第14話  銀髪男子、騎士団に入る

「君が、騎士の最弱王に負けたっていうマルティーニ・ラルク?」


「悪いよ、ジェド……」


 マーティンの前に二人の男前の大人がいた。

 二人とも、マーティンを見てクスクス笑っている。


「レ・ナンは騎士歴は長いんだけどね……」


「弱いから、君の相手にあてがったのに負けるとは思ってみなかったよ。」


 こらえきれずに、明るい金髪の方が噴き出した。



「こら、クライヴ!!」


「あ~ごめん!!ごめん!!ジェド、この子が例の子なの?」


「そうだよ」


 剣の実技の試験で、見習いの騎士二人に立て続けに負けたマーティンは、騎士歴10年以上の騎士と打ち合いになったのだった。

 だが、この恰幅の良い騎士にも呆気あっけなく負けたマーティンは、周囲を驚かせた。

 それは、レ・ナンという騎士がまだ、正騎士にも聖騎士にもなれていない一介の騎士で、史上最弱の騎士だと呼ばれていたからである。


 落ちた!!と思って、荷物をまとめている時だった。

 周りは、マーティンには同情というより、こんな奴がよくこの場に来れたなという声の方が多かった。

 着替えを終えて、家へ帰ろうとしていた時に、


「マーティン・ラルク!!団長がお呼びだ。団長の部屋に行くように。」


 騎士見習いの鉢巻きを付けた少年がマーティンを呼びに来た。


「クライヴ団長が!?何の用ですか?」


「俺は何も聞いていない。団長の部屋への案内を頼まれただけだ」


 どう見ても、マーティンと同じくらいの年頃だった。


「君は、いつ入団したんだい?」


 マーティンは、たまらずに訪ねてみた。


「三年前から、ここの下働きに入って、去年ようやく入団を許されたよ。お前みたいに、いきなり試験に臨む者は少ないぞ。」


 やはりそうなのか……と、マーティンはガックリと肩を落とした。

 いや、僕だって準備はしてきたはずだ。

 剣術の教師が手加減してたのか……?

 ラルク家の者だから?


「ここだ」


 騎士見習いの少年が廊下の一番突き当りの部屋をノックした。


「クライヴ団長!!マーティン・ラルクをお連れしました」


「ご苦労。マルティーニ・ラルク、ここへ来なさい」


 部屋には金髪を短髪にしている団長と、団長より淡い金髪を後ろで束ねた、銀色の瞳の男が部屋の中央の椅子に座っていた。


 そして向かい合って笑われた。


 マーティンは、もう1人の男が魔法使いだという事がすぐに分かった。

 聞いたことがある……

 当代のロイルの長は、見事な銀髪と銀色の瞳をしていて、綺麗な呪文を操って魔法を使いこなすと……


 兄弟の中で1人だけ、ロイル家を匂わす髪の色のせいで母には申し訳なく思ってきた。

 だからこそ家を出て、自由になりたかったのに……


「どうして、そんなに頭を刈ってるの!?伸ばせば綺麗な銀髪じゃないかな?長と対抗できるよ」


 長と言う言葉にドキリとした。


「なるほど……ラルクって姓でまさかと思ったけど、君がロラン殿の息子かぁ……」


「父をご存じで……?」


「僕が、君の父上と母上を引き会わせたんだよ」


 ジェドはニッコリと微笑んだ。


この人が(「神殿の予見師?」)マーティンは、咄嗟に思い当たった。


「ねぇ、この子の何処が特別なのさ~」


 クライヴ団長が焦れてきたようである。


「マーティン、君に関わることちょっと、視せてね」


 団長はウィンクしてきた。嫌味なく似合っていた。


「はい、はい。魔法剣のディマ・ヘッセルかな?が視える……

 どこの神殿かな~?分からないけど~う~ん、君も、視えない事が多い人だね~さすが、ロイル家の血を引いてるだけあるよ~」


 聞いていたマーティンは、イライラした。

 ラルクとか、ロイルとかいい加減にして欲しいものである。


「それ、関係ありませんよね」


「これが結構、ロイル家の血筋ってのがれられないんだな~僕だってそうだモン」


 ジェドは、笑っていた。


「後、それからね~君、五人兄弟で、女の子が一人って聞いてたけど?二人視えるんだ?彼女、誰?」


「叔父の連れて来た女の子ですよ。なんか、世話になってた家で、食事もろくにもらえてなかった可哀そうな子です」


 ジェドの水晶には、メアリ・タオのアップの顔が映し出されていた。


「名前は?」


「メアリ・ミラベル。今年、10歳のはずです」


「違うんじゃない!?」


「えっ?」


「自分のこと、タオって呼んでるよ」


 ジェドはニンマリとしていた。マーティンはあんぐりとした。


「彼の水晶占いはとても良く当たるんだ。」


 クライヴ団長が言った。


「まぁね」


 と、ジェド。


「君を騎士団に入れるかどうかの判断材料にはなるから」


「というわけで、入団おめでとう、マーティン君」


 再び団長はウィンクしてきた。


「はぁ!?」


 訳が分からないうちに、マーティンの入団は決まっていた。

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