第8話  三賢人の入れ替え

 ここでちょっと、寄り道をしましょう。


「今回、新たに三賢人のお一人として着任されることになりました、エリサーシャ・フレイドル様です。皆様、ご挨拶を」


 メアリ・タオが学び舎で劣等生をやっていた頃、銀の森の本殿ともいえる光の神殿で、三賢人の入れ替わりがあった。

 今回、三賢人の筆頭として迎えられたのは、先代の三賢人の孫で、彼女のための執務室を新たに建築されたのだった。


 これだけでも彼女が、光の神殿にとってどんな大事な人材かわかるだろう……

 大勢の人が、彼女の前にひれ伏した。

 中には昔、彼女にこの神殿には、二度と近づくなと言った者もいた。

 しかし、彼女には過去のことなどほんの些細な事だった。

 昔、自分より偉かった神官や巫女が、どんなに頭を下げようとも、彼女は冷たくそれを見ていただけだった。


 彼女の心は八年前に止まっていた。

 彼女が正気を保っていたのが不思議な位だと、周囲の者も思っていた。

 夫が癒しの魔法を持っている。そのおかげでこれくらいで済んでいるに違いない。

 それでも、顔は凍り付いて、表情を出すことは出来ない。


 これ以上、故郷のデュール谷にいたくない。そう、祖父と父に相談した時に、祖父から光の神殿の三賢者の入れ替えの話が来た。

 賢者の座に固執するあまり、婚期を逃した巫女が遅い結婚退職を願い出たとか……


 彼女の魔法使いとしての評価、過去の経歴が評価され、賢人として君臨することになったが、彼女は一つも嬉しくはなかった。


 彼女の登用には、光の神殿側にもう一つ思惑があった。


 ロイルの長が病弱を理由に、大事な会議などに出てこないのだ。

 そして、彼女は長のかつての想い人だった。

 神殿側の思惑は大当たりで、今日は会議だという日は、昨日まで寝込んでいたというのに長は、一番前の席で手を振っている。

 彼女はそれを見て溜息をついていた。


 彼女には魔法は日常のことであった。育ったところは魔法で溢れていた。13歳以以巫女になるべく育てられ、西域で修行した。

 帰還した後、幼馴染と結婚をしたにに……幸せな時間は僅かだった。


 一連の挨拶が終わると、エリサは外の空気を吸いに外に出て来た。

 案の定、長も後から着いて来る。


「ついて来ないでよ!」


「つれないですねぇ……折角、また会えたのに……」


「駄目よ!!」


 冷たい声で、長を突き放す。



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