5話

六月も残すところ五日となり、そろそろ気が滅入る梅雨の季節


今日とて安定のじめじめとした曇り空


わたしはクローゼットの前に立ち顎に手を当て、ふむ、と一人でに呟いた


広くない私室のクローゼットはやはり狭く、ぎっちぎちに洋服が詰まっている


自分で買ったものやプレゼントで貰ったものもあるが、半数以上が姉からのお下がりだ


あの人の中で洋服の断捨離とは、わたしに押し付ける、という意味である


わたしが服を捨てられないタチである事も知っているくせに


邪魔な服たちを搔き分けつつ選んだ今日のコーデは涼しい半袖Tシャツとキュロットパンツ


編みこみのベルトがアクセントだ


着替えたところで体温調節に若干の不安を覚える


いくら蒸し暑いとは言え、帰り道雨に濡れたら寒いだろうか


わたしはもう一度クローゼットと向き合い、二秒迷った末に薄手のジャケットを引っ張り出して腕に掛けた


自室の二階から階段を駆け下りてリビングへ突入


家族に行ってきますを言いながらリュックを掴み玄関へ急いだ


電車が出るまであと8分


最寄り駅までは急ぎ足で7分だから、急がなければ最後は走る事になってしまう


それでも玄関前の姿鏡でチェックを忘れずに


髪型OK、メイクも薄くふんわりと


服もバッチリ。リュックも背負った


小学生の頃ランドセルを背負い忘れて学校へ行って以来、最重要チェック項目だ


わたしが朝家を出るのは父に続いて二番目


目の前の扉の鍵は開いている


わたしはもう一度行ってきますを言ってから、勢いよく玄関の扉を開けた

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