第25話  魔法剣、ルシーガ

「こら~~!!メアリ・ミラベル!!剣を戻しなさい!!」


「やっ!!」


 次の日、タオを起こしに来た神官はビックリである。

 タオは、魔法剣を抱いて眠っていたのだ。


「ねぇ、この剣をタオにちょうだい!タオね~この剣を持ってると、とっても安心するの~」


「馬鹿か!!それは、神に奉納された魔法剣だ。人の扱う者でもない!!」


 目覚めたタオは、剣を放そうとはしなかった。

 神官が、小さなタオからヒョイと剣を抜き取って元の置き場所に戻しておいた。


「この紅石の剣は特に魔力の強いと言われている逸品だ。一介の学び舎の学生風情が一生かかっても拝めるものではないのだぞ」


「でも、タオは欲しいの!!誰に頼めばいいの!?神殿で一番偉い人?それとも長かな~?」


「お二方とも、忙しい!!お前如きのお願いなんか聞くか!!」


 それでも昼まで粘ったので、神剣の間から追い出されてしまった。

 タオはしつこく、神剣の間の前で扉が開くのを待った。


 タオには、紅石の声が聞こえていた。


「外に出たいんだよね?」

 

 <こんな所は飽き飽きだ。俺を自由にしてくれたら、守護してやるよ。俺は火竜の一番弟子のルシーガだ。>


「タオはね、メアリ・タオ・ミラベルって言うんだよ」


 <違うな。お前の本当の名は、そんな安っポイものじゃない>


「タオはタオだよ~」


 <いや、お前は本当のお前を知らないんだ>


 今度は、タオの大きな独り言が不気味がられて、夕方にはシンヴァが呼ばれた。


「勘弁してくれ~昨日の今日だぞ~俺は休みで寝てたのに~」


「あっ!!シンヴァさん!!どうしたの~~!?」


「お前が神剣の間の前で大きな独り言言ってるって、気味が悪いって呼ばれたんだよ。魔法剣を欲しがったんだって!?それで気を引くためにやってるんじゃないかってさ。お前がそんな子じゃないことは知っている。何があったんだ?」


「ルシーガがここから出たがってる」


「へっ?」


「だから、魔法剣のルシーガが、ここから出たいって言ってるの!!」


 シンヴァが聞き返したものだから、タオは大声で言い返した。


「「「え?魔法剣がここを出たい!?」」」


 と、今度はシンヴァが、大声をあげてしまった。


 厳粛かつ神聖な場所であるべき神殿でこんな大声を出したシンヴァは、すぐさま神殿を追い出された。

 そしてタオは昨日、光の神殿で見かけても声をかけないでと言われた、エリサと再び会うことになってしまった。


 神殿の間での騒ぎが彼女の耳まで入ったからである。


 メアリ・タオ自身すら知らない、タオのまとっていた気配を消すために、神剣の間に入れたのだ。

 そうしたら、それ以上に能力を開花させたようである。

 エリサは、神剣の間へ急いだ。

 神剣の間の前にはたくさんの巫女や神官が集まっていて、メアリ・タオが一人で涙をこらえながら、踏ん張っているのが見えた。

 10歳といえ、こんなに大人に囲まれれば怖いだろうに……


「エリサ様です」


 お付きの巫女の掛け声で周りの者はひれ伏し、タオは一人ボ~っと、立っていた。


「また、あなたなの?問題を起こすのが好きみたいね?」


 ちょっと、意地悪を言ってみた。


「タオは本当の事しか言ってないモン」


「それで?魔法剣がここを出たいですって?」


「うん!」


 三賢人の一人、エリサは神剣の間の扉を開けさせた。


「では、メアリ。どの魔法剣が言ってるの?」


 その言葉に、タオは真っすぐにルシーガの所へ行った。


「これ!!タオ、この剣が欲しいの」


「これは……」


 エリサは、ルシーガをメアリから受け取ると言葉を失った。

 父の作である。

 気性が荒い、火の精霊が炎華石に閉じこめてある。

 一介の魔法使いの手には余るという事で、封じたのだ。

 そして、奉納された。

 この精霊ならば、自由になりたいと言うかもしれなかった。


「この炎華石と話はしたかしら?」


「はい、エリサ様。えんかせき……?」


「この石の名よ。炎華石はあなたに名を言った?」


「ルシーガだって言いました」


 エリサは、魔法剣とメアリ、タオを交互に見た。


「……合ってるわ。この魔法剣の銘はルシーガだけど、精霊の名もルシーガなの」


「じゃあ、タオがもらってもいい?」


「なぜ、あなたにルシーガが、反応したのかしら?確かにあなたには、火の力の魔力は感じるわ……」


 エリサは、天井を仰いでしばし考えて言った。


「約束して、ちゃんと一人前の魔法使いになるまでルシーガと契約をしては駄目よ」


「はい」


 メアリ・タオは、エリサから魔法剣のルシーガを受け取った。




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