼カメラに広角レンズを装備して歩く
森林エリアは自然保護を兼ねているらしく、見慣れない植物や種類豊富な動物たちがいる
作品を撮るにはうってつけだった
カメラを構える先輩の表情はいつだって真剣で
いつもの切れ味のある冷たさと堅さの中に、光のような高揚が宿るような
いつもは無い子供のような無邪気さと好奇心
その欠片を先輩の中に見つけるたびに、胸がなんとも言えない感情でいっぱいになる
ずっと先輩だけを眺めていたい衝動に駆られたけれど、まずは自分の事だ
わたしだって結果を出さなければ
いつかこの人が、手の届かない遠くへ行ってしまう
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