第12話  銀髪男子の憂鬱

ルルティアとメアリ・タオが午後の礼儀作法の勉強をしている間、次男のマーティンと三男のマーゴットは剣術の稽古をしていた。


まだ、11歳のマーゴットはともかく、14歳のマーティンは、かなり腕をあげており、ロイルの騎士団である守護の森のクライヴ騎士団に入ることを、目標としていた。


兄弟の中で一人だけ髪の色が違う、マーティンは髪の色が分からないくらい短髪にしていた。

銀髪は、父のロランの家系に良く出る髪の色だ。

父が自分を見る目が、悲しそうな事を彼は理解していた。

せめて、父と同じ薄茶色の髪の色だったら、どんなに良かったか……

マーティンはよく思ったものだ。


タオが来てから、視線を感じるようになった。

そして視線の先には、メアリ・タオがいた。


「なんだ?また、メアリか。僕に用か?」


タオ(3)という番号を名前に入れるのは非人道的という教育方針で、タオのことをメアリ・タオと呼ぶことは両親から禁止されていた。


「お兄ちゃん、綺麗~~」


ウットリと見つめてくる、メアリ・タオ。


「お兄ちゃん。どうして、そんなに綺麗な髪なのに、伸ばさないの?」


綺麗と言われて、喜ぶのは女だけだ。と、両親からの教えられていたのにと、マーティンは頭に手をやると、ボリボリとかいた。


「銀髪は目立つからな。魔法使いと間違えられるのも面倒なんだよ」


「聞いたよ、お兄ちゃん。来年には騎士団の試験を受けるんでしょ?」


「母上に聞いたか?」


「うん、それでね~お兄ちゃん、伸ばしてね。髪の毛」


「えっ?」


メアリ・タオは、澄んだ真っすぐな瞳でマーティンを見つめていた。

タオは嘘を知らない。綺麗なものを正直に綺麗と言ってしまえる性格なのだ。


マーティンは、ある意味この小さな少女が羨ましかった。

紅玉の森に半ば幽閉されている両親、自分たち兄弟の進路も、神殿の思惑が絡んでくるのだろう。

全て、父の血筋のせいだ。

この世界のほとんどの国が信仰する、聖なる光の神、イリアス・ロイルの直系の家系で、今長の兄だという厄介な立場にいた。


何も囚われないメアリ・タオはマーティンには一種の憧れだった。

完璧なレディのルルティアは可愛いが、何の迷いもなく、懐いて来たメアリ・タオは違った意味で可愛かった。


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