第22話 メアリ・タオ、嫌われる
「今度、メアリにも母様を紹介するわね。」
レフスリーアは愛くるしい笑顔で言った。
タオも嬉しくなって、
「うん!」
と、答えた。
そしてその日は、意外に早くやって来た。
レフスリーアの母で、三賢人のエリサ・フレイドルは、自分の職務が暇な時は、自分の娘であるレフスリーアのところに、できるだけ顔を出していた。
そのせいで、レフスリーアは、賢人エリサの娘であることがバレて、彼女は学び舎から一目置かれる存在になってしまった。
が、それもレフスリーアの計算の中に入っていたらしく、彼女は伸び伸びと、完璧な優等生を演じていた。
半月後の学び舎が休みの日に、エリサの仕事が一段落したと連絡が来たのだ。
そして、その日にレフスリーアは母に友人を紹介したいと、手紙を出しておいたのだった。
メアリ・タオはドキドキであった。
光の神殿の三賢人と言えば、世界に三人しかいない世界を動かしている人だ。そんなすごい人がレフスリーアの母ちゃんなんて……
エリサは、綺麗だけれども普通の人だった。もっと凛々しい戦士みたいな人を想像していたので、ちょっと、拍子抜けしてしまった。
「レフィシア~」
「母様~」
レフィシアは母の胸元に飛び込んでいく。
エリサは、娘を抱きしめた。
抱きしめた手には力が込められていた。
「母様、痛いわ!!もう!!」
「ああ~ごめんなさいね。レフィシア」
「約束したわ、私はここで良い子にしてるって」
「良い子過ぎるみたいね、あなたは。父様の学び舎時代の話を聞くと、凄くヤンチャだったみたいよ」
レフスリーアと二人で笑っていた、エリサを見て心底羨ましいと思ったメアリ・タオである。
タオは母親を知らない。
生んですぐにカルガの谷へ帰って来て、死んでしまったと聞いている。
(「谷でもみんなには、母ちゃんがいた。タオ以外の子にはみんなにいたのに」)
「母様……この子よ、同室のメアリ・ミラベル。」
ボ~っとしていたタオはいきなり、紹介されてビックリして顔を上げた。
「ミラベル……?グレではないの?」
冷たい声だった。
「違います。賢人様にご挨拶申し上げます。メアリ・タオ・ミラベルです。復学を許していただきありがとうございます」
「シンヴァ・グレの子供ではなかったの?」
エリサは、驚いていた。
クルクル変わる表情はレフスリーアに似ていた。
「何処の出身なの?」
「カルガ谷っていうところです」
タオは、緊張して棒読みだ。
「そんな所は知らないわ。あなた……何処の国の生まれなの?」
これまた、タオは答えに困ってしまった。
自分は何処で生まれたのかを知らなかった。
ただ、生れたばかりの赤ん坊のタオを、母ちゃんがカルガ谷に連れて来たことしか知らない。
「あなたには、ロイルとは違った匂いがするわ……精霊に好かれないのはそのためよ」
セレシアは冷たく言い放った。
メアリ・タオは
「「では、どうすれば精霊と仲良くなれますか?」」
突然のことにエリサは、驚いた。
「「「私に近寄らないで!!」」」
今まで聞いたことのない、拒絶の言葉と魔法だった。
エリサの言葉でメアリ・タオは軽く、部屋の隅まですっ飛んでしまった。
「エリサ!落ち着いて!」
壁に頭を打って、意識がもうろうとしていた時に聞こえて来たのは、銀髪の長の声だ。
一瞬の暗闇の後、すぐに意識は取り戻したが、頭がガンガンと痛かった。
「これでも……抑えてるのよ……あの子を光の神殿の神剣の
「神剣の間ですか?」
長は、驚いたように言った。
「そうよ、
「それで、メアリが変わりますか?」
長がエリサに聞いていた。
「変わるはずよ、そんなに酷い気配じゃないわ。育った所の場所の所為かもしれないわ。シンヴァ・グレに事情を聴かなければならなくなったわ」
「無理は止めましょう」
長の言葉を無視し、エリサは、レフスリーアに言った。
「帰るわ。レフスリーア、また来るわね。でも、今度からその子を私に近付けないでちょうだい」
「母様……メアリは悪くないわ」
「分かってるわ。でも、今の私には、無理なの分かって……」
タオのことは、黒髪の人が駆けつけてくれて診てくれた。
「運が良かったね。たんこぶ一個で済んで」
三賢人のエリサが長と面会室を出る時に、メアリ・タオに謝って来た。
「メアリ・タオ、謝るわ。御免なさい、一つ聞くわね」
「は……はい?」
メアリ・タオは痛む頭を擦りながら立った。
「タオは3の意味よね?故郷には、メアリ・ウァム(1)やメアリ・マット(2)もいるってことかしら。」
「はい、います。メアリ・ウァムは従姉です」
「そう……もういいわ。光の神殿で私のことを見かけても話しかけないでちょうだい。」
タオはガビ~ンとショックを受けた。
この銀の森で、ロイルの長の次に偉いと言われている三賢人の一人に嫌われたらしい。
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