第23話 シンヴァ、呼び出し
シンヴァはその日、光の神殿で三賢人とロイルの長に呼び出されていた。
メアリ・タオに復学が許されたのは、シンヴァの子供だと思われていたわけで、シンヴァは、ロイル姓を頂く優秀な魔法使いだ。その親族ならば、魔法学を習わせる価値があるだろうが、親子ではないという。
まだ、ひよっこの魔法使いで、ろくな禄も神殿から出ていないような状態で、学び舎の高い学費を親でもないシンヴァに、払わせるのはどうかという話になったからだった。
「長にご挨拶申し上げます。シンヴァ・ロイルです。」
「なかなか、ご活躍だそうですね、あなたのことは良く耳に入ってきますよ。」
「あ……あの風の噂なんかじゃなく……?」
「精霊は、嘘は言いませんよ。人の噂より確かです。その年でなかなか危険な仕事にも手を出しているとか……?」
長は銀色の瞳を細めて、優雅に笑った。
美しい……
昔のねーちゃん以上に綺麗だ。
ストレートの銀髪も、整った顔立ちも、今までで見た人間の中で一番だった。
長は、病弱なのを理由になかなか館から、出てこない……のに、押して光の神殿にいる……
三人の賢人は、長の後ろに控えていた。
「君とは、義兄弟の間柄でしたね。」
「えっと……そうですね。ねーちゃ……姉上の夫君が長の兄君でしたっけ」
「そうですよ、今回、君の周りのことを調べていたら、変な事まで分かりました」
「はぁ?」
シンヴァには何の事か分からない。
「ラルク家の子供たちの事です。何か行き違いがあったらしくて、僕が紅玉の森に閉じ込めていると思われているみたいでした。」
「えっと……?」
長は眉間にしわを寄せると、言った。
「男の子は良いんです。自分で道を切り開けますから。でも、女の子のルルティアは、リーフスの貴族に養女に行かせて、のちのちジェド(予見師)に頼んで良縁に恵まれるように配慮したつもりでしたが……
ルルティアが泣いて暴れるので、養子の件が無くなりました。
ラルク家ではロイル家の名がついて回るから少しでも自由にしてあげたかったのに……」
長は、深いため息をついた。
「め……面目ないです……(「ルル、何をしとるんじゃ~」)」
レディを自負するルルティアが暴れたのか?と思いつつ、シンヴァは長の寂しそうな麗しい顔に同情した。
「それはそうと、メアリ・タオ・ミラべルはあなたの子供ではないのだとか?」
「はい。違いますけど?」
「メアリ・ミラベルに魔法使いの素質があると思って、カルガ谷から連れて来たのですね?」
シンヴァは、全て調べられていることに驚いた。そして頷いた。
長は静かに言った。呼吸が荒い。体調が良くないのかもしれなかった。
「メアリには、確かに精霊が視えているようなので、才能があると思われます。彼女は10歳であの大きさだと、先祖返りの可能性もありそうですが、カルガ谷は隠れ里だそうですね。」
「そうだと思います。自分たちの神しか受け入れる気はないと言ってました。」
「そうですか……しかも結界師のあなたを連れた旅で、見つけてきた子という事ですが、彼女の親は、本当にいなかったのですね?親戚に邪険に扱われていた子だという事で間違いないですね?」
「はい。」
「分かりました、シンヴァ・ロイル。メアリ・タオ・ミラベルの処遇は、これからは神殿預かりとします。あなたはもう、彼女の学費の為に危険な仕事をしないで、今後は経験を積んでください。魔法使いは経験が一番です。腕が良いと思っているでしょうが、上には上がいるものです」
「じゃあ……タオは……?」
「学費免除で、学び舎で授業を受けられます」
シンヴァは心の中で(「ヤッターッ!!」)と叫んでいた。
「メアリの支えには、なってやってくださいね。」
ここまで話すと、長が盛大な咳をしたので、黒い髪の治療師が出てきて、光の神殿での接見はこれまでとなった。
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