第9話  メアリ・タオと紅玉の森

「ね~ちゃん!!頼むよ!!エメルダね~ちゃん!!」


 シンヴァは、メアリ・タオが自分が字を読めないことを打ち明けた後、メアリ・タオの学び舎への長期欠席の願いを出した。

 学び舎に知られずに、教育し直すためだった。


 その為に、シンヴァは、同母の姉のエメルダを頼った。

 姉のエメルダは、シンヴァよりも八歳年上で、五人の母でもあった。

 そして、ここ紅玉の森の領主夫人だ。


 銀の森の南方に位置する、紅玉の森は、その名の如く紅玉に実る果実の取れる地で、先代のミルドラン長の愛した土地でもあった。

 姉が嫁したロラン・ラルクは、今長の異母兄でもある。


 シンヴァの家はナムラ砂漠の中規模オアシスのラ・ムゥ・オアシスだ。

 父は、族長のすぐ下の弟だったが早逝しており、母は、第一夫人だったが、父の亡き後、族長の第三夫人になっていた。


 だが、父には自分を含む九人の子宝に恵まれており、父の美貌をもっとも受け継いだ、同じ母を持つエメルダは、ロイルの神殿と伯父の族長の命令で、当時の長の長男に嫁がされたのだ。


 これには、神殿側の思惑が大きく働いている。

 姉が嫁したのは、わき腹と言えどロイル家の人間だった。

 長は独身を貫いているが、先々のことは分からない、義兄に余計な権力を与えまいとする神殿側の考えは、すぐに分かった。


 だが、義兄と姉の夫婦仲は睦まじく、五人の子宝にも恵まれていた。


「そう言ってもね、末のエリーニはまだ五歳で手がかかるのよ。」


 昔よりも幾分、ふっくらとしてきたが、美貌は健在だ。


「そう言わないで~手はかからないからさぁ~ただ、こいつに家族ってものを教えたいんだ。ついでに、勉強も教えてくれ~エリーのついでで良いからさ~~姉ちゃん~~」


「誰が姉ちゃんなの!!姉上と呼びなさい!!あなたは、くさってもラ・ムゥ・オアシスの族長の弟の子息なのよ!!」


 シンヴァお得意のお願いポーズもこの姉には聞かないことが多い。

 しかし、今回は状況が違う。

 こちらも死活問題だった。メアリ・タオから魔法使いの素質を感じたのだ。

 だからこそ、あんな辺鄙な谷から連れ出してきたのだ。

 その責任は自分にあった。


「まぁ、良いではないか。」


「ロラン義兄上~!!」


「五人も六人も同じだ、娘は一人だし。喜ぶだろう……?」


「あなたは、シンヴァに甘過ぎです……仕方ないわね……」


「有難うございます~良かった~これで心置きなく、仕事に専念できる」


 シンヴァは、心から喜んだ。

 エメルダがフッと溜息をついて、タオに聞いた。


「それで、メアリ・タオ・ミラベルだったわね?五歳かしら?六歳かしら?」


「タオはもうすぐ八歳よ。」


 シンヴァ以外固まった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る