第17話  風の女戦士、エウレカ

 水の主を完全に味方にしてしまった(本人の意思とは関係なく)マーティンは、治療師としての才能ありと認定されて、薬草取りの係を仰せ付かる様になった。

 谷長の館から北に半刻行くと、小高い丘があり、そこに薬効のある草や、花が咲いていた。

 マーティンの近頃の日課は教えてもらった花と草を籠一杯に採っ帰ってくることだった。後は、元、騎士隊長のレフが、打ち込みの相手をしてくれた。

 が、騎士団の最弱王に敗れたマーティンは、ここでも弱くカ~ルく負け続きだった。


 日ごとにボロボロになっていくマーティンを見て、レフは溜め息をついていた。

 気になっていることがあるからだ。

 レフの頭上がスカスカである。髪のことではない。

 銀の森生まれのレフの契約精霊のエウレカという風の精霊が、数日前からレフの頭上から消えていたのだ。


 そして今エウレカは、マーティンの周りをうろついていた。ハッキリ言って今のレフには、精霊の契約などはどうでも良かった。

 魔法使いであった頃、騎士であった頃は、エウレカはよき相棒であった。

 でも、谷長になる時に、谷の守りの玉石を受け継いだ。


 マーティンは、治療院に帰ると、毎日違う精霊を侍ら《はべ》していると言われた。

 だが、マーティンは水のぬしの時で懲りている。

 精霊と契約なんかしたら、どんなトバッチリに合うか分からない。


 <ねぇ、ねぇ!あんた、守護の森から来たんだって?あたいが契約してやろうか!>


 いつの間にか下級の精霊の姿を見せなくなり、清々していたところに子供くらいの大きさの半透明の精霊が声をかけてきた。

 マーティンはビックリである。

 大きさは子供くらいだが、姿は、大人で出ている所は出ている。しかも裸だ。

 長い透けた金髪?に見える髪を伸ばして隠すべき所を隠していた。


「僕は、守護も契約もしない。ただのマーティンでいい!」


 <可愛い~!レフの子供の頃に似てるね~~>


「谷長の守護精霊だったのか……?」


 その精霊は、首を振った。


 <今もレフの契約精霊よ~>


「精霊って、2人も1人で守護できるのか?」


 エウレカは、マーティンの前に笑い転げて落ちてきた。


 <そんな基本的な事も知らない……ダメ!!お腹痛い……>


「だから僕は、魔法使いじゃない!!ラルク家のマーティンだ!!」


 <それ、本名じゃないんだよね~?>


 エウレカは不服そうだった。


「やっッパリ、本名じゃなきゃ契約出来ないんだろ」


 マーティンは意地でも言う気はない。

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